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うん、良い作戦だ。そう思った俺は、すぐに愛に確認を取った。
「愛、どうだ? 〝ルール〟……言っちゃダメな言葉は後で考えるとして、とりあえず、これならできそうか?」
「はい!」愛はまるで幼い子どもが見せるような、かわいらしい満面の笑顔で即答した。
「それならば私にもどうにかできそうです。亮さま、そして明、ありがとうございます!」
いや、俺は明の意見に賛同しただけで、べつに何もしてないんだが……。
何だか照れくさく思い、俺は思わず話を明の方に逸らした。
「――しかし明、お前よく思いついたな? 血は繋がってないって言ってたけど、さすがは愛の〝お姉ちゃん〟だな。見た目に反して性格が子どもっぽかったから、ちょっと意外だったぞ?」
「え~? 見た目に反してって……亮さまヒドーイ!」
あ、でもでも~、と明はすぐに付け足した。
「言うの忘れてましたけど……歳的には確かに、私の方がほぼ〝まるっと一つ年上〟なんですけど、正確には、私は愛の〝妹〟ですよ? 愛の方が〝お姉ちゃん〟です!」
「……は???」
歳は上なのに、自分は〝妹〟って……ドユコト??? え? いくら義理の姉妹だったとしても、歳が上なら〝お姉ちゃん〟なんじゃ……?????
「ああ! も、申しわけございません、亮さま! 明が混乱させてしまうような説明をしてしまって……!」
実は――と首を傾げる俺に、愛は説明した。
「私たち御守家は代々、メイドとしてのその〝実力順〟に〝地位〟が……つまり〝姉〟が誰かを決められることになっているのです。――私が亮さまに自己紹介いたしました時のことを憶えておられますか? あの時話した、白乃宮メイド隊の〝第一席〟とは、つまりは私が御守家の、〝一番上の姉〟であることを表しているのです」
「え? ……ああ! なるほど! お前たちが言ってた〝第何席〟ってそういう意味だったのか! 俺はてっきり、入った順番か何かだと思ってたよ! ……あ、じゃあさ? ついでに聞いておきたいんだけど……歳が一つ下っていうのはどういうことなんだ? まさか愛か明のどちらかが歳を偽って同じ学年に入ってきているのか?」
「いえいえ、そういうわけではありませんよ~?」
と、今度は明が答えた。
「ただ単に、私と愛の〝誕生日〟が、ほぼ〝まるっと一年〟違うというだけですよ! 愛が〝三月三十一日〟生まれで、私が〝四月一日〟生まれ、っていう具合にです❤」
あ! なるほど……また俺はすぐに納得してしまった。
日本の学校の入学式は、ほとんど全部が四月一日だ。つまり四月生まれの人は、必ずその学年の中では〝一番年上〟ということになり、逆に三月生まれの人は〝一番年下〟ということになる。
――愛と明の誕生日差は、明の言うとおりほぼ〝まるっと一年〟。だから……なんて言うのは二人に失礼かもしれないけど、誕生日が早い明は、若干大人びたような顔立ちで、遅い愛は、逆にまだ幼そうな感じが残っていた……と、そういうことらしい。
なるほど~。の連続だ。……話せば話すほど、今まで知らなかった二人のことが明らかになってくる。――無論、それは二人にとっても同じことなのだろう。二人も、俺と話せば話すほど、俺や結のことが分かってくるのだ。
だから、かもしれない。――慌てたり、困ったり、終始色んな表情をとっていた俺たちではあったものの、瞳の奥にはどこか、〝楽しさ〟だとか、〝うれしさ〟だとか、そういう感情が常に灯っていたのだ。
――最終的に、俺たちは自然と笑顔になってしまっていた。……当たり前だ。楽しいし、うれしいのだから。
それはまさに時が経つのも忘れるくらい……の…………
「――そういえば、亮さま?」
……明が聞いた。
「ところで、亮さまのお家はまだ先なんですか? 結構歩きますね?」
「……すまん」
「「……え???」」
二人が大きく首を傾げたのを見て、俺は思わずそこから顔を逸らしてしまった。そのまま、話す。
「……もう、だいぶ通りすぎてた……も、戻るぞ?」
「「…………」」
――ぷっ! あはははは!!!
顔を見合わせて、二人は笑った。それにより俺はますます恥ずかしくなり、顔をできるだけ二人から逸らした。それから、それを誤魔化すように慌てて大声で話した。
「――ほ! ほら! 早く行くぞ! こっちだ!」
「あ、はい! ――ふふふ♪ すみません、亮さま。今行きます!」
「亮さま待って~! ――てゆーか、恥ずかしがってる亮さまの顔見たいんで、こっち向いてくださ~い☆」
「黙れ! さっさとついてこ――って! やめろ! 回り込んでくるな! 顔を見ようとするな! やめて~!!」
――結局、この日は帰るまでに、〝普段の倍〟もの時間がかかってしまったのだった。




