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大罪人(おおとがびと)  作者: 晋作
2/2

第一話 乱暴食漢②ーもう人生設計はできている。


「いらっしゃいませっ!」


「ませぇ……」


「ありがとうございましたっ! またおこしくださいませー!」


「ませぇ……」


 未明ほのか 彩斗あやとは今日もコンビニで働いていた。自宅近く、駅から少しはなれたところにあるコンビニで人通りは多くはない。そのおかげでさほど忙しくもなかった。


「未明さん」


「ん?」


「暇ですね」


「ん」


(それは君が頑張りすぎるからだ。卯月さん)


 彩斗はそう思いながら隣にちょこんと立っている女の子をちらりとだけ見た。


 彼女の名前は 卯月(うつき) 綾音(あやね)


 同じ制服を着てレジに立っていることからわかる様に、同じコンビニでアルバイトに来ている女の子だ。

 明るくて、真面目で、気が利くし、頭も良い、顔も整っている方、そして何より良い人だ。

 彩斗がレジでボーっとしていても、めんどうくさい仕事は全部彼女がテキパキとこなしてしまう。なのに彼女は彩斗に対して文句一つ言うことなく屈託の無い笑顔でこうやって友好的に話しかけてくる。

 だがしかし、いやだからなのかもしれないが彩斗は正直、彼女のことが少し苦手だった。



「今日はいいお天気でしたね」


「うん」

(寝ていたからわからない)


「お洗濯ものが良く乾きました」


「そう」

(大学生だろう、家事までこなすのか、よくやるな)


「明日も晴れるといいですね」


「そうだな」

(夕方の『お天気エブリデイ』では曇りだと言ってたな、まあ当たるかどうかは知らないけど)


「……暇ですね」


「ん」

(それはさっき聞いたよ。別に話すことがないなら無理に話しかけてくれなくても、俺は全く気にしないんだけどな)


 彩斗が彼女を苦手と思う理由は気が利きすぎるがゆえに、彩斗みたいなダメ人間にこうやって気を使って無理に話しかけてでも、人間関係を良くしようとしてくれていることだ。

 その良い人間なところがやはり彼にとって少し苦手なのだと思わせてくる。


(俺からすれば、何というか、輝いてみえる。輝きすぎている。

 眩しすぎてとてもじゃないが直視できない。

 だってこんなに純粋そうな目で真っ直ぐこっちを見つめてくるんだから、正直どうしていいのか全くわからない)


「雑誌きれいにしてくる」

 居たたまれなくなって、とうとう自分から仕事をしだしてしまった。


「あっはい……」


 その返事を聞く前に彩斗はもうすでに逃げるようにレジから離れていた。


 後から聞こえたその声はなぜだか少し残念そうに感じられた。


(俺が彼女に心を開いてないように思われたからだろうか? せっかく話しかけてやっているのに……と思われては……いないか、断定は出来ないがさすがにそこまで腹黒い人ではないと思う。逆に俺が暗い人間だから頼んでもいないのに気にかけてくれているのかもしれない。責任感と正義感の強い人間は自分がなんとかしてあげなくてはと思っているところがあると思う。偽善、とまでは言うつもりはないがいらぬお世話だ。そういう人はだいたい自分に自信を持っているものだし、その成果が俺の態度からは伺えないと残念がっているのだろうか? 心配しなくても君じゃなくとも俺は誰にも心を開くことは無いし、友達がいなくては寂しいということも全く無い、あいにく救いなど必要としていない)


 そこまで考えて、やはり人間関係って面倒くさいなという結論に至る。考えるのが面倒くさくなった結果だ。


(何か作業をしているほうが楽だな。精神的に)


それを再認識しながら雑誌類を適当に整え始める。



 冗談などではなく本当に死にかけたことがあるという経験はそうそうあるものでもないだろう。そしてそこから奇跡の生還を遂げたことがある人間であればたいていは『生きる』ということを見直すきっかけとなり、今自分が生きていることに感謝して、生まれてきたことにすらも感謝して、『生きること』に前向きになるはずである。一般的には。


 しかしその奇跡の生還を遂げた彩斗は特に生き方や考え方、価値観を改めることもなく、日々仕方なくルーティンワークをこなすという後向きな生き方を変えることはなかった。まぁ言うほど劇的な生還というわけでもなく、本人が望んだわけでもなかったので、彩斗にとってはただ『死ぬこと』も面倒だという認識に至るだけだった。



(死ぬこととは? 生きることとは? そんなもの知らないし、探す気もない、考えてもわからないし、考えたくもない、適当に見つけたもので納得して自分をだましていくという手もあるが面倒だ。かといってそれらに対して抗えもしないし、受け入れる勇気もなくなってしまった、そうなればもうこうやって、ただただ先延ばしにして忘れてしまうしかない)



同じ色の紙束が重なるようにだけ並べつつそう考えていた。気づけば就業時間を五分過ぎてしまった。


(やっと時間か。はやく家に帰って寝よう)


「おつかれ」


「あっおつかれさまです」


すぐさま着替え、店を後にし、帰宅し、仕事前に沸かしてほど良くぬるくなった湯船につかり、ボーっとする。


 特にこれと言った趣味の無い彩斗は仕事以外の時間、自身としては最高の暇つぶしとしてテレビをよく見ている。そこでは日々ニュースなどで様々な理由で人が死んでいることが伝えられている。


(俺自身はどちらかといえば運が良い方なのだろう。

今まで自身にはたいした災厄には見舞われていないと思う。

ただそれがどうしたといった感じで、別に誰かのおかげだとも思っていないし、なので感謝もしていない。

たまたまそうなだけだ。)



 だからそう……。


 とうの昔に自分の生き方など決まっている。

 もうすでに人生設計はできているんだ。

 その密度に限らずだ。


 ただなんとなく生きる。


 希望もなく、絶望もなく

 目的もなく、野望もなく


 何もかもを見て見ぬふりをして、あらゆるものを先延ばしにして。


 生きるのも面倒、

 死ぬのも面倒、


 だから彩斗は『死んだように生きる』ことに決めていた。



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