12-11
「まぁ、それはともかくとして、閑話休題だ。話を戻すけど……」
できるだけ自然に話を断ち切った俺は、そのまま続けた。
「実際、どう思う? 今の点数差から考えての優勝……」
「ん? あ……あー、そのことなら……正直のところ、かなりキビシイだろうな」
正確に言えば、と高利はどこからともなく体育祭のプログラム表を取り出して、それを俺に見せてきた。
「リレーの点数は、男女共に一位が五十点。二位が四十点と、順位が一つ下がるごとに十点ずつ減っていく。つまり、赤組が両方で一位。現在一位の緑組が両方でビリの五位になったとしても、差し引き八十点にしかならねーってことだ」
「……現時点ですでに点差は四十点……得点が大量に稼げる騎馬戦の結果によっちゃあ、このまま勝負がついちまう、ってことか」
「そういうことだ。まぁ、今騎馬戦は決勝戦。緑組対黄組をやってるところだし、黄組が勝ってくれりゃあ、あるいは……」
『ただ今の結果を発表します。勝者、〝緑〟組』
「……あ…………」
思わず、声が漏れてしまった。
俺はとっさに得点ボードが設置されているテントの方を見てみると、そこには絶望的な数字が示されていた。
赤組 554
青組 601
黄組 562
緑組 648
白組 523
「……終わったな」
高利が呟いた。
「これで最後のリレーが……仮に、さっき言ったような結果で終わったとしても、だ。絶対に緑組の点数は超えられない。唯一希望があるとすれば、最後に加算される非競技系の得点だけど……緑組との差はおよそ百点。埋まる気がしねーな」
「……」
確かに。
決して口に出しては言わなかったものの、俺はそう、心の中で認めてしまった。
仕方がない……だって、まさかこんなにも点差が開いてしまうなどとは思いもよらなかったのだ。それに、現実的に考えて、ここでまさか現在一位の緑組がよりにもよって最後の最後で連続最下位になるなどとは考えられない。緑組にはそれだけの戦力があったからこそ、今の順位がついてきているのだ。それを考えると、二位になることすら厳しいだろう。
……無理だ。
その結論に至った俺は、周りを見渡すと……どうやらそう感じ取ったのは俺だけではなかったようだ。見れば、大きなため息をつく者。落胆して肩を落とす者。ただ呆然と得点ボードを眺める者。そういった生徒が、どんどん増えていっていた。
「くっっっ!」
と、その中の一人が地面に崩れ落ちた。あれは……応援歌で会場を感動の嵐に巻き込んだ伝説の祈祷師・タッチーだ。
タッチーは、「くそっ!」と大声で一度、ならず二度、地面を力いっぱい叩き、涙ながらにこの場にいた全員に向かって話した。
「みんな、すまない……っ! 俺が、もっと……俺がもっと! 祈祷でみんなに力を与えていさえすれば、優勝できたかもしれなかったのに……ッッッ!!!」
タッチー……。
「「「「「…………」」」」」
…………誰も、何も言えなかった。
「この結果はタッチーのせいじゃない!」
「お前は何にも悪くねぇよ!」
そう、誰もが彼に声をかけてやりたかった。そのはずなのに、誰も、そう声をかけることはできなかったのだ。
「「「「「…………」」」」」
……長い沈黙が続く。だけど、時はそれを待ってはくれなかった。
『では、これより最後の団体競技、男女別チーム対抗リレーを始めます』
「……時間だな」
呟いたのは高利だった。
高利は、ポンポン、と俺の肩を軽く叩いて話した。
「行こうぜ、亮。なに、どーせ負ける戦いだ。テキトーに手を……つーか足を抜いて、そんでもってさっさと終わらせてこようぜ」
「…………あ……」
ああ。そう答え、立ち上がろうとした、
その時だった。




