10-5
「うおあああぁぁっっっ!!!??」
バッシィィッッ!!!
とっさに、だった。色々考えていたせいで反応がかなり遅れてしまった俺は、とっさに愛の手を思いっきり叩いた。――手加減をしている余裕などなかったのだ。
だけどその結果。
ブ! ブブブーン!
と、俺のすぐ脇を通り、慌てて逃げて行く蜂の姿が見えた。それとほぼ同時に愛が声を上げる。
「り、亮さま!? いったいどうされ……あ」
「いや! 悪い悪い!」
俺はそう言いながら、手を引っ込めてすぐに答えた。
「今、お前の右手に蜂が留まってたもんだから、とっさにな……でも、よかった~! その様子じゃまだ刺されて――」
――ボトッ。
「……ん?」
……ボトッ?
今……俺が話している最中に、〝何かが地面に落ちたような音〟が聞こえたような気がするんだが……???
気のせいか? とも思ったが、しかしやはりどうしてもそういうのが気になる性格の俺は、音がした方向である愛の左後ろ……つまり、屋上の出入り口方向を見てみる。
すると、そこには〝人の腕〟らしきモノが落ちていて…………。
……。
……。
……。
「えっ!?!」
なんか、イヤな予感がする!
そう激しく思いながらも、ギギギ、と動き辛い首を必死に動かし、俺は愛の方を見てみると……そこには、まるで明らかに丈の合っていない服を着ている時みたいに、しぼんだ袖を、ペラペラ、と風になびかせたまま硬直している愛の姿が……。
「……」
ギギギ、ともう一度出入り口の方を見ると、そこには〝人の腕〟っぽいナニカが落ちている。
ギギギ、とまた愛の腕を見てみると、ペラペラ、と明らかにそこには〝何もない〟。
さて、この答えは? え~と……???
………………。
「うわあぁぁぁあああああーーーーーっっっ!!!?????」
ビクン! 俺の叫び声を聞いて愛が跳び上がったような気もしたが、今の俺はそんなことを気にしている場合ではなかった。
「すっ! すすすすす! すまん!!」叫びながら全力で後方へと跳び、土下座の姿勢をとって頭を床へと叩きつけた。その上で、これもまた全力で謝る。
「俺のせいで愛の、う! 腕がっ!!! 本当にすまん! 女性の身体は壊れやすいとか何とか聞いたような憶えはあったんだが、まさかこんな、ちょっとばかし強く叩いただけで取れるだなんて思いもよらなかったんだっっ!!!」
「え!? こ、壊れやすい??? ……あっ! ち、違います、亮さま! 〝これ〟はただ単にお昼休みの時は緩めていた(、、、、、)だけで……!!」
「うっぐぅううぅっっ!!!」
自分の腕がもげてしまったのに、それでも俺のことを庇おうとするだなんて……!! こんなに優しい女の子に俺はなんて! なんてヒドイことをしてしまったんだ!!!
今にも滝のように流れ落ちそうになる涙を、歯を食いしばって必死に堪え、俺は続けて叫んだ。
「いいんだ! いくら蜂を追いはらおうとしただけとはいえ、俺がもうちょっと優しく叩いていればこんなことには……ッッ!!」
「い、いえ! ですから、そうではなくて……!!」
「かくなる上は!!」
「えっ!!?」
ばばっ! 瞬間立ち上がり、俺は俺のすぐ後ろにある、転落防止用の柵に手をかけた。
そして、
「俺の、この命をもって償う……ッッッ!!!」
「きゃーっっ!!??? 待ってください亮さまーーーっっ!!!!!」
ガシリ! 柵に足までかけたところで、慌てて走ってきた愛が残った左腕で俺の服を掴んだ。「ええい! 放せ! 放してくれ!」と俺はそれに必死に抵抗する。
「全ては俺の責任なんだ! 俺がもう少し! もう少し気を配ってさえいれば……!!」
「でーすーかーらーっっ! ちーがーいーまーすーっっっ!!! 私の腕は……右腕は!」
最初から〝ない〟んですっっ!!!
「へ? ……あ!」
ぐいっ! ドッシィィーンッッ!!! 「きゃーっ! すみません亮さまーっ!!」




