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『――どうせなら、みんなでお風呂も入って行きなさいな! 遅くなっても帰りは亮ちゃんがその身に代えてでも無事に送ってってあげるから❤』
――という、有無も言わさぬ母さんの提案により、三人共お風呂に入りに行ってしまってヒマになった俺の部屋。
夜に出歩くのに、制服では色々とまずいだろう。そう考えて私服に着替え終わった俺は、仕方なく、目の前のテーブルに置いてある、その〝楽しそうな写真〟を撮ったデジカメをいじってみたり、眺めてみたりしながら、こういう時のために常備しているイヤホンを装備し、独りゾンビを倒しにハンバーガーな町へと繰り出していた。
……一応言っておこう。ゲームの話である。ちなみにイヤホンを装備した理由は、言わずもがな、きゃっきゃ❤ 騒がしいお風呂場の女子トークを聞いて、妄想してしまわないようにするためである。……お? ランダムからロケランが出たぞ? ラッキー。撃ちまくって鍛えまくって俺の脳を侵食する女子トークをかき消そう。
……さて、と。そんなことは毎回毎回どーでもいいとして、だ……それにしてもしかし、今日はいつにも増して一段と色んなことがあったもんだ。
突然転校生がきたと思ったらそれは俺たちの知り合いで、殺されたが代わりに結のおっぱいの感触を得て、帰ってきたら今度はみんなであんなに〝楽しそうな写真〟を撮って…………。
……って、あれ? 今一度考えてもみたら……もしかして今回って、結構〝良い思い出〟ばっかりだったんじゃないか?
だって、ほら? お嬢さまに殺されるのなんていつものことだから、その辺に置いておくとして、結果だけ見れば……
――幼馴染の二人と再会して、
――結のおっぱいの感触を得て、
――〝楽しそうな〟記念写真を撮る。
…………な? 不幸な俺にしては超珍しい。まるっと全部良い思い出じゃあないか。
まいったな……と、俺はバーガーショップの店員をゾンビ軍団から救出しながら、幸運ばかり続いている自分の今日の運勢に、〝恐怖〟した。
……え? 何で〝恐怖〟するのかって? ……いや、だってさ? こんだけ良いことが続いてるんだぜ? そろそろいい加減に、何かしらの〝不運〟ってもんがあるんじゃないかと思ってさ――
『亮ちゃ~ん! 電話よ~!』
――その時だった。イヤホン越しに、廊下で母さんが呼ぶ声が聞こえたのだ。
……電話? 電話って……言ったよな? 俺に???
珍しいな? 俺に電話なんて……そう思いながらも、「分かった~!」と返事をして、すぐに俺はゲームを中断し、廊下へと向かった。
……と、扉を開けると、すぐ目の前に、電話の子機を持った母さんの姿があった。――俺は首を傾げながら聞く。
「電話って……誰から?」
それがね~? と母さんは、なぜだか困ったような表情で話した。
「何か、〝メガネザルの悪友〟って伝えてくれれば、分かるって……」
……なんだ、クソメガネか。
「あー、なるほど。分かったよ」そう頷いて、俺は母さんから電話を受け取った。
「たぶん、学校の(一応)友だちからだよ。……何の用なのかは知らないけど?」
「あら、そうなの? まぁ、とりあえず要件が済んだら電話戻しておいてね? 母さん今アイロンがけしてるから」
「オッケー」
答えて、俺は母さんが戻って行くのを確認してから扉を閉め、改めてテレビの前に座った。
「……しかし、高のやついったい何の用だ? ――まさか、高が〝不運〟を呼ぶ元凶なのでは……」
『……聞こえてんぞ、こら~!』
――あ、何だ。母さんウェイトボタン押すの忘れてんじゃんか……。
はぁ~、やれやれ。そう深いため息をついてから、俺は仕方なく電話を耳に当てた。
「……何用だ、クソメガネ。俺の安息の時間を奪うんじゃねーよ。お前のせいでバーガーショップの店員を助けられなかったらどうしてくれるつもりだコノヤロー?」
『そん時はゾンビを一匹だけ残して、ペナルティーがなくなるまでその辺うろついてろ……って、そんなことを話しに電話したわけじゃねーよ。つーかお前もいい加減スマホ買えよ!』
「おいおい、こちとら母子家庭だぜ? そんな余裕なんかねーよ。ウチの学校はバイトとか色々厳しいしよ~? ……で、ホントにいったい何の用なんだ? 用がないなら切るぞ?」
『あるから電話かけてんだよ!!!』
キーン、と耳が痛くなってしまった。クソ、やっぱり〝不運〟の元凶じゃねーか……。




