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「……え?」
予想外の質問に、俺の頭は一瞬、硬直する。
しかし、明はそんな俺に構わず……いや、むしろ俺の、〝そんな反応を確認してから〟、なぜ突然そんな質問をしたのか? 理由を話し始めた。
「先ほど亮さまがおっしゃったことは、確かに〝正論〟です。おっぱいが好き、などと表立って答えれば、ただのおっぱい好きの〝変態〟と罵られても仕方がありません。――しかしながら、今のように、目の前で質問しているのにもかかわらず、何も〝答えない〟……つまり、答えるのが〝恥ずかしい〟からというだけの理由で、意味もなく〝本能を隠す〟という行為は、亮さまにとっても……何より、〝相手〟にとって、すごく〝悪い影響を与える〟……と、私は思うんですよ」
「悪い……影響???」
ようやく動いた口。俺は未だにほんの少し混乱したままではあったが、明に聞くと、明は、こくり、と一度大きく頷いて、さらに説明を続けた。
「……男性はよく、おっぱいが大きいとか小さいとかで、〝好み〟というものを選んだりするそうですが……中にはこんなことを言う人もいるんです。――『大きすぎて〝気持ち悪い〟』『小さいと〝母性がない〟』――確かに、人それぞれ好みがあるということは、人間という生き物として仕方がないことだとは思いますが……こんなことを言われた女の子は〝どう思う〟と思いますか? ……言わずもがな、当然、〝傷ついて〟しまいますよね?」
「…………」
……当然だ。所謂、自分が〝コンプレックス〟に思ってしまっていることをそんなふうに言われたら、誰だって〝傷つく〟。もちろん、女性だけに限らず、俺たち男であっても、だ……。
……しかし、そんな〝当然のこと〟を、なぜ今明は話題にするのだろうか? まさか、俺が愛の胸を見てそんなことを考えるとでも……思ったのだろうか???
「――では、改めてお聞きしますね?」
と……明はそれから、俺の目を真っ直ぐに見つめて聞いてきた、
「亮さまは……愛のおっぱいを、〝どう思いますか〟?」
「…………」
……明がなぜそんなことを聞いてくるのか? 未だにその理由は分からなかったが……俺は、静かに、呟くように答えた。
「……べつに? 俺は〝普通〟……だと思うが?」
「〝普通〟? それって、〝好き〟なんですか? 〝嫌い〟なんですか? ……それとも、〝興味がないからどうとも思わない〟……ってことなんですか?」
「え……いや……そ、それ、は…………」
「――〝ソレ〟です」
俺が答えに迷い、明から視線を外した――瞬間だった。明は、ビッ! と俺を指差して言い放った。
「亮さまは今、はっきりとした答えを〝言わなかった〟。――それはつまり、好きなのか嫌いなのか、それすらも私たちには〝分からない〟ということ。〝分からない〟ということはつまり、もしかしたら亮さまは、本当は〝嫌いだと思っている〟かもしれない……必ずしも、というわけではありませんが、そういう考えが相手の頭に浮かんでくる可能性があることは、十二分に考えられますよね?」
「あ……う……い、いや! ちょっと待ってくれよ! 俺がまさか、そんなことを思うわけが……!!」
「――では、さらにもう一度お聞きしますが……相手は、そんな亮さまの考えが、何もかも、〝全て分かる〟……というんですか?」
「…………ッッッ!!!」
分かる……わけがない。だって、いくら言い訳したって、俺は……そう。〝答えていない〟のだから…………!!




