11-12
……っと! 感心している場合じゃないな。次は俺の番か。
チラリ、と俺はもう一度明の方を見ると、「おやおやぁ?」とあえてわざとらしく、なのだろう。明はすでに作戦の第二段階に駒を進めていた。
「入場ゲートの飾り付け係の定員は、四人ですか……一人足りませんね?」
「え? あ……た、確かにそうね。でも…………」
と、先生は思わず口ごもってしまう。……当たり前だ。元・お嬢さま一人でさえ怖いのに、そのメイド二人まで勢ぞろいした、まさに白乃宮チームである係に、誰が好き好んで入ろうとしたりなんかするだろうか? 三人が入った時点で、もはやその係は白乃宮チームに占領されたも同然であるのだ。
「「「「「……」」」」」
沈黙する教室。
「立候補者は……いないようですね?」と、予想どおりで予定どおりのそれを見回し、確認した明は、続けて言い放つ。
「でしたら私共で勝手に決めさせていただきます……そこの! たしか、倉田 亮とか言いましたね? あなた、私たちと同じ係に入りなさい」
「な、なんだって!!?」
きた! そう思った俺は名前を呼ばれた瞬間叫び、ガタタン! と机を倒す勢いで即座に立ち上がった。そのまま作戦どおり、抵抗の意思を全開にさせる。
「ちょっ! ちょっと待ってくれよ! これって立候補制なんだろ!!? 立候補も何もしてないのに係に入るとか、それって色々マズいんじゃ……ね、ね! そうでしょ先生!!?」
「……」
つつつつつ~……。
聞くと、先生は無言のままゆっくりと目を俺から逸らし、簡単に俺を見捨てた。
……ところで、絶対にそういう反応が返ってくると思って俺もわざと先生に対してそう聞いたんだけどさ? いや、まぁほんと今さらかもしれないけど……生徒を毎回毎回平然と見捨てて逃げる先生って……先生としてどうなの? え、先生よ?
っと、そんなことはこの際どうでもいいとして、俺は先生のその反応にできる限りわざとらしくならないように返した。
「せんせーっっっ!!? コンチクショウ! また見捨てやがった!!!」
……うん。まぁ、及第点といったところか? べつに変ではないだろ。
その証拠に、先生は変わらず俺の言葉を無視し続け、他のクラスメートたちも決して俺の方を向くことなく、我知らぬ顔で正面の黒板をただ眺め続けていた。
……ところで…………いや、もはや何も言うまい。はいはい。どーせ俺は生け贄ですよ。
「ギャーギャー騒がしいですね?」
と、そこにだった。明が絶妙なタイミングで入ってきて言う。
「何ですか? もしかしてあなた……私たちと同じ係になりたくない。とか、そういうことを言い出すつもりですか?」
「!!? い! いえ! 決してそのようなつもりは……っ!」
怯える演技をする俺に、「では」と明は続ける。
「私たちと同じ係になることに何の問題もありませんね? 立候補しなければならないのであれば、今から立候補すれば良いだけのことですし?」
「い、いや! でも、そのぅ……!」
「……何か?」
「…………」
……こほん。
咳ばらいを一つ。俺は右手を高々と挙げ、未だ無視し続けている先生に向かって言い放った。
「せんせー。俺、入場ゲートの飾り付け係に立候補しま~す」
「はーい❤ じゃあ亮くんは入場ゲートの飾り付け係に決定~❤ もう変更は受け付けませんからね~!」
ケロリ。今までの態度はどこへやら? 瞬間満面の笑顔になった先生は、さりげなく変更は受け付けないことを伝えつつ、持っていた白いチョークを置き、わざわざ赤いチョークに持ち替えた上で黒板に俺の名を刻んだ。
……それはいくらなんでも、あんまりじゃない? なぁおい、先生さんよ?
……と、まぁ、そう思わずにはいられなかったが……今回は状況が状況だ。許してやることにするか。
俺はそれから、無事に作戦が成功したことについて。ひとまずは心の中で安堵しながらも、しかしダメ押しにと、表面上は「俺は今、絶望の淵にいます」そうアピールするために、できるだけ静かに座り、深く、深く。机に突っ伏した。
……よし。これで完璧。もはやこの作戦の成功は揺るぎないものとなった。そう言いきっても過言ではないはずだ。
それを確信した俺は、そのまま、机に突っ伏したまま。ただ黙って授業が終わるのを待った。




