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それから、十数分後。
『白組の皆さん、ありがとうございました』
「……ふぅむ」
唸り声を上げていたのは、俺自身だった。
なぜそんな声を出していたのか? というと、正直な話だ。俺はこの体育祭が始まる前までは……いや、正確に言えば、応援歌が披露されるその直前までは、
「あーん? 応援歌なんてべつにどうだっていいじゃねーか。それより、とっとと競技を始めちまおうぜ~」
と思っていたのだが、ところがどうした。気づけば俺は、応援歌のそれに少し魅了されてきてしまっていたのだ。
というのも、最近の応援は実にアクロバティック……歌うだけではなく、組み体操みたいなことをやったりだとか、何か小道具を持ち出してその場でドラゴンやトラを作り出したりだとか、とにかく賑やかかつ派手。まるでパレードでも観ているかのような気分にさせられるのだ。
なるほど、これは面白い。
そのことに初めて気づいた俺は、同時に俺の中で、次に発表する組への期待が今までで一番高まっていっていることにも気がついた。
だって、と何を隠そう、次に発表する組は、俺たちの組。赤組だったのだ。
体育祭の期間中だけとはいえ、一時的にも同じチーム。仲間の出番だ。これから応援歌を披露するやつらを応援する、というのも変な話ではあるが、どうしても期待して応援してしまうという気持ちは、まぁ、誰だって分からないことではないだろう。
早く始まらねぇかな?
そう、恥ずかしながら少々、わくわく、とした気持ちで俺は運営委員のいるテントの方を見てみると……あれ?
と、その時気がついた。何やらテントの方が騒がしくなっていたのだ。
俺のいる位置からテントまでの距離はあまりにも離れすぎているため、音もよく聞こえないし、はっきりとその様子を見てとることもできない。……何か問題でも発生したのだろうか?
少し不安に感じながら、だけどどうすることもできずに俺はただ静かにその様子を見守っていると、ようやく動きがあった。
『お、お待たせしました。つ、次、は! あ、赤組の発表、です! ……お願いします』
……?
何だ? そう思った。
だって、今までは普通に……それこそ、書かれている文章をそのまま読んでいるだけ、という感じの、所謂棒読み状態だったのに、急にその中に感情が入ってきたのだ。しかも、良い意味で感情を入れてきた、というわけではなく……何だろう? 予想外のことが起きて慌てているような、そんな感じの感情だ。
……本当に何かトラブルでも発生したのだろうか?
そんなことを考えていると、次の瞬間だった。
すく――。
突然、俺の前に座っていた野球帽を深く被った生徒が立ち上がった。その生徒はそれからすぐに、たった一人でグラウンドの中央の方に向かって歩いて行く。
そして、グラウンドの中央に着いたその生徒は、バッ、と。被っていたその野球帽を脱ぎ捨てる。
刹那、だった。
ざわっっっ!!!
突然巻き起こった騒めき。
な、何だ何だ? 俺はそう思い、慌てて辺りを見回すと、
「……タッチーだ」




