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誰かがそう、呟いた。
……タッチー? タッチーって、俺のクラスにいた、あのクラスメートBのことか?
それがいったいどうしたというんだ? 俺は首を傾げていると、次の瞬間だった。
「タッチー……だとっ!!?」
「あの伝説の!?」
「そんなバカな!!」
「祈祷師だ!!」
「タッチー様が降臨なされたぞ!」
たった一人の呟きが一転。爆発的な連鎖を巻き起こし、瞬く間に会場内を包み込んでしまったのだ。
そして気がつけば、会場全体から巻き起こっていたのはあの、〝タッチーコール〟。
な……何なんだ!!? タッチーが……いったいどうしたというんだ!!?
状況を理解できていないという不安と言い知れぬ恐怖から、俺の意識はどんどん混乱の渦に巻き込まれて行く……。
だけど、それを止めたのは他でもない。不安の元凶。タッチーという生徒、そのものだった。
――スッ。
ピタ。
突然……だった。
突然、あれほどまでに熱気立ち、止まることを知らないはずだったタッチーコールが、タッチーが右手を挙げたのと同時に、ピタリ。と鳴りやんでしまったのだ。
いったい、何が起こっているというんだ……!!?
混乱する俺を無視したまま、騒ぎから一転。静寂の中で、右手を下ろしたタッチーは口を開いた。
「……一年前のことだ。俺が中学三年生だった頃に行われた体育祭……そこで俺は、みんなからの声援を受け、小学生の頃からを含めて、連続九年。応援団・団長を……祈祷師を任されることになっていた」
だけど……!
俺の位置からは表情は見えない。しかしタッチーは、声だけでも分かるほど、歯を噛み締めながら話した。
「俺はその体育祭当日に! あろうことか風邪を引き! たかだか四十度の熱でベットから起き上がることもできなくなってしまった……!!」
え……よ、四十度って……そんなの仕方がないんじゃ……?
「その結果、だ!」
タッチーは続けた。
「その結果俺が所属していたチームは惨敗……三日後、なんとか動けるようになった俺が学校に行くと、そこには生気を失った仲間たちが大勢……俺はそれを見て、愕然としたよ……」
……え、えっと……?
「だから、俺はあの日から、祈祷をしないと誓ったんだ!!!」
タッチーはひときわ大きな声で叫んだ。
「俺が祈祷してしまったら、みんなが不幸になる!!! 俺が祈祷してしまったら、みんなが絶望してしまう!!! だから! だから俺は! もう二度と、祈祷なんてしない! そう誓ったんだ……!」
でも……!!
「そんな、そんな祈祷師失格の俺に、みんなは今もなお変わらない声援を送ってくれる……俺ではダメだ。そう思っていても、俺にはとてもじゃないが、その声援を裏切ることはできないんだ……!! だから、許してほしい……こんな俺でも、祈祷することを……こんな俺にも、みんなを応援することをッッッ……!!」
スゥゥーッ! その時だった。タッチーは大きく息を吸い込み、そして……!!




