1-12改
――俺の部屋。
俺たちの一日は、だいたいゲームで締めくくられる。――ちなみに今ハマっているのは戦争ゲームで、二人でもプレイできるのだが、画面が小さくなってしまうという理由から、俺と結はオンラインを交代でプレイしている状態だ。さらにちなみに言うと、俺は考えなしの突攻派。結は戦略重視のスナイパー派だ。
「ぐあっ! また〝キュポンマン〟か!」
ああ、これも一応説明しておこう。〝キュポンマン〟とは今は懐かしいあの巨人格闘家のことではなくて、装備型グレネードランチャーを自爆によるリスボーンなどを使って無限に撃ちまくっているやつのことを言う。撃つ時に、キュポン! という音が鳴るので、俺がそう命名した。……ルール的には問題ないとはいえ、俺的にはどうかと思う。
「ああ、くそ、終わった。次は結の番だな」
そう呟いて、コントローラーを結に渡そうとした、瞬間だった。
『――結ちゃ~ん。お風呂、上がったわよ~』
下で、母さんが呼んだのだ。
「あ……」
結はそれに少し戸惑ったが、しぶしぶ、といった具合に立ち上がり、「はーい!」と返事をしつつ、急いで準備を完了させて部屋を出て行った。
大丈夫だって、結。後で二回連続でやらせてやるよ。
そう陰で思いながらも、とりあえずは結が風呂に入っている間、俺はゲームを続けることにした。
「……それにしても――」
と俺は……急に独りになったからだろうか? ゲームを続けながらも、何となく、いつも以上に色々あった今日のできごとを振り返っていた。
……今日はホント、色々あったもんだな~。
――洗脳はされるわ、踏まれるわ、最終的には頭を割られるわで、それ自体はあまり良い思い出とは言えないのかもしれないが……それでも、何もないよりはすごく充実した一日だったと思う。……まぁ、欲を言えば? これがもっと良い思い出だったのなら、俺はこの一日を完璧な〝幸せ〟で終わらせることができたのに……なんて考えるのは贅沢、というやつだろうか?
…………あ、でも待てよ? そういえばたった一つだけ、〝良い思い出〟と言えるできごとがあったな?
どんな? とは、そう……あれは、一瞬だけ見た、結のあの、真っ白なパ――。
……。
…………。
………………。
……い、いやいやいや! 俺は何を想像してるんだ! 止めろ、俺の脳みそ! ああ、ほらまたキュポンマンにやられてしまったじゃないか。……いいか? 今はとにかくゲームに集中するんだ。そう! とにかく何も考えないように心を〝白く〟保って……〝白く〟……?
……………………。
だぁぁ! 止めろ俺の脳みそ! 一度打った文字を次から表示する便利機能を使わないでくれ! 俺だってあのことは悪かったと思っているんだ! 本当だ、信じてくれよ!
――はっ! そうだ、白じゃない! 心を〝透明〟に保つんだ! そう、〝透明〟に!!
透明透明透明…………!
俺は必死に自己暗示をかけた――だが、その時だった。
ちゃぽん。
という音が、どこからともなく聞こえてきたのだ。
何だ? と俺は耳を澄まして聴いてみると……どうやらその音は、結の部屋から……というより、結の部屋の、〝真下〟から聞こえてくるようだった。
そのまま耳を澄ましていると、続いて、シャアァァ、という音が聞こえてくる。
――そう、これはシャワーの音だ。結の部屋はちょうど風呂の真上に位置していたのだ。
……ああ、そっか。そういえばそうだったな。ということは、今結はシャワーを浴びて……。
…………………………。
ガンガンガンガンガンガン!!
俺はとりあえず、額をテーブルに何度も打ち付けた。
止めろ、俺の脳みそよ。一瞬想像上の結の裸体を妄想するのは!! というか、裸なら小さい時に何度も見たじゃないか! 風呂にだっていっしょに入ったし! 妙なことを考えるんじゃない!
――そうだ、イヤホンを付けよう。閃いた俺は、急いでイヤホンを探し出し、装着する。
すると……おお! これなら雑音は聞こえない! しかも銃や爆弾の音で、俺の妄想も爽快に吹き飛んで行くではないか!
見事この状況を打破できるアイテムを手に入れた俺は、とにかくゲームに集中した。
――念のために、軽機関銃を辺り構わずとにかく乱射する、という……迷惑極まりない行為を続けながら……。




