8-7
――食事の席での会話。
そこで俺はさらに、二人のことを知ることとなった。
まず、白乃宮事件が起こったすぐ後のこと。――俺の予想どおり、やはり白乃宮家の側近中の側近だった二人にも、世間の風当たりはそう良いものではなかったらしく、俺たちの通っている胎川高校に転校してくる前までは、二人共県外の学校(保護施設)に通うことを余儀なくされていたらしい。
……保育園、小学校、中学校……今からほんの数か月前までの二人は、まだまだ精神的に不安定な時期だとされる年齢であったことから、また、その身を守るために、特別な事情でもない限り施設から出ることも許されず、心に残した結のことを想いながら、ただずっと、何もできない悶々(もんもん)とした時間を送っていたのだ。
――しかし、高校生になった今、ようやく二人にも転機は訪れた。
そう、高校生という年齢……様々な〝条件付き〟ではあったものの、二人には〝自由〟が与えられたのだ。
施設から出る〝自由〟。
元いた町に戻る〝自由〟。
そして……転校する〝自由〟。
二人は、それまで嫌というほど味わってきた自分たちの苦労も顧みず、幼い頃から抱き続けた〝信念〟にのみ向かって真っ直ぐ突き進み、そして結の下へと戻ってきたのだ。
「――エラい!!」
突然、母さんが声を上げた。
「二人共大変だったのに、結ちゃんのことを……自分たちのご主人さまのことを想い続けて帰ってくるだなんて……! 結ちゃん? 将来、結ちゃんの目標が達成されて、もう一度二人が正式なメイドさんになったら、その時は二人に〝勲章〟の十個や百個くらいあげなきゃダメよ? 二人はそれくらいがんばってくれたんだから!」
「あ、はい! 千個でも、一万個でも、いくらでもあげちゃいます! ――愛、明、本当にありがとう! 私、絶対に二人との約束、叶えてみせるからね!」
「はい! よろしくお願いいたします!」
「結さま! 私たちもいっぱい手伝っちゃいますんで、何でも言ってくださいね~!」
「うん! ――あ、もちろん亮もいっしょにがんばってくれるよね?」
ふ……愚問だな。そう呟いてから俺は言い放った。
「俺は最初からそのつもりだ。その想いは誰にも負けない自信がある! ――そう! 譬え相手が側近中の側近であるお前ら二人でもな!」
「おお~! さすが亮さま! カックゥィ~!」
「へっ! よせよ、テレるじゃあねーか!」
あはははは、とそんな俺のナイスボケによって会話に花が咲いた――その時だった。
ふと、俺は疑問に感じたことがあったのだ。それをすぐに聞いてみる。
「――あ、なぁ? ところでさ? 二人がこっちに戻ってくることができるようになった代わりについた、その〝条件〟……って、いったい何なんだ? ……週に一回は必ず施設に戻るようにする。……とかか?」
「え? ――ああ、そのことでしたら、そんなに厳しいものではありませんよ? ただ、週に一通、状況報告の〝手紙〟を書くことと、それから……あの…………」
……と、そこまで言ってなぜか、愛は俯いてしまった。
……どうしたというのだろう? まさか、厳しくない、と口では言っていても、やはり相当に相当、厳しい〝条件〟が課せられているんじゃ――
「……〝写真〟……」
……え?
ポツリ。愛が呟いた。
「しゃ、〝写真〟???」
と、それには当然、俺も思わず聞き返してしまう。
愛は、そんな俺のことを見つめながら、気まずそうに頷いて、しぶしぶ、話した。
「……はい。〝写真〟です……それも、できるだけ〝楽しそうな写真〟を送ってほしいと、施設の寮長先生が…………」
……へ~。〝楽しそうな写真〟を……ねぇ……???
……。
……。
……。
……で? それのいったい何で、そんな気まずそうな表情になる必要があるのだろう? 文字もそのままに実に楽しそうな〝条件〟じゃないか???
「――ふっふっふ~! 実はですね、亮さま?」
と、ますます混乱の海へと沈んで行く俺を引き上げたのは、愛と全く同じ〝条件〟を課せられているはずの、明だった。
しかし明は、愛とは反面……まぜか〝満面の笑顔〟で、その理由を俺に話した。




