8-13 八話目終わり。
――俺の部屋の前。
電話を戻してきた俺は、しかし、しまったな……と、扉に手をかけたところまできて、今さらながら軽く悩んだ。
……だってさぁ? 考えてもみれば、準備しとけよ~? って言って、すぐに戻ってくるんだぜ? それって何か、二人に〝早く帰ってほしい〟って言ってるみたいじゃないか。……失礼に思われたりなんか……しないかな?
――って! やめやめ! 男……否! 〝漢〟の俺が何を女々しいことを……てゆーか、そもそも、もうすでにここまできてるんだぜ? 足音でそれは三人にも気づかれているだろうし、何より今さら一階に戻って行ったりなんかしたら、それこそ変に思われてしまうかもしれないじゃないか!
……よし、つーわけでここは堂々と、改めて――
ガチャ……あくまでも自然に扉を開け、俺は部屋の中に入った。
――と、ほぼ同時だった。
『――と予想してるんだが……』
……なぜか三人がテーブルの周りに集まり、その〝テーブルの上〟を一心に見つめていた姿が目に留まったのだ。
……いや、それより何だ? 今の〝声〟? 妙に〝くぐもった声〟だが、どっかで……それも〝今さっきくらいの最近さ〟で、〝聞いた憶え〟があるよう――
『ん~? 正直俺は胸のサイズをどうやってカップ分けしてるのか未だに謎なんだが……そうだな? 俺も何となく明ちゃんは〝C〟だと思うが、愛ちゃんはもっと上なんじゃないか?』
――刹那、だった。
俺は、聞き憶えの〝ありすぎるその言葉〟に、絶句した。
『――〝Eカップ〟……とか? 〝Eカップ〟……と…? 〝Eカップ〟…………?』
……実際は、そこまで反響はしていない。
――だが、俺の……〝絶望〟により空っぽになった頭の中では、確かに……その言葉は、何度も鳴り響いていた。
……え…………え??? な、ナニユエ、絶対に三人には聞かれてはならない、高利とのすごくまずい会話がリピートされてんの??? あれ??? 〝録音〟とかできる機械なんて、俺の部屋には一切…………
――はッッ!!!?? その時、俺は目にした。三人の間から垣間見えた、〝ソレ〟を!!
あ、あれは……!!!
〝デジカメ〟……ッッッ!!!!!
……そう。〝楽しそうな写真〟を撮った、憎いヤツ。明のデジカメだった。
ば……バカなッッ!!! まさか、ゲームをしながらいじったり、眺めていたあの時、知らず知らずのうちに〝録音〟……いや、〝録画〟ボタン!? ――ともかく、そういう何か変なボタンでも押してしまったとでもいうのか!!? それで、帰りの仕度をしていた明がそれに気づいて、結や愛といっしょに面白がって……ッッ!!!??
ヤバイッッッ!!!!! ――全力で俺は思った。
もしも俺の想像どおりだったとしたら、こんなとこでのん気に解説している場合じゃないじゃないかッッ!!! さっさと逃げ――
――だが、時はすでに……〝遅かった〟。
「……へー? 随分、ありもしないことを言って誤魔化していたのね、亮……?」
……………………………………………………………………………………。
ぼたぼたぼたぼたぼた……結の……いや、このしゃべり方……元・お嬢さまの鋭い質問で、俺の全身から流れ出る妙な汗は、止まる気配すら見せなかった。
――やばい!!! 考えろ、俺!! 今すぐこの状況を打破する一言を言い放たなければ、俺の〝明日は〟……〝明日は〟……ッッッ!!!!!
「亮さま!!」
刹那、だった。――なんと、意外や意外! デジカメの持ち主である明が、俺に救いの手を差し伸べてくれたのだ!!
おおっ!! 俺は感激のあまり、思わず振り向くと、明は……写真を撮った時と同様に、耳まで真っ赤にして俯いている愛の隣で、満面の笑顔で親指を天に向かって突き立てた。
そして……ッッ!!
「あの! 残念ながら私は〝C〟ではなく、84センチの〝Dカップ〟です! ……しかしながら愛の方は〝大当たり〟ですよ! 86センチの〝Eカップ〟です!! さすがは亮さまですね! 測ってもいないのに見ただけでほとんど正確に言い当てるとは……思わずホレちゃいましたよ☆」
「……………………………………………………そ、そうか………………」
……。
…………。
………………。
……………………ふっ。
どうやら、俺は逃げることはできない〝宿命〟にあるようだな?
――ならば! 受け入れようではないか! その〝宿命〟とやらを!!
〝漢〟として、絶対に逃げないと! 今ここで誓おうではないか!!!
「ほら、亮? そんなことより、さっさと二人を送って行ってあげたら?」
「応ッッ!!!」
俺はそう力強く答えて、俺の〝明日〟のように暗い夜道……それを〝微かな希望〟というライトで照らしながら、二人を、二人が住んでいるらしいアパートへと送って行ってやった。
だが、その帰り道。お嬢さまは、〝明日〟すら待ってはくれないのであった……。




