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7-19 七話目終わり。


 むにゅん!


 ――突き出された両手。目の前にいるお嬢さま。二つの丸い膨らみ。そしてこの、効果音。

 一瞬、どころかかなりの長い時間、俺は今起きている現状を理解することができなかった。

 だが……その理解不能な時間も、やがては終わりを迎える。

 ――俺の両手がわし掴みにしてしまっている、この二つの丸い膨らみ……それが何なのか理解した瞬間、俺の中では急激に、〝二つの感情〟が高まっていった。

 一つは、〝幸福感〟だ。

 今まで腕には何度か押しつけられたことのあるそれではあるが、今回、それは俺の〝手〟という部分に押しつけられている。――それはつまり、人間の持つ触覚(しょっかく)能力(のうりょく)が最も優れた部位であり、腕などという比較的触覚の鈍い部分で触ったのとはわけが違っていたのだ。

 柔らかい…………だけじゃあない!!! この、指をも跳ね返す弾力……(たと)えるのなら、そう、〝ゴムボール並の弾力を持った、巨大な水まんじゅう〟……そんな未知の、神秘的な物体が今、俺の手によってわし掴みにされているのだ。

 何だろう、この〝幸福感〟。ずっとこうしていたい。そう心の底から思えるほどに、俺の気分は最高潮にまで高揚(こうよう)していた。

 ――だが、それと同時に、俺の中ではもう一つの感情が、それを追い越さんばかりの勢いで、ぐんぐん、と急速にそのメーターの数字を上げていた。

 その感情こそが、〝恐怖〟。

 それが上昇するにつれ、我を取り戻していった俺は、ふと、お嬢さまの顔を見た。

 ――と、そこにはあの、最恐の元・お嬢さまの姿はない……あったのは逆に、いつものかわいいかわいい、結の姿だった。

 どうやらあまりの突然のできごとに、結は反射的に元に戻ってしまったようだ。「え?」と未だに何が起きているのか理解できていないのか、結の目は・のままになってしまっている。

 ……できるのなら、このまま、ずっと理解できないでいてほしい……俺はそう思い、そして、心の底から願った。

 ――しかし、その願いは文字どおり、儚い夢でしかなかった。

 ・だった結の目には、ある時をすぎた瞬間、〝火〟が灯っていたのだ。

 〝火〟はまさに刻一刻……どころか、一秒ごとにその大きさを増していき、それが瞳全体を覆った瞬間、〝火〟は遂に、〝炎〟に成った。

 ――そう。〝憤怒(ふんど)の炎〟に。


 ぐっしゃぁぁぁぁあああ!!!!!!!


 ……痛み、すら感じない。だからどこをどのように殺られたのかも分からない。

 ただ……〝眠い〟ということだけは分かった。

 ……ああ、そうか。これが、〝死〟か……。

 ふっ、とそれを悟った俺は、ゆっくりと目を閉じる。


 ――また、ちゃんと保健室で目覚めることができるようにと、祈りながら……。






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