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そんな俺の様子を見てか、明はまたため息をつく。
「はぁ~……う~ん、しかし困りましたね~。それでは困るんですよ、亮さま~……そんなことでは私たちの、〝未来の素敵なご主人さま計画〟、が木端微塵に吹き飛んでしまうじゃないですか~」
「……そうか。そいつはすまなかったな。じゃあ諦めてくれ」
「諦めきれませんよ~! ……う~ん、何か良い方法は…………はっ! そうだ!」
ピカーン! と明の頭の上に電球が光った……ような気がした。明はそのまま、口全体を右手で覆い隠し、「ぬっふっふ~」と不気味に笑う。
……何かは知らんが、あの様子はきっと……それはそれは良からぬことを考えているんだろうな……どれ?
ぐっ、と目に神経を集中させ、俺はその何かを見極めようとしたが……明は最初の頃の印象とは違い、精神的に中々にガードが固いようだった。俺の驚異的洞察力でもその真意は掴めない。ぱきゅいーん、と簡単に弾かれてしまった。
チッ、と舌打ちを一度――ちょうどその時だった。
「……どこ行くのよ、亮?」
と、俺はいつの間にか後ろにいた結に呼び止められた。見ると、そこはすでに俺たちの教室だった。――さらに気がつくと、すでに結は元・お嬢さまに変身を遂げてしまっている。
「あ! いや、その……ちょっと考えごとをですね……スミマセン」
俺は急いで低姿勢に……お嬢さまの下僕へと変身を完了させ、首を傾げながらも教室に入って行ったお嬢さまの後を慌てて追った。
しかし、がっ、と……俺が教室に片足を踏み入れた――その瞬間だった。
「――ところで結さまー!」
突然。俺の後ろにいた明が大声でお嬢さまのことを呼んだのだ。
これには当然、
「? どうしたの、明?」
と、お嬢さまは振り向く。
――刹那のことだった。
「――えいっ☆」
ドンッ! ――突如、俺は背中に強い衝撃を感じた。気がつけば俺は明に背中を突き飛ばされ、すでに軽く宙に浮かんでしまっている。
……さて、皆さん。ここでクイズの時間だ。
Q,人間は背中を突き飛ばされた後、どういう反応をするでしょうか?
――答えは、そう。A,〝手を突き出して受け身をとる〟――だ。
これは人間が持つ危機回避能力……つまりは〝本能〟で、何も考えていなくとも反射的にそういった行動をとってしまうし、逆に何かを考えていても必ずそういう行動をとってしまう。
……何が言いたいのか? それはつまり、俺もその行動をとってしまったのだ。反射的に、他にどうすることもできずに。




