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「……何だろう? 何か、すっごくはぐらかされたような気がするんだけど……?」
「は! ははは! 気のせいだよ! 気のせい!!!」
――何とか愛の目を覚まさせることに成功し、一応は事態が収拾した後。元いた部屋。
ちゃぶ台を丸く囲む俺たち。俺の右隣で、じっと~……と、もはや疑いの眼差し百パーセントである。そんな結の目を真っ直ぐに見れない俺は、とにかく必死にそこから話題を逸らしにかかった。
「そ、そんなことより! 明の家事スキルを確認する、という本来の目的は果たしたことだし、そろそろ家に帰らないか!? 母さんが心配すると悪いし!?!」
「え? 亮さまもう帰っちゃうんですか?」
キョトン、とした顔で正面。明が聞いてきた。
チャンス! 直感でそれを感じ取った俺は、結が口を挟む前にすぐに続けた。
「あ、ああ。だってほら? 俺たちって学校が終わってから直でここにきたわけだろ? 当然、伝えてもいないのにそのことを母さんは知るはずもないし……まぁ? 悲しいことに俺のことはまず心配しないとは思うが、結のことは心配するだろうから早く帰してやらないと」
「そう……ですか……」
あ、でしたら、と明は続けた。
「今伝えればいいじゃないですか? 先ほど愛が説明していたようですが、玄関の壁の中に電話がありますよ?」
「あー。まぁ、確かに伝えるのは簡単なんだが……でもさ、ほら? もうそろそろ晩ゴハンの時間だろ? 何も知らない母さんはすでにその準備もしちゃってるだろうし……また今度、学校が休みの時にでもお邪魔させてもらうよ」
「う~……で、でもでも~!」
「明、いけませんよ」
しぶる明をなだめにかかったのは、左隣。愛だった。
先ほどの(ある意味)事件からほとんど時間が経ってはいなかったことから、愛は未だに少し顔を赤く染めたままではあったが、どうやら冷静さは取り戻したらしい。続けて話した。
「亮さま方だけに限らず、それぞれの家庭にはそれぞれの事情というものがあります。あまり亮さまを困らせるようなことは言ってはいけません」
「え~? でも、こんなふうに普通に話せるのなんて久しぶりですし~!」
? 普通に……話せる???
「いけません!」そう強く言う愛を今度は俺が、まぁまぁ、となだめつつ、気になった俺はすぐにソレについて聞いた。
「なぁ、普通に話せるって……どういうことなんだ? まさか、施設の中では私語が禁止だったのか?」
「え? ……あ、ああ、いえ。明が言った、普通に話せる、というのはそういう意味ではなく、亮さまや結さまのように、同じ年代の方々と普通に話せるのが本当に久しぶりだということです」
「同じ……年代?」
「そうなんですよ!」
傾げかかった首。それを図らずも、身を乗り出してきた明が補足を付け足して止めた。
「あの時はまだ小さかったとはいえ、私たちって一応、あの白乃宮家直属のメイドじゃないですか? いくらそういう特殊な人たちを保護するための施設といっても、私たちの場合は特殊中の特殊。当然、他の同年代の子たちといっしょにするわけにもいかず、授業なんかも全て自室でパソコンを前に受けていたんですよ。だから、意見交換をする授業とかは別としても、人とまともに会話をする機会なんてほとんどなかった。と、そういうわけです」
「……なるほど」
それで、所謂プライベート。他人を気にすることもなく、気兼ねなく普通に会話できるというこの状況をもっと続けたかった、というわけか。
しかし……
「う~ん……だけど、悪いがやっぱり今日は帰らせてもらうよ。母さんって、料理はできたての時に食べないと絶対怒るし……。というか、多少の条件付きとはいえ、お前らはもうこっちに帰ってきたんだ。それこそこんな時間のない時に話なんかしなくても、また今度、休みの時にでもゆっくりと話せばいいじゃんか? 何なら俺ん家からゲームとかも持ってきてやるからさ?」
「う~……」
……分かりました。
そう答えると、しぶしぶ、明は納得して身を引き、どこからともなく〝トランプ〟を取り出してシャッフルし、俺たちに配り始めた。
「はい、亮さま♪」
「ん? おお、サンキュ」
ふっ、しかし明も何だかんだ言ってかわいいところもあるじゃないか。遊び足りなくて俺たちを呼び止めるだなんて。おまけにトランプまで用意していたところを見ると、俺たちが遊びにくると決まった時点でよっぽど――
「……おい、ちょっと待て? 何でいきなりトランプ??? てゆーか何平然と配ってるんだよ? お前、俺の話聞いてたのか?」
「まーまー、そう言わずに一回だけ♪ ポーカーですからすぐに終わりますよ~」
「そういう問題じゃないんだが……」




