10-7
「さぁ! 到着しましたよ、亮さま! どうぞ! 隅から隅までご確認ください! チリ一つ落ちてはいませんから!」
――御守家・玄関。
この間きた時(※【#8,メイド訪問。】参照)は夜だったし、それどころではなかったためによく観てはいなかったが……家、とは言ったものの、無論施設にいる二人に一軒家を持てるだけの金はない。
ここは、施設の寮長先生の親戚が経営するアパートであるらしく、戦後に建てられ、築七十年以上。六畳一間の和室で、最低限の設備が整ったキッチンはあるが、風呂はなし。トイレは共同……と、女子高生二人が住むのには少しばかり窮屈な、色気も何もないオンボロアパートだった。
しかし、それらをここにくる間に俺に説明してくれた愛曰く、
「それでも、雨風は凌げますし、横になったり、ゴハンを食べたり、そういうスペースは十二分にあります。それに、学校や商店街。亮さまのお家からも近いですし、確かに色々と不便な点もありあすが……通常では有り得ないほどお安いお値段で住まわせていただくことができていますので、贅沢は言っていられません」
ということらしい。
……まぁ、確かに。二人は無理を言ってこっちに戻ってきて、さらには住む場所まで用意してもらっているのだ。愛の言うことには俺も素直に納得させられてしまった、というのが実際のところである。
おっと! そんなことより話を戻すが……明に殺されずに済んだことについて。改めて思わず、はふぅ~! と大きく安堵のため息をついてしまった俺は、しかし……明に言われて辺りを見回すと、すぐにあることに気がついた。
「って! いやいやいや。おい、ちょっと待て明。確認してくれも何も……この部屋、確認する〝物自体がない〟じゃんか」
そう。〝何もなかった〟のだ。
……え? ホコリが? チリが? いやいや。それどころか、
家具が!
家電が!
服やらズボンやら布団までもが!
その他一切が、〝全く置かれていなかった〟のである!
比喩だと言われる前に、すぐに終わるのでこの部屋にある物を全て挙げておこう!
まずは天井!
そして壁!
次に窓!
床に敷かれた畳!
――以上だ。
……な? 比喩でも何でもなく、部屋というこの空間以外、〝何もない〟だろ?
ちなみにここは二階の二○二号室。このアパートの一階と二階には共に三部屋ずつあって、全六部屋。現在は一階に大家さんがいるだけで他に誰も住んではいないらしい。とは、同じく愛から得た情報である。
「確かに見回した感じではキレイだが……そもそもゴミとかホコリとかって、普通家具だとか、家電だとか、そういう物の隙間やちょっとした出っ張りとかに残ってるもんだろ? それすらないのにどうやって確認しろって言うんだよ? てゆーか、お前らは本当にここに住んでいるのか? 寝るための布団すら見当たらないぞ?」
あと今気がついたんだが、先ほど愛があると言っていたキッチンまでもがどこにも見当たらない。
……素直な性格の愛がまさかウソなんてつくわけもないし、いったいどうなってるんだ?
そう不思議に思っていると、突然「ああ!」と明が大声を上げた。
「そうでしたそうでした! 亮さまたちにはまだ説明していませんでしたね!」
説明? 聞く前に明は急いで靴を脱いで玄関を上がり、部屋の中央に移動した。
それからその場に正座し、改めて話し始める。
「亮さま、結さま、よ~……っく! 観ていてくださいね!」
「「???」」
何だ? そう俺たちが首を傾げていると、明は、ふっふっふっ! と何やら自信満々に笑いながら腕を大きく振り上げた。
そして……
「はいっ!!!」
バンッッ!
無駄に気合を入れて明が行った行動とは、目の前の畳……そこへの〝平手打ち〟だった。
何だ? と俺たちがもう一度首を傾げそうになった――次の瞬間だった。〝それ〟は現れた。
グルン! ガチンッ! ガシャガシャ、ガッキーンッ!
まるで変形ロボの合体音。だが、その例えはあながち間違いではなかった。
なぜなら、明が叩いたその畳……一部が勢いよく回転し、裏側から現れたのはなんと、折りたたまれて収納されていた〝ちゃぶ台〟だったの――
「「えっ!!?」」
驚きの声を上げる俺たち……それを見て喜んだ明は、キメ顔で話した。
「……と、このように。この部屋は部屋全体が〝カラクリ部屋〟となっているんですよ!」
「か……っ!」
〝カラクリ部屋〟ぁ~!!?




