1-13改 一話目終わり。
――それから、およそ十分後。
いよいよゲームも終盤というところで、コンコン、という微かな音を、イヤホン越しに俺の耳が捉えた。
何だ? と思って振り向くと、ドアの方から小さく結の声が聞こえてきた。
『り……亮、ちょっと、いい……?』
どうやらゲームがしたくて、相当急いで風呂から上がってきたらしい。……しかし、ちょっといい? とはどういうことなのだろうか? 用があるのなら、部屋に入ってくればいいのに?
そう思った俺は、少しだけ大きな声で話す。
「どうしたんだよ、結? 風呂上がったんなら早く入ってこいよ。ちょうど、今やってるゲームが終わるところだぞ?」
『いや……だから、その…………』
??? いったい、どうしたのだろうか? さすがに俺の洞察力も、相手を見ないことにはどうしようもない。
俺はイヤホンを外し、とりあえず立ち上がって、ドアの方に向かった。
「おい、本当にどうしたんだよ? 何かあったのか?」
『――やっ!? だめ! 〝こないで〟!』
……〝こないで〟???
ますます分からない。というかこんな状況で、こないで、なんて言われても、逆に行きたくなってしまうのが俺という人間だ。
何か、こう……風呂場で転んで、それでケガとかをしたのかもしれない。結はそういうことを黙っている傾向があるし……。
だとしたら大変だ。そう思った俺は、ゆっくりとドアを開けた、
――瞬間、だった。
「――だめっ!!」
突然の結の大声と共に、なぜ結が部屋に入ってこなかったのか? その理由が判明した。
「……あ、ぅぁ…………!!」
……そこにいた結とは、何と、タオル一枚〝だけ〟を持った、
完全な〝裸〟――だったのだ。
――しかも、と付け足しておこう。ウチにはテレビとかの入浴シーンでよく付けているような大きなバスタオルなど、〝存在しない〟。……つまり、普通サイズのタオルだ。
それが意味するところは容易に想像できるとは思うが……一応言うと、ほとんど……大きな二つの膨らみの先端にある、ピンク色な部分から、見てはイケナイ所まで……何もかもが隠し切れずに、ほとんど全部、見えてしまっていた。
……人間、こういう時、いったいどうすればいいのか、分からなくなるもんだ。
俺はただ……結の真っ白な肌から外せない……外せるわけがない視線を、ただ、外そうと必死に努力することくらいしか、できなかった。
「あ……あああ、あの! だから、そのぅ……!!」
――と、そんな中。顔を真っ赤にしながら、必死に小さいタオルで身体を隠そうとしていた結が、慌ててこの惨状の弁解を始めた。
「……こ! これはその……なるべく急いでお風呂を済ませようとしたら、持ってきた着替えも間違えて洗濯機に入れちゃって、それであの……洗濯機にはもう水が入ってて、それでも一応着ようとはしたんだけど…運悪く洗剤も入ってたらしくて、それで泡だらけになっちゃってて……だからあの、結局着れなくて、それで……それで……っっ!!」
――気がついた時、結は俺の横を、ものすごいスピードで走りぬけて行っていた。
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俺は……何もできなかった。
何もできず、ゲームもそのままに、ただその場に小一時間ほど、突っ立っていた。
――翌日、俺の死体が学校で発見されたことは、言うまでもないだろう……。




