12-17
「……あ…………」
……声が……出せなかった。
見れば、目の前には、ニコニコ、と、満面の笑みを浮かべながら俺のことを見つめる明。
そう、明は、幼き日の〝俺〟の言葉を、そのまま言ったのだ。
俺は続いて、伸ばしていた左手を見つめてみる。
すると……〝同じ〟だ。すぐに、そう思った。
結が愛に向かって伸ばす手と、
俺が愛に向かって伸ばす手。
その二つは……〝全く同じ〟ものだったのだ。
「気づきましたか? それなら……」
やれやれ。ため息をつきながら立ち上がった明は、次の瞬間。伸ばした俺の手に、そっ、と優しく、両手で包み込むように触れながら口を開いた。
「……今一度亮さまにお聞きします。愛が亮さまに言った〝救ってくれた〟という言葉……その言葉は、〝変〟、ですか……?」
「……」
変なんかじゃねぇよ! 全然……!
「だーっ!」
意味もなくそんな声を上げた俺は、明の手を振り払い、払ったその手を額に、パチン! と打ちつけて言った。
「……そっ、か……そうだったのか。愛は俺の父さんに対してじゃなくて、本当に、俺自身に対してそういう気持ちがあったからこそ、あんな言葉を口にしたのか……」
「やっと、認めていただきましたね」
はふ~。今日何度目かのため息をついてから明は続けた。
「まったく……亮さまの強情さも筋金入りで困りものですね~。もう少し素直になってくれた方が可愛げがあるというのに」
「ほっとけ」
言ってから、しかし……と俺は、明に聞いた。
「やっぱりスゲーんだな。家族の絆ってのはよ? お前、よくそんなにはっきりと、それこそ最初から一片の疑いもなく愛の気持ちを理解できたな? 悔しいけど。そこんところは尊敬に値するぞ」
「いや~☆ それほどですよ~☆」
……それほど、なんだ。
思うが早いか、「な~んちゃって☆」と明は、いたずらっぽく笑って話した。
「白状すると、確かにそう信じてはいましたけど、確信できる要素は他にちゃんとあったんですよ~」
何? 他にあっただと?
何だよそれは? 聞くと明は、今までは暗くて気づかなかったけど、ズボンの後ろポケットに入っていたらしい紙を広げて、それを俺に見せて渡してきた。
「ちょっと暗くて見えにくいですけど……あのゴミファイヤーの灯りで照らせば何とか見えるはず……っと! どうです亮さま? 読めますか?」
「ん……まぁ、なんとかな。……なになに? 【入場ゲート部門第一位・一年C組】……」
……。
「〝第一位〟!!?」
マジか! 驚いた俺はもう一度よ~~~~~っく、見てみたが、何度見てもそこに書いてある文字は変わらない。一年C組の作品……俺たちが作った作品は、堂々の〝第一位〟として。さらには二枚の写真付きで掲載されていた。
「ファーストミッション……初めて作って一位って……え? これって本当にスゴくね!?」
若干、どころかかなり。興奮してテンションが上がってしまった俺は、半ば慌てて明に聞くと、明は、ニッコリ、と笑顔だったものの、逆に落ち着いた様子で答えた。
「そうなんですよ~♪ 私もこれを知った時にはビックリしました☆ ――あ、ちなみにここも読んでみてください。ちょっと長いですけど、〝仕掛け〟のこともちゃんと気づいて書いてありますよ?」
「どれどれ?」
言われて、俺はそれを声に出して読んでみた。
「えーと……【針金や色紙等を使い、四体の天使と雲が表現され、飾られたこの作品の見所は、写真正面に向かってゲート右側の柱にいる、一体の翼が折れて地面に落ちてしまった天使と、上空からその天使に向かって優しく手を伸ばす、二体の天使の様子で、審査当初、審査員はこれを〝不屈の闘志〟や〝熱い友情〟と考えていましたが、それらを表現するにはあまりにも不適合な〝天使〟というキャラクターと、色紙を裏返しに貼り付け、薄くしか色が見えないという奇妙な飾り付けに疑問を持ち、低評価を下していました。しかし――】」
そう。しかし、だ。
ゲート左側の柱に一体。右側の柱に三体の天使がいて、その周りに雲が飾られた俺たちの作品には、それだけではなく〝仕掛け〟が施されていて、あることをするとそれが発動するように仕組まれていたのだ。その発動条件こそが、
「【〝陽の光〟だったのです】」




