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我が剣  作者: 奈々瀬とな
1部 刀と鞘
7/7

「朝も言ったように、信じてもらえないかもしれない。けど、あんなの見た後だから信じるも何も飲み込めよ」

 風人は吐き捨てるように言う。麻綾は軽く頷いた。

「どこからどう言えばいいかわからないが……。まず最初に、俺とあんたは」

「ちょっと待って。私の名前、言ってなかった。私は」

「知ってるよ。仙石麻綾。あんたはちょっとした有名人だったから。クラスにあんたの弟がいるしな」

「なら、名前で呼んで。なんだか……むずむずするから」

「……俺と仙石は刀と鞘の生まれ変わりなんだ」

「……え?」

 ほら、信じない。風人の目は呆れたように麻綾を見ている。しかしいきなりそんな事を言われて理解する人はいない。麻綾は何とか頷いた。

「続けて」

「俺たちが生まれたのは戦国の世。当時、有名だった刀匠が作った刀と鞘だった。それは献上され、とある武将の手に渡る。その武将が、さっき見た細川利光の父親なんだ」

「ちょ、ちょっと待って……突拍子もないんだけど」

「その力だって世間一般で見れば突拍子もないだろ。これくらいの話飲み込めって言ってるんだよ」

 麻綾はぐっと顎を引いた。確かにそうなので反論できない。

「続けるぞ。その父親っていうのが狂った人間でな。何があったか細かく話すと面倒だからかいつまむと、その父親は嫉妬心が強く、妻に色目を使うやつを片っ端から斬っていった。あんたを使って。そしてついに、息子まで斬った」

「あの、細川さん?」

「そうだ。……父親の妻、つまり細川光利の母親は自害した。常に戦いが起こっていた時代だったし、狂ってるとはいえそいつも武将だったから前線を戦い抜いていた。そいつの勢力を落とそうとして、敵陣は妻を人質にとった。けど、妻は人質になってどうにかなるよりは死を選んだわけだ」

「ちょ、ちょっと待って。ざっくり過ぎてわからないんだけど……」

「そこでいよいよ本格的に気が狂った父親は、妻を何とか蘇らせようとして……何がどう考えてそうなったかわからないが、刀を憑代にしようと考えた。刀を体に妻を復活させようとした。そのために息子を斬ったんだよ。同じ血が流れている息子を生贄にな」

 風人は聞かずに続ける。麻綾はすでについていけないもの感じたが、黙って聞くしかできなかった。

「けど、そんなこと叶うはずないだろ。父親はついに殺戮の鬼と化し、他の人に討たれた。そこで終わればよかったんだが……願いは中途半端なところで叶ったんだ。つまり、刀は転生という形で人になった」

「それが私……?」

「そうだ。そうしてあんたが生まれた」

「じゃあ、あの空間は?死んだはずの細川さんがいるのはなぜ?」

「それこそ父親の呪いだ。生贄として死んだ人間は成仏できるはずなく、呪いの檻に閉じ込められた。あいつはその檻から出たいだけなんだ。もうこれくらいでいいだろ」

 立ち上がろうとする風人を引っ張る。風人はよろめき、すぐにしゃがみこんでしまった。

「痛てぇな……。女のくせに馬鹿力だな」

「剣道で鍛えた筋肉だよ」

 麻綾が睨むと、風人は苛立ちながらももう一度座った。

「檻から出たいって、じゃあ出してあげればいいじゃない。それで済むのなら。どうしたらいいの?」

「いいか」

 風人は前へ出る。ガラスのような瞳が麻綾を覗き込む。麻綾は反射的に顔を下げたが、視線からは逃れられなかった。

「俺はあんたを守る。そのためだけに生まれてきたんだ。だったら、黙って言う通りにしろ。力の事は忘れて普通に過ごしてくれれば、俺はそれが一番いいんだ」

「わ、私は……守られるような立場じゃない」

「立場なんだよ。あんたは状況を知らない。俺は知ってる。なら、知ってる奴の言うことを聞け。命令だ。いいな」

「よ、よくない!」

「わがまま言うな。危険なんだ。あんたは強いかもしれないし力はあるかもしれないが、立場としては危ないところにいるんだよ。下手すれば死ぬかもしれない」

 死、という言葉は身近ではない。人の口から自分の死を告げられる事はまずない。その、まずない状態になり、麻綾はめまいを覚えたがすぐに取り直す。

「なら、もう少しちゃんと話して」

「これで大体の事は話した」

 風人はもう一度立ち上がるが今度は麻綾を警戒してか、睨みつけながらゆっくりと立った。その眼力に押され、麻綾は一歩遅れてしまった。

「待って。じゃあ、この先この力の事も中の出来事も、今聞いた事も何もなかったみたいに暮さないといけないの?それであなたの使命っていうのが達成される?あなたは私を守るっていうけど……あなたの言う守りは、そういう事なの」

 風人は振り返ったが目はこちらを見なかった。ちらりとだけ顔を見せてすぐにそむける。

「俺は、あんたが折られなければそれでいい。鞘は刀がないとだめなんだ」

 麻綾は引っかかるものを感じ、少しだけ考えた。風人の細い背中を見つめながら思考を巡らせる。

「このままなかった事にして……すべてが終わるの?昴君はとても辛そうに見える。あなたの意志で私を守るっていうよりは……そう、使命……何度も言っている、その使命に囚われているみたい」

 風人はぴたりと止まった。扉に手を当てた姿勢のまま動かない。けれど振り返る事もない。

「何が起こっているのかはわからないし、事情も結局飲み込めない。私とあなたが刀と鞘の生まれ変わりで、あの細川さんは檻から出たいと願っている。辻褄が何も合わない。細川さんの檻を壊すのは私じゃないとだめなの?あなたの言う危険って何?私は転生したっていうけど、あなたの話の流れからすると、それは、つまり……」

 麻綾の思考が軋む。聞いたばかりの話は消化できないまま胃の中に転がっているみたいだ。これ以上の答えは出すことが出来ず、麻綾は中途半端のまま口を閉ざした。風人の動きも再開する。

「何度も言う通り、俺はあんたが生きていればいい。それだけだ」

「待って!」

 風人は扉を解除するとさっさと行ってしまった。麻綾は手を伸ばした姿勢のまま立ち止まり……チャイムが鳴った。

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