桃子と名付けられた少女
2度目の進攻で私の親は魔族に殺された。私はそれをただ見ることしかできなかった。魔族は少数しかいなかったけど1度目の進攻で食糧をやられてしまった大人たちは飢えで満足に力を発することもできずにどんどんと死んでいった。
そんな時にあの人が現れた。
あの人は突如現れるやナイフを宙に舞わせるとそれを縦横無尽に振るい、魔族をすぐに全滅させた。この時私は思ったのだ。
何故、私のお父さんとお母さんが死んでしまう前に来れなかったのか。もっと早く来てくれれば…と。
今思えば助けてもらった側なのに酷い事を思っていたと思うが、それでもその時はそう思わざるを得なかった。
そして、その人が村に滞在することが決定し、村長たち大人の中でその人に対する処遇、それと私たち戦争孤児の対応についての話し合いが行われた。
その話し合いの結果、あの人がこの村に滞在してくれるようになるべく優先して食料を回そうと、彼らは私たちを売ることに決定した。
私は恨んだ。あの人を。少し早く来てくれればお父さんもお母さんも死なずに済んだ、私はここで売られなくて済んだ。隣にいる子だってそうだ。村の中に入られる前に来てくれれば…そんなことを思っていると急に変な匂いがして、私たちは外に出ることになる。
最初は変な匂いだったそれが近付けば良い匂いに変わり、そして誰が何をしているのか分かった。あの人が見たこともない大きな鍋で何か作っているのだ。
彼はそれを「なっとーじる」と呼び、魔法で器に注ぐと「誰か食べない?」と微笑んで差し出しました。
みんな怖がって出ません。最初の方に彼が【エアカッター】で刻んでいた物体が見たこともない、匂いの酷いものだったからです。ですが、恩人の好意を無駄にしてはいけないと売られるのが確定した私たちが毒見で食べるように小声で言われます。
それは涙が出るほど美味しかったのです。私たちのそんな姿を見て彼は言いました。「これで飢え死にすることはないね?じゃあみんなここに居て大丈夫だ。」と。
彼は村長を見ていました。あくまでも微笑みを崩さ無い彼に村長は頷きました。私たちはここに居ていいのです。それを思うとまた涙が出そうでした。私達が食べて大丈夫だったと分かると村人は皆「なっとーじる」に殺到して飢えを存分に満たしました。
その後、私は恩人である彼の側女に自分から立候補し、彼の下へ行きます。自分で言うのもなんですが、この村で一番可愛かったお母さんの娘だったのですから多少容姿には自信があったので喜ばれるだろうと思ったのです。
結果、私の方が幸せになりました。「なっとーじる」をいっぱい食べたのに「なっとー」という変な匂いの食べ物を押し付けられたのはちょっと困りましたが、美味しかったのでいいです。
また、お風呂とか言う物にも入りました。シャワーと言う物を浴びると体の汚れが落ち、お風呂は汚くなってしまいました。でも彼は怒らなかったし、何も言いませんでした。
それからずっとお世話をする為に彼の下に行ったはずなのにお世話をされるという生活をずっと続けました。
魔族に両親が殺された話をすると彼は申し訳なさそうな顔をして謝りました。そして戦いたいという私の為に魔法を教えてくれました。最初は難しかったけど、彼の持つナイフに魔力が付いているのを触って分からせてくれた後はスムーズに行き彼は同じことをして村の皆にも敵を討つ力を与えてくれました。
彼の過去の話もして貰いました。何故、納豆にあそこまで執着するのか。彼は昔古い本を読んで、昔の時代に大根が体にいいと信じて毎日2本ずつ食べ続けていた人がいたのだと言いました。
その人は人から何を言われても食べ続けたそうです。そして都という所に行く途中で賊に襲われたそうです。
その時、颯爽と助けに来てくれる2人のぶし。彼らは颯爽と現れると賊をばったばったと薙ぎ倒し、大根を食べていた人に微笑んで言ったそうです。
「私はあなたが食べていた大根と言う物の化身です。それでは!」
と。
つまり、彼はいつか納豆の化身に助けてもらうために納豆を食べ続けているらしいです。
それで私は思いました。この人はこんなに強いのに誰かの助けを必要としているのだと。なので私は守ってもらうだけの存在ではない、この人を支えていけるような人になると決めました。
その為に生まれ変わるという意思を込めて名付けをして貰おうと言ったところ、少し考えて「桃子」という名前をくれました。
最初は納豆から離れてくれなかったので苦労しましたが、最後には良い名前をくれました。嬉しかったです。
支えていける第一歩として私はこの人のお嫁さんになろうと思います。私ももう14ですので結婚できる年齢なのですが、彼は…幸人様は私にそういうことはまだ早いと思っているようです。
それに少し前に幸人様に訊いてみた質問にも頭を抱えさせられています。
「私と納豆どちらがお好きですか?」
と訊いた所、幸人様は真剣に考えられ、言い辛そうに仰りました。
「怒るかもしれないし、失礼かもしれないけど、納豆。」
カッとなって殴りました。真剣に考えてそうなのか…この薄い胸がいけないのか幼い体が悪いのか、もう色々考えてます。幸い、納豆の原料の大豆と言う物にはイソフラボンとか言うのが入っており、改善出来るかもしれないとのことです。
私の今の目標は納豆を越えることです。頑張りたいと思います。
因みにイソフラボンは子供にはあまり摂取させない方がいいです。過剰摂取すると毒になるので。幸人が食べさせているのはイソフラボンが多い胚芽を取った物なので大丈夫です。