13-7
――御守家玄関前。
ピンポーン。
「うぃ~す。まな~、さや~、きたぞ~」
無限コーヒー塗り塗りをしていてできあがったコーヒートーストをさっさと結に食べさせ、そこにたどり着いた俺がインターホンを鳴らすと、すぐに、ドタドタ、と駆け寄ってくる足音が聞こえ、ガチャリ、とドアが開いた。
「いらっしゃいませ! 亮さま、結さま、お待ちしていました! ……って、あれ? そのお顔はもしや、お二人もそう(、、)なんですか?」
出迎えたのは、俺たちとは正反対にいつもどおり元気な様子の明だった。ちなみに自分の家にいるのだからもちろん私服姿で、なんか腰の部分は細いけど、下に行くほど、ブカブカ~、になってるズボンを履いてて、上は上で、ヒラヒラ~、ってしたのが付いた……
……。
すまん。ファッションセンスの欠片もない俺が説明したところで分かりにくいよな? とにかく、私服姿だった。ちなみに俺は半そで半ズボン。結は……わ、ワンピース??? ……だ。
……。
おおっと! そんなことは毎回どうでもいいとして、出てきて一番のセリフの最後が妙に引っかかった。俺はすぐに聞く。
「顔がそう(、、)、ってのは、寝不足のことを言ってる、ってことでいいんだよな? ……しかし、俺たちも(、)、とはどういうことだ? 見た感じ、お前はいつもどおり元気みたいだが?」
そう。先に説明したが、明はいつもどおり元気な様子だったのだ。目の下にクマがあるわけでもないし、元気なだけで徹夜明けのテンションというわけでもない。少なくとも、とても寝不足であるようには見えなかった。
「ああ、いえ、も(、)、というのは、私も、ということではなくてですね……」
そう、呟いた直後だった。明は何やら遠い目をしながら体をどけ、部屋の中を手の平で差したのだ。その瞬間、俺は、明の言葉の意味を理解することになった。
「…………」
そこにいたのは、下は普通のスカートを履いてて、上は肩ヒモ(?)の部分に、ヒラヒラ~、ってしたのが付いた、若干薄着な私服姿の愛だった。
……服に対する俺の説明のつたなさは、まぁこの際置いておくとして、それを見ていったい何が分かったのかというと……べつに、服装自体には何の問題もなかった。
ただ……。
ちゃぷ、ちゃぷ、ちゃぷ、ちゃぷ……。
……。
ただ、その様子……行動が、普通ではなかったのだ。
というのも、だって、味噌汁が入った椀に箸を突っ込み、それをずっと。そう、ずっとだ。目を半開きにしたまま、エンドレスにかき回し続けていたのだから……。
「……あー、えっと……」
まるで今朝の結の行動を彷彿させるような、愛の妙な行動……俺は静かに、明に聞いた。
「あれはいったい……な、何(、)だ???」
明は、困ったままの顔で答えた。
「……はい、おそらくは、あのお味噌汁を納豆か何かだと思ってかき混ぜ続けているのではないかと思われます。一応、納豆もちゃんと出してはあるんですけど……」
「……ずっとやってんのか? いつからだ?」
「今朝の、九時前からです」
「……そうか」
「……はい」
……。
……。
……。
……な? かき混ぜてる理由は別としても、も、の理由はすぐに分かっただろ? そういや愛って、普段の物静かな態度とは裏腹に、ゲームをする時になるとある意味我を忘れて、めちゃくちゃテンション上がっちゃうもんな。その分いつも後で後悔するんだけどさ?
つまり、と一応説明しておくが、愛も俺たちと同様にゲームをやり過ぎて寝不足になり、ちょっとおかしくなっちまった、ってことだ。ああ、ちなみに片手しか使えないはずの愛がどうやってゲームをやっているかについてだが……まぁ、それはこの後詳しく説明することとしよう。今はとにかく、愛をエンドレス混ぜ混ぜから解放させることが先決だ。
そして、改めて言わせてもらおう。
一日のゲームのプレイ時間は、ちゃんと守りましょう。
……今度のはいくら守れてない俺の言葉でも、ちょっとは説得力があったんじゃないか?
ちょっとだけ、な。




