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「ああっ!? す、すみません、亮さま!」――そう叫び、ゴホゴホ、とむせ返る俺に慌ててハンカチを渡してきた愛だったが、ギリギリ、軽傷で済んだ俺はそれを大丈夫だと拒否し、手に持ったお茶をこぼれないように安全ゾーンに置いてから話した。
……と言っても、
「そ、その! ゴホゴホ! ――で、つまりウエッホエホ! ……的な???」
「え……あ……は、はい……???」
……完全な逃げ腰状態ではやはり、会話すら成り立たなかった。カクン、と五秒も待たず、愛の首は大きく傾げられてしまう。
や、ヤバい……とその瞬間、俺は思わず愛から顔を背けてしまった。――当たり前だ。何しろ本当のことを……「結の〝おっぱい〟を見てました!」などということを言えるわけがないし、かと言って、疑問に思う愛を納得させられるだけの言いわけ、なんてのも簡単に思いつくわけがない。つまり、俺にはもはや、〝顔を背けるという選択肢〟しかなかったのだ。
……だが、運命の分岐点はそこだけでは……いや、むしろ〝ここから〟だった。
顔を背けた後……俺はどうすればいい? 俺はいったい、ここから何をどうすれば――!!
「――〝目算〟していたんですよね、亮さま!」
「……へ?」
――その時だった。突然明が、ニンマリ、と……先ほど俺にバカにされたお返しに、とばかりに、ものすっごい〝悪そうな顔〟で言い放った。
「だ~か~ら~? 亮さまは結さまの、〝おっぱいの大きさ❤〟を、どれくらいか測ろうとしてたんですよね? 貼り紙や机の大きさを使って❤」
ごっふうぅっ!!?
……たぶん、さっきむせた時の残りだろう。お茶的なナニカが色んな所から飛び出した。
――しかし、今はそんなことを気にしている場合ではない!! そう思った俺は、迅速に、素早く、そして的確かつ冷静に、明に反論の言葉を言い放った。
「ば! ばばば! バカ言ってんじゃねぇよ! だだっだ! 誰がそんな……ッッ!!」
……まぁ、相変わらずどこが冷静なのか、自分でもよく分からなかったが…………。
「いやいや~? 大丈夫ですよ、亮さま~☆」
――だが、そんなことは関係なく、このメイド二号は、〝強かった〟……。
「昨日の夜にあんな〝衝撃の事実〟……私たちの〝おっぱいの大きさ❤〟を聞かせれたら、そりゃあ殿方は誰だって気になっちゃいますよね? ――私たちよりも〝遥かに大きい〟結さまの〝おっぱい〟は、いったい〝何センチ〟なのか? ――って? ね、亮さま~❤」
「…………ば、ばか……言ってんじゃ、ねぇ……よ…………」
完璧に心の中を読まれてしまっている……。そのことから、俺にはもはや、それしか言うことができなかった…………。




