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首を傾げる明。俺は、明の方を見ずに続けた。
「そう。優しすぎるんだよ、愛は。……考えても見ろよ。もちろん、時と場合にはよるんだろうけどさ、愛は俺が困ってたら、譬え本来の主人であるはずの結が俺に対して怒っている時でも、主人を裏切って……何て言葉を使っちゃ悪いが、愛は必ずと言いきってもいいほど、俺のことを助けてくれるだろ? 他にも、ほら。この間お前が愛のことをそそのかしてやらせたバツゲーム……俺の目の前で、自分のスカートを捲って俺に……そ、その……ぱ、パンツを見せる、っていうあれ(※【#10,御守家】参照)だ。あんなことだって、愛は嫌だなんて一言も言わずに、実際にやってみせるんだぞ? その後だっていつもと同じように、普通に笑顔で接してくるし……いくら優しいって言っても、普通に考えたらあんな態度とてもじゃねーけどできねーよ」
「……それが、いったいどう亮さまに影響を……?」
〝償い〟だ。
「……!!」
驚く明の顔を、今度はしっかりと……真っ直ぐに見て俺は話した。
「愛の態度はもはや、〝償い〟だよ。〝罪滅ぼし〟と言ってもいい。――俺の父さんが死んだのは、自分(愛)のせい。だから、自分(愛)は譬えどんな目に会おうとも、決して俺には逆らわないし、俺のためだったら何でもやる。何だってできる――下手をしたら、じゃないんだ。愛は、大げさでも何でもなく、文字もそのままに、俺のためだったら〝自身の命〟をかける覚悟が常にできてるんだよ」
「……」
短い沈黙。しかし明は、驚いた表情から一転。今度は真剣な目で俺のことを見つめ、話した。
「……ソレは〝愛本人〟が言ったんですか? 〝愛本人の口〟から、亮さまの言う〝償い〟だとか、〝罪滅ぼし〟だとか、そういう言葉が出たんですか?」
「……」
いいや。
そのことについてははっきりと否定してから、俺は改めて答えた。
「一言も、愛の口からはそんな言葉は出なかったよ」
「じゃあ、何て言ってたんです?」
即座に次の質問。俺はその質問にも素直に、そして正確に答える。
「……買い出しに出たあの日。愛から父さんのことを聞いた後に、俺は、何で俺みたいなやつにそこまで尽くすことができるのか? 直接愛に聞いてみたんだ。そしたら、愛から返ってきた言葉は……『亮さまは、私のことを〝救って〟くれました』……だとよ。だから、俺みたいなやつにも仕えるんだと」
「……〝償い〟と〝救い〟……意味が全然違うじゃないですか」
「……同じだよ」
真剣な表情のままの明に、俺は続けた。
「愛の言う〝救い〟っていうのは、あくまでも俺の父さんに貰ったモノのことで、俺から愛に与えたモノのことじゃないんだ。……父さんに対しては〝救い〟のお礼になるのかもしれないが、俺に対しては……そう。お礼は〝償い〟なんだよ」




