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……いや、まぁ、だからべつにいいってわけではないんだけど……な? 女の子の部屋に勝手に入ってしまったことは事実なんだし……。
……。
……うん。やっぱりもう一度ちゃんと謝っておこう。
そう考えた俺は立ち上がりながら話した。
「そうか……そう言ってもらえると正直俺も助かるよ。だけど、改めて言っておく」
――カチッ。
「本当に悪かっ……ん?」
……カチッ?
……何だろう? 気のせい……なわけ、ないよな? 今、確かにどこからか音が……???
――ファサ。
刹那、だった。俺の頭の上に……何だろう? 何か〝布切れ〟みたいなものが落ちてきたのだ。「ん?」と当然気になった俺はそれを頭から拾い上げて確認してみる。
「これは……ああ、なんだ。〝パンツ〟か。驚かせやがって……」
……。
……。
……。
んんんっ!!!!!?????
〝パンツ〟だと!!? しかもどうみても〝女物〟で、色は淡い〝ブルー〟……って! 色なんかどうでもいい! それより何でパンツが頭の上に――はっ!!?
その時だった。俺は目の前にいた愛が顔を真っ赤に染め上げ、〝上〟を見上げていることに気がついた。慌てて俺もその視線の方向を向く。
瞬間……俺は信じられない光景を目にすることとなった。
ファサ、ファサ、ファサ……。
飛んでいる……大量のパンツが、宙を……舞っている…………。
比喩……なんかではもちろんない。実際に今、俺の目の前で。様々な色や形をしたパンツたちが、まるで……とこれこそ比喩になるのだが……小鳥のように羽ばたき、宙を舞っていたのだ。
わけが分からない……いったい、何が起こっているんだ……?
「おやおや、さすがは亮さま!」
そこへ、だった。放心状態の俺や愛に代わり、出入口の壁ドアから顔を覗かせていた明が現状を説明した。
「愛が、せっかくあるんだし、便利だからと言って使っていた〝自動下着取り出し機〟を部屋に入っていきなり発動させるだなんて……いや~、亮さまにはお見それしました!」
「じ……〝自動下着取り出し機〟だと!!?」
はい~☆ 驚く俺に対し、ニッコリ、微笑みながら明は続けた。
「亮さま、足下をご覧ください。亮さまのつま先に引っかかっている〝ヒモ〟が、その機械のスイッチですよ☆」
「ヒモ……っ!!?」
ばばっ! 俺は急いで足下を確認すると……やっぱりだ! 明の言うとおり、俺の左足のつま先にはタコ糸みたいな細い〝投げ縄状のヒモ〟が引っかかっていたのだ! 恐らく、などと言うまでもなく、先ほど跳び退いて土下座をした際に引っかけてしまったのだろう!
やばい! そう思って俺は慌てて足を引っこ抜いたが、時すでに遅し。部屋にはもうすでに十数枚のパンツがバラ撒かれ、プルプル、と愛が身体を震わせながらそれを見下ろしていた。
「ご、ごごご! ごめ! ごめっ! ……おおおおお、俺……ッッッ!!!」
度重なる失態……もはやどう声をかけ、どう謝ればいいのか……? それすらも、今の俺には分からなくなってしまっていた。
しかし……事態はそれだけでは済まなかった!!!
『え! 何? もしかしてそっちにも部屋があるの!?』
「!!?」
隣の部屋から聞こえてくる、くぐもった声……言わずもがな、残るメンバーはただ一人。
「結っっ!!?」
思わず声を上げてしまった。それには当然、結もすぐに反応する。
『あれ? 亮もそっちにいるんだ? いいな~。私も行ってみた~い!』
「何だとッッッ!!!??」
いかんっっ!!!
――大量のパンツがブチ撒けられた部屋。
――赤面したまま硬直する愛。
――恐怖と絶望と後悔に囚われる俺。
――ほくそ笑む明。
こんな最悪中の最悪を結に見られてしまったら……俺の明日はジ・エンド!!!
それを刹那悟った俺は、半ば直感的に叫んだ!
「明ッ!! すぐに扉を閉めろぉッッ!!! 絶対に開けるなぁぁッッッ!!!」
「らじゃ~☆」
ムフフ❤ 満面の笑顔(?)でそう答えた明は、すぐに顔を引っ込め扉を閉めた。
と、ほぼ同時に、これも時すでに遅しではあるが、一応は床に散らばったそれを見ないように視界全体を腕で覆いながら続けて俺は言った。
「ま! 愛ッ! このことについては後でちゃんと謝る! だからすぐに床に散らばったこれを回収してくれっ! 俺はこのまま見ないようにしてるからっっ!!!」
「……」
「……!? お、おい、愛!? 聞こえてるのか!?」
「……」
「愛!!?」
「……」
な、何だ!? これだけ呼んでも全く返事がないって……いったいどうなっているんだ!?!
現状はどう見ても、どう考えても緊急事態……一刻を争う重大な場面であるために、仕方なく俺は視界を覆う腕をほんの少し広げて愛の様子を確認してみると……愛は、先ほどと変わらず顔を真っ赤にさせたまま突っ立って……いや! 違う!!?
瞬間、俺は気がついた。〝アレ〟は……ま、まさか……ッッッ!!?
「………………」チーン。
……悲しげに響く、謎の効果音が聞こえたような……気がした。
そう。愛は、一応は知らない仲ではないとはいえ……いや、むしろ知っているからこそ、なのかもしれない。
男であり、幼なじみである俺に自分のパンツを(大量に)見られてしまったというショックがあまりにも大きすぎたのであろう。立ったまま気絶してしまっていたのである。
それを見た俺は思わず……今日一番の、心からの叫び声を上げてしまった。
「まなぁぁあああぁぁぁっっっッッッッッ!!!!!」




