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――商店街。
先ほどの話の数十分後。俺はお供に愛を連れて、その場所へと足を運んでいた。
というのも、できるだけ簡単に説明するが……俺たちはあの後。参考に記録書やアルバムを閲覧しながら、大まかにではあるが入場ゲートの完成予想図を作り、実際に制作に取りかかることにした……のだけれど、ここで問題が発生。木枠や大工道具はともかくとして、技能員さんから受け取った飾りの材料の種類が予想以上に少なく、そして量もあまりなかったのだ。
そこで、俺たちは急きょチームを【制作班】と【買い出し班】に分けることにし、その買い出し班になった俺は、同じく買い出し班に決まった愛といっしょに商店街へ足りない材料を買い出しにきた、というわけだ。
ちなみになぜお供を愛にしたのかというと、知ってのとおり愛には右腕がない。……片手でできる仕事もなくはなかったが、両手を使わないとできないような細かい仕事が多いこの係。真面目な愛の性格のことを考えると、
『みんなと同じように仕事ができない』『自分のせいで迷惑をかけてしまう』
などと考えて落ち込んでしまうのは明白だ。だからこそ、俺は愛をお供に選び、飾りを選ぶ手伝いをしてもらうことにしたのだ。……おっと、ここで一応、否定しておこうか……。
誓って、決して愛がかわいいから浮気しようとした、とかではない。いや、マジで。
「……ん? そんなことより、ところで……?」
と、道すがら。ふと疑問に思い、時間帯的に人もあまり多くなかったことから、俺は隣を歩く愛に聞いてみた。
「お前らって、二人暮らしだよな? 夕飯とか、そういった買い物とかはどうしてんの?」
「? 買い物……ですか? どう、と言われましても……ああ、お金のことでしょうか? それでしたら施設から毎月決められた額が――」
「おっと、すまんすまん。金のことじゃなくて、買い物自体(、、)のことだ。その口ぶりだと、普通に店に入って買い物をしているのか?」
「??? ……は、はい? あの……えっと……???」
ん? と俺は困惑する愛を見て、一度自分が質問した内容を振り返ってみる。すると、
「……あ」
すぐに答えが出た。「すまんすまん」ともう一度言ってから、俺は質問の意味を説明した。
「いや、な? あの事件があってからもう十年も経つのに、未だに結は買い物に行けないような状態が続いているんだよ。だから、もしかしたら側近のお前らも買い物には行けないんじゃないかな~? とか、思ってさ?」
「えっ……ゆ、結さまは未だにお買い物にも行けない状態……なのですか?」
「……まぁな。ぶっちゃけると、変装をして、片目を閉じて、そんでもって俺か母さんが付き添った状態で、やっと買い物に行けるような状態だ。と言っても、行ける店は今のところたったの一軒。俺たちが小さい頃から知ってる店長がやってる店だけなんだけどな?」
「そ……そうだったんですね……結さまの専属メイドを名乗っているのにも関わらず、そんなことすら知らなかっただなんて……メイド失格ですね」
「いやいや。状況が状況だったんだ。知らなくても仕方ないだろ。……っと、そんなことより、今の説明を踏まえて改めて聞くが……お前らは普通に買い物はできるんだな?」
「あ、はい。私たちは普通にお店に行き、普通に買い物をすることができます」
というのも、と愛は続ける。
「私たちの元の仕事は、側近とはいえあくまでもメイドです。結さまの専属故に、身の回りのお世話こそしてはいましたが、表立って町の人々と話したり、接したりするような機会はありませんでした。ですので、名前や役職を知られない限り、顔を憶えられて避けられたり、煙たがられるようなことはありません。……亮さまのお買い物にもご支障をきたすようなことはありませんので、どうぞご安心ください」
「支障って……俺はべつにそんなこと……まぁ、いいや。とにかく、できるんなら何の問題もないな。じゃあさっさとこのミッションを完了させて、二人の所へ戻ろうぜ!」
「はい……!」




