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「その写真はですね? 愛にちょっとした〝コスプレ〟をさせて、それを見たみんなが思わず〝笑顔〟になってしまうような、そんな〝写真〟じゃなきゃダメなんですよ!」
……へ?
こ……〝コスプレ〟!!?
「……はい。――あの、実は……」
観念したように、愛は明の説明に補足を付け足した。
「……施設にいた頃、寮長先生から……『一応、その現状報告の手紙を書く練習はしておいた方が良いでしょう』……ということで、何通か実際に手紙を書いて、寮長先生に渡していたのですが……しかし、その中に明がふざけて私の……ね、〝ネコミミ〟……姿の写真を入れていたらしく、それを運悪く寮長先生が〝すごく気に入ってしまった〟らしく、その後私の知らないところで明が〝勝手に話を進めていた〟らしく……らしく……らしく…………」
「……な、なるほど。それで知らぬ間に毎週、手紙と一緒に〝コスプレ写真〟も送る羽目になってしまった……と?」
「……はい」「イエース! オフコースですよ亮さま~!」
くすん、くすん、と半泣きする姉の隣……それを生み出した元凶である年上の妹は、ぐっ! と親指を突き立て、満面の笑みを浮かべていた。
ははは……と俺は、そんな二人の様子を見て苦笑いすることしかできなかったけど――しかし、また一つ疑問に思ってしまったことがあった。それもすぐに聞いてみる。
「なぁ? てゆーか、さ? そんな写真があるってことは……愛も案外、〝ノリノリ〟、で写真を撮られていたって、ことなんじゃ……???」
「えっ!!? ――ち、違います!!!」
全力で、愛は否定した。
「ネコミミは私が寝ている時に明がこっそり付けたものなのです! 私には断じてそのような趣味はありません!! ――さ、明! これもどれも、あなたがやったことなのですから、少しは弁解を――」
「結さま、お母さま。ちなみにこれがその時の写真です」
「あー❤ 愛かわい~❤」
「あらホント! これは色んな服を着せたくなっちゃうわね❤」
「!? さっ、さささ、さや!!? あなた、何をして……!?」
へい! 亮さまパース! と突然、明は混乱して固まる愛のことも気にせずに、俺に向かって……おそらくその写真とやらが入っているのであろう。茶色の手帳をテーブルの上を滑らせて俺にパスしてきた。
キキィ! ……とは鳴らなかったが、まさに急ブレーキをかけたかのように、見事にそれは障害物(食器)をすり抜け、俺の目の前で停止した。
――そこに写っていたのは……まだ髪の毛が黒いままの、まさに小さな子どものようなかわいらしい寝顔+ネコミミを付けた、愛の姿だった。
「ふぷっ!」
そのあまりのかわいらしさに、俺は思わず笑って……いや、〝ニヤけて〟しまった。慌ててそっぽを向いてそれを隠す。
「りょ、亮さまにまで笑われ……!!」
――を、何か勘違いしたらしい。愛は、ずーん、と見るからに落ち込んでしまった。
「ああ! いや、すまん! べつにそんなつもりじゃ!」
「そうですよ、愛? 今のは、愛のあまりのかわいさに思わず〝ニヤけて〟しまったのを隠すために、そっぽを向いたんですよ? ――ね? 亮さま~?」
ぐ! ぬぅ……全てオミトオシってわけか……。
しかし、ここで認めてしまっては、逆に俺の〝漢〟としてのプライドがズタボロにされかねん。ここは、とりあえずはどっちつかずなことを言って、それから適当に話を逸らして、この場を乗り切ろう!
そう思った俺は、顔の形を整えてから、愛の方を向き直って話した。
「……あー、まぁ、そんなとこかな? だからそんなに落ち込むなって。てゆーかむしろ、そんな簡単な〝条件〟なら良かったじゃねーか。毎回テストで90点以上取らなきゃダメ、とか、そんなんじゃないんだろ?」
「それは……そうですが、しかし……」
「はい! それならこの話は終わり! ……って、俺から聞いといて、アレではあるんだけどさ? ……とにかく、分かったな?」
「……は、はい……承知いたしました」
……よし! 自然かつ、完璧な逸らし方だった!




