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「え? ……あ」
思わず声が漏れてしまった。
勝った(無事に生き残った)ことに気が行ってしまい、忘れていたが……そういえばそんなルールだったっけ。
とはいえ、愛に助けてもらった身。とてもじゃないが命の恩人である愛に命令なんてできなかった俺は、「えっと……」と再び呟き、仕方なく思いつつも座り直してから、ニコニコ、満面の笑みを浮かべる明に向かって話した。
「……なぁ、明? その、命令のことなんだけどさ? どうしても言わなきゃダメなのか? 俺としては、ゲームは楽しんで終われれば一番だと思うんだが……」
「え……それはダメですよ!」
何で? 聞くと、明は即答した。
「だって、ルールはルールです! ……ルールを守らずに全員が自分勝手にやっていたら、ゲームも楽しくできませんよね? イカサマし放題になっちゃいます! なので、最初に決めたバツゲーム……ビリの人に何か命令する、というのはちゃんと守ってもらいます!」
うっ!
ごもっともな意見。しかしそれ以上に、生死がかかっていたとはいえ、その自分勝手でみんなが楽しめないイカサマ行為をやってしまっていた今の俺には、再び心にズシン! とくるものがあった。
しかし、それでも……それでも、だ。せっかく助かった身はやはり惜しい。結局俺はイカサマを言い出すこともできず、「分かったよ」とただ静かに答えた。
「じゃあ……そうだ、じゃあこうしよう。――俺の命令は、明。お前のといっしょ(、、、、、、、)だ」
「え? 私のといっしょ……ですか?」
きょとん、とする明の眼の前。俺は続ける。
「そうだ。……お前のはたしか、今度の休みにみんなと一日中いっしょに遊ぶ、だったよな? 俺もそれでいいよ」
「え……で、でも、それはあくまで私個人の考えで、亮さまの考えでは……」
「……愛、構わないだろ?」
「あ、はい」少々強引な逸らし方だったものの、愛は俺に合わせるように笑顔で答えた。
「元よりどのようなご命令でも完遂するつもりではいましたが、そのような楽しいご命令であれば、喜んで♪」
「だってよ? これでもダメか、明?」
むむぅ。唸った明は、しかし次の瞬間。はふぅ、とため息をつき、話した。
「いいえ。むしろ愛と同じく、大賛成です! 今度のお休みの日はぜひ!」
「決まりだな」
そう言うと同時に、ふぅー、と今度は俺が安堵のため息をついてしまった。……一時はどうなることかと思ったが、どうやら全ての問題は無事に解決したようだ。いや、ホントよかったよかった……。
「む~……何だかきれいにまとめられちゃった気がするな~」
と、そんな様子を見ていた結が呟いた。
「これじゃあ、私一人がワルモノみたい……」
「悪者って……おいおい、誰もそんなこと言ってないだろ? というか、逆にお前が言い出してくれたからこそ、こうやって次の遊ぶ約束ができたんだぞ? それを考えればむしろ正義じゃんか」
「正義……」
くす。小さく微笑んで、結は続けた。
「モノは言いよう、だね♪」
「そゆこと」
ははっ。結につられて俺も笑ってしまった。
それから、俺は改めて話す。
「よし、そういうわけで今度こそ帰るぞ! いい加減そろそろ帰らんと、本当に母さんにシバかれちまうからな! ……なぜか俺だけ」
母さんの話をすると毎回微妙に悲しい気持ちになるのは……まぁ気のせいだろう。言い終わってから、俺は急いで立ち上がっ――
「あ! 待ってください亮さま!」
「まだ何かあんのかよ!」
思わず強く言ってしまった。それにより「ご、ごめんなさい……」と俺を止めた明はたじろいだが、すぐに続けた。
「あの! 結果的にですが、せっかく亮さまが勝ったのに私が考えた命令だけしてあとは何もなし、というのは、私的に何だか悪い気がするんですよ。だからせめてもの〝お礼〟をさせてください!」




