10-15
ちょんちょん……。
……ん? 何だ? 今、足に……座ってあぐらをかいている俺の膝の所を、何かが触ったような気が……?
気のせいか??? とも思ったが、しかしすぐに、それは気のせいではなかったことが判明する。
とは、
ちょんちょん。
と、また……しかし今度ははっきりと、膝に何かが触れたのだ。
すると、次の瞬間。膝とちゃぶ台の間から見えたのは、♦と♣の5……。
「!!?」
俺は反応してしまいそうになった身体を何とか食い止め、結や明にバレないよう、一瞬だけカードが出てきた方向を見る。
そこには……不自然にも身体を傾け、しかし視線や表情だけは変えずに俺の方を見つめる、〝愛〟の姿があった。
愛! お、お前、まさか……ッッッ!
ちょんちょん。
その、まさかであるらしい。
愛は無表情のまま俺を見つめつつ、右手(義手)の指に挟んだカードを俺の膝に当て、そしてさらには反対側の左手で……おそらくは手札の枚数を揃えるためだろう。プロのマジシャンもびっくりな手さばきでちゃぶ台の上に放られた捨て札の山から二枚。自分の手札に加えていた。
イカサマ……イカサマである。
愛は本来の主人であるはずの結を……言い方は悪いが、裏切り、俺のことを勝たせて救ってくれようとしていたのだ! しかも、最初から2と5のツーペアだったところを、わざと2のワンペアだとまで偽って……!!
愛が差し出すカードは、5が二枚……おそらくは俺が「5の……」と呟いたのを聞いて、愛は俺の手札を悟ったのだろう。
愛が的確に必要なカードを差し出してくれたことにより、これで俺の手札は5が四枚! 要らないカードを結たちにさえ見つからずに隠しとおせたのなら……俺の手役はワンペアから一気に〝フォーカード〟へと進化し、逆転一位となる!!!
…………迷いは、なかった。
いや、ここで迷えるほど……俺は心の強い持ち主ではなかったのだ。
すっ……。愛からさり気なくカードを受け取った俺は、イカサマがバレないようにするためにわざと表情をしかめながら。そしてこれもまたわざと〝一枚ずつ〟。愛からもらった分、手札が多いことを二人に悟らせないために、大げさにちゃぶ台の上に手札を叩きつけていった。自然。全員の視線はそこにくぎ付けとなる。
そして……!!
「5、5、5、5、6……えっ!? う、うそ! フォーカード!? 私、絶対勝ったと思ったのに~!!」
っっっしゃあああぁぁっっっ!!!!!
渾身のガッツポーズ。正直、これはイカサマがバレなかったことに対して思わず取ってしまった行動ではあったが、状況的に二人はそれを簡単に勘違いした。
「く、くやし~! せっかく強い役が揃ったのに~!」
「むむぅ……亮さま、意外にここぞという勝負に強いんですね。お見それしました……」
「ははは! そうだろうそうだろう! どんなもんだ! もっとホメてもいいんだぜ!?」
……言っていて少し……いや、かなり心が痛くなったが、俺は自分の胸に向かってとにかく「気のせいだ」と念じることによって、それに何とか耐えた。
「……さすがは亮さまです」
と、そこに自然な口調で入ってきたのは俺の救世主。愛だった。
愛はそれから、「さぁ、明? もういいでしょう?」と明に向かってカードを持った左手を伸ばし、さりげなく自分の手札を全員に見せて、イカサマをしていないことをアピールながら話した。
「今日の遊び時間はこれにて終了です。これ以上、亮さまや結さまを困らせてはいけませんよ? 私が片づけますので、カードを渡しなさい」
「む~……仕方がありませんね。はい、どうぞ」
「結さま。それから亮さまもお渡しください」
「うん……はい」
「お、おう!」
……上手い。正直、そう思った。
明にカードを回収されてしまったら、もしかしたら俺の手札が多いことがバレてしまうかもしれない。唯一残っていた不安を愛は、自分が回収する。そう言うことによって見事取り除いてしまったのだ。
先ほどのイカサマで見せた機転の良さといい、その後の行動。巧みな話術……もしかしたら、だけど、あくまでも主人の危機を救うために。愛は正式なメイド時代にこういうテクニックを御守家から仕込まれたのかもしれないな。だって、主人のピンチって何も肉体的な危険だけではないだろうし……。
まぁ、何はともあれだ。今回は愛に迷惑をかけまくった挙げ句、さらには文字どおりの絶体絶命のピンチまで救ってもらったのだ。……今ここで感謝の気持ちを述べるわけにはいかないが、今度何かしらの形でそのお礼をすることとしよう。
そう考えた俺は、
「さて、と。じゃあそういうわけで……」
と呟き、立ち上がっ――
「はい☆ 亮さま。約束どおり、ビリの愛に何なりとご命令ください♪」




