9-7
【視点・亮→〝結〟】
「――少し、遅くなっちゃったかな?」
――屋上へと向かう途中の階段。
黒板の文字を消してきれいにしたり、次の授業の教材を取りに行ったり、チョークの予備が残り少なくなっていたことから、それを補充しに職員室へ行ったり、と……たまたま手間のかかる仕事が多くあったということもあり、屋上へ行くのが遅くなってしまった私は、なるべく急ぎ足でその階段をのぼっていた。
「あ、そういえば……」
――と、その途中。少しだけ、〝心配〟に思ったことがあった。
……何を? とは、そう。〝亮のこと〟だ。
亮は、今朝の一時間目の授業中。なぜか、その……私の、む…〝胸〟ばかりを、チラチラ、チラチラ……それこそ、私がそれに気がついて睨みつけたのにも関わらず、チラチラ、チラチラ、睨まれているということにすら気づかず、ずっと見続けていたのだ。……しかも、これもなぜだか妙に〝興奮〟した様子で……。
…………まぁ? だからこそ私はいつものように叩いちゃったわけなんだけど……って! ああ! でも! それでも! あの時私は、一応かなり〝手加減〟をしたのだ!
だって……あの……そ、そもそも、何で亮が私の胸ばかりを見ていたのか私にはわからなかったし、それに、〝本気〟でやると、亮は放課後くらいまで保健室で寝ていて、私や、愛と明といっしょにゴハンが食べられなくなってしまう可能性がある。――せっかく周りを気にせず普通におしゃべりができるお昼ゴハンの時間なのに、そうなってしまっては、何だかもったいない。できるだけすぐに復活してもらわなければ困るのだ。
だからこその、〝手加減〟、だったのだけれど……四時間目になっても亮は帰ってこなかったし、ちゃんと復活できたのか……正直、不安だ。
……あ、い、いや、もちろん……そんなに心配に思うのなら、初めから〝叩かなければ〟いいだけの話ではあるんだけど、でも……なぜか元・お嬢さま状態になると、〝叩いちゃう〟んだよね~……。
あはは……と、亮が目の前にいるわけでもないのになぜだか気まずくなって、思わず笑ってしまった――その時だった。
『…………?』
『………………』
――屋上の出入り口の扉まで、あとほんの数段という所。
ふいに、その扉の奥から、何やら〝話し声〟が聞こえてきたのだ。
愛と明の声……かな?
そう思った私は一度足を止めて足音を消し、少し耳に神経を集中させてそれを聴いてみる。
……と、
『……だ……きだ!!』
……う~ん? ――話の内容までははっきりと聞き取ることはできなかったけれど、どうやらそれは、〝男性〟の声であるらしい。明らかに質……というか、声自体が低い感じだった。
お昼休みのこの時間……屋上にくる人なんて、かなり限られている。
しかも、それが〝男性〟だというのであれば、もはや確定的だ!
「……亮!」
よかった~! ちゃんと復活できたんだ~!
瞬間、それを確信した私は、ほっ、と安堵のため息をついた。それから私は残りの数段を一気に駆け上がる。
……え? 屋上にいるのが、バカメガネザル(※高利のこと)の可能性があるって? ――ないない。それはないよ~♪
だって、さっき教室で〝○した〟んだから♪
「ふんふ~ん♪」
安堵のせいか、意識せず出てしまう鼻歌を気にすることもなく扉の前に到着した私は、つい最近修理されたことによりかなり開けやすくなったそれを、普通に開けた。
ガチャ。キィィ…………。
ガサッ! ――と、すぐに。左の貯水タンクの方から物音が聞こえた。
私はそれに確信を得て、笑顔でそこを覗き込む……すると、やはり、いた。
――ほんの一日前に増えたばかりなのに、もうこんなふうに言うのは少し変かもしれないけれど……そこには、〝いつもの〟、三人の姿があったのだ。
私はそれを見て、再びの安堵と、そして何より〝うれしさ〟から思わず声を上げた。
「――あ、みんな~♪」




