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「……気づかれましたか?」
明は、俺が気づいたのを確認すると同時に、愛の胸から手を離して続けた。
「そうです。例えばそれが、亮さまや結さまのように、長年いっしょに過ごしてきた仲の良い幼馴染同士であっても、こればっかりは、答えてくれなければ〝分かるはずがない〟――つまり、答えなかったその瞬間に、相手の頭の中では、〝もしかしたら〟という〝恐怖〟が生まれてしまう可能性があるんです! ……何かしらの〝心当たり〟があるんじゃないですか?」
「こ……〝心当たり〟…………〝あ〟……」
瞬間、俺は……記憶の片隅にあった、その〝できごと〟を思い出した。
そう、あれは……俺の父さんの、店参りに行った日(※【#2,大切な、日。】参照)のことだ。あの日、俺は高利に勧められた本のことで、結に、こう……詰め寄られた。
『……亮は、〝ああゆうの〟が、好きなの?』
……と。
あの時の俺は、居候という身、結は心の中で色々と不安に感じていたのだろう。と勝手に考えていたが、本当は〝そうじゃない〟。〝それだけじゃなかった〟のだ。
――俺の〝想い(かんがえ)〟に対する、紛れもない〝恐怖〟。
結は……〝怖かった〟のだ。
自分の身体のことは、どう思われているのか? ――〝分からない〟。
自分の性格のことは、どう思われているのか? ――〝分からない〟。
自分は好かれているのか、嫌われているのか? ――〝分からない〟。
〝分からない〟……何もかも、〝分からない〟。それ故の、〝恐怖〟。
……なるほどな、と思った。
やはり、〝たかが胸の大きさのことで〟、などと、俺には初めから言う資格など、なかったのだ。
あの時、もしも俺がそんなことを口にしていたとしたら……考えるだけでも恐ろしい。結はきっと、〝自分なんてどうでもいいと思われている〟……そう考えたに違いない。
「……どうやら、心当たりがあったようですね?」
「……ああ。認めるよ。確かに、そういうことが一度だけあった……」
俺は、明の問いかけに答えてから、静かに続けた。
「俺は……間違っていたんだな。……女の子は……女性は、胸の大きさを自由に変えられるわけじゃない。変えようと思ったのなら、それこそ整形だとか、そういうものに頼らざるを得ない。――だけど、その変えられる整形にだって、〝時間や莫大な金がかかる〟……だから、それを持っていない結みたいな女の子にとっては、〝嫌いだ〟と言われてしまったら、その時点でもう〝どうしようもなくなる〟んだ……」
だからこそ、〝分からない〟は〝恐怖〟…………。
「……亮…さま…………」
……ふふ。愛が呟いたのとほぼ同時に、明は小さく笑い、そして……聞いてきた。
「……では、それを理解いただいた上で、もう一度お聞きします」
亮さまは、愛の〝おっぱい〟のことをどう思われますか?
「…………俺は……」
……未だに、恥ずかしさというものが抜けたわけじゃない。
だけど、俺は……それを理解した俺は、はっきりと、答えた。
「〝好きだ〟。――俺は、胸の大きさとかで人を判断するわけじゃないが、確かに俺は、愛や結、それにお前みたいな〝大きなおっぱい〟が、〝好きだ〟。……いや、〝大好きだ〟!!」
「…………!!」
「……ふふ♪」
それでは――と、その時だった。明はなぜか、屋上の出入り口である扉の方を指差して……
ガチャ。キィィ…………。
「――あ、みんな~♪」
「ゆ……結……っ!?」




