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 しー! しー! と必死に口元で人差し指を立てる明に、俺は慌てて結の方を向いた。

 しかし、それには当然、結たちはこちらの方を振り返って首を傾げていた。

 「どうしたの、亮?」

 「〝な〟……が、どうかしましたか?」

 「え? いや、その……な、ななな、なで……そう! なでしこジャパンが負けたって明が言うから……な、なぁ!」

 「――え? え、ええ! まぁ……あれは惜しかったですよね~もうあと一点取れていればとりあえず引き分けに……はぁ……」

 少し、わざとらしくも思えた明のため息ではあったが、結たちの傾げた首を元の角度に戻すには充分な動力であったようだ。「ああ、なんだ」と結は微笑んだ。

 「昨日の試合の話しをしてたの? あれは確かにおしかったよね~」

 「それなら私も見ましたよ、結さま。途中で日本の選手がケガをしてしまって……」

 「そうそう、あれさえなければね~」

 ……ふぅっ。俺は安堵のため息をついた。どうやらうまく誤魔化せたようだ。結たちは前に向き直り、再び教室に向かって歩き始めた。

 ――さて、と俺はそれを確認してから、明を鋭く睨みつけた。

 「……おい、いったいどういうつもりだ? いきなりそんなことを聞いてくるなんて?」

 今度は俺も小声での会話……明は一度、こほん、とせき払いをしてからそれに答えた。

 「どういうつもりかって……そりゃあもちろん、〝気になるから〟に決まってるじゃないですか。……考えてもみてくださいよ。まだ〝条件〟が達成されていないとはいえ、我々のご主人さまが結さまであることには変わりありません! ――つまり! ご主人さまの〝恋人〟は、未来の我々のご主人さま! 即ち! 亮〝さま〟は我々のご主人さま同然! だからこそ亮さまには常に〝さま〟を付けて呼んでいるんじゃあないですか!」

 ………………なるほど、〝さま〟って、そういうことだったのネ……。

 はぁ~、と俺は、今度は深いため息をついた。

 「オーライ。お前の言いたいことはすごくよく分かった。――だがな、残念ながら俺と結はそんな関係ではないんだよ。少なくとも恋人ですらない。出会って十年以上たった今でもな」

 ……そう、悲しいことに、な…………。

 明は、そんな俺の(むな)しい心境を見抜いたのか、少々困惑気味で口に手を当てながら話した。

 「え……ウソ? ……マジですか、亮さま? 先ほど軽くお話を聞いた限りでは、若い、それもはつじょ…もとい、青春真っ盛りな男女が一つ屋根の下、ずっといっしょに暮らしているんですよね? 何かしらのマチガイ…いえ! むしろ〝正しいこと〟があっても、全然おかしくありませんよね? ――部屋にこっそり侵入して、寝ている結さまにえっちぃ~なイタズラをしたり、ど直球にお風呂を覗いたり、洗濯機から下着をかっぱらって、くんくん、したり、最終的には、チュッチュラブラブ❤ しちゃったり!」

 「犯罪者か俺は」

 鋭い俺のツッコミに今度は明が深いため息をついてしまった。――そして、

 「……〝ヘタレ〟ですか、亮さま?」

 ……この一言だ。

 「うるせーよ」

 俺だって好きでこんな微妙な立ち位置にいるわけじゃねーんだよ。

 言って、俺はなぜか垂れてきた鼻水を、ずびっ、とすすった。……何度も。





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