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メガネに願いを  作者: 虹色
第九章 ハッピー・エンドを目指せ!
98/103

◇◇ 実は・・・。 ◇◇


おはよう、カメさん。

数馬くんはもう起きたかな?



数馬くん、おはよう!


きのうは楽しかったね。

いろんなことがあってドキドキしっぱなしだったけれど、今になってみると、全部しあわせな思い出になってる。

その時点ではどうしようもないように感じたことも、今では微笑みながら思い出せる。

お互いの気持ちを伝え合えたから。



それにしてもこのメガネ、願い事をかなえる効果絶大かも。

入試の日に会った人が誰だかわからないからって、ほかの相手を見つけてくれるなんて。

満足度200%!

ああ、しあわせ・・・。



だけど、数馬くんが帰りに芳くんと会うなんて。

電話で聞いて、びっくりしちゃったな。


ふふ。

数馬くん、ちょっと怒ってたっけ。

最初の言葉は


『ひどいよ、茉莉ちゃん。』


だった。それから、


『芳輝と翔に、修学旅行のメールの話をしたんだって?』


って。


一番知られたくなかったこと。


数馬くんの気持ちを知ってすぐ、 “やっぱり、あれは言っちゃいけなかったんだ!” って気付いた。

けれど、もう遅い。


「ごめんなさい。やっぱり、あれって特別・・・だよね?」


と尋ねると、数馬くんは


『当たり前だよ・・・。』


と、ため息をついた。

何度も謝りながらも、その一方で嬉しくて・・・ごめんね。

最後には、


『まあ、仕方ないよな。芳輝が言ってたよ、翔の誘導が上手かったって。』


と言ってくれて、ほっとした。

はい。そういうことにしておいてください。


それから・・・。




「あの・・・、ほかに何か言ってた?」


『え? ほかに? 何か心当たりがあるの?』


「いえ、べつに・・・ないと思うけど・・・。」


『ほんとに? 白状するなら今のうちだよ。』


「そんな言い方・・・。そういう数馬くんには、白状することはないの?」


『え? あ、う・・・。』


「あ! ほら見なさい。あるんでしょう? だから、そんなふうに威張って言う必要は・・」


『わかった。じゃあ、こうしよう。』


「・・・なに?」


『言えなかったことを、まとめて言う。』


「まとめて?」


『前に芳輝にも言われたんだけど、俺たちって言わないでいたことが多過ぎたと思う。』


たしかにわたしは頭の中であれこれ考えて、勝手に答えを出していたけれど・・・数馬くんもなの?


『だから、そういうことを思い切って全部出してしまう。どう?』


全部・・・。


そうだった。

おとといの夜、パニックになって芳くんに電話をかけたとき、芳くんは、わからないことは全部数馬くんに訊くようにって。


「うん。わかった。いいよ。」




・・・というわけで、今日の日曜日はそんなことを思い出しながら過ごして、夜の9時にメールで送る予定。

ほんとうは、ちゃんと顔を見ながら話す方がいいのかも知れないけれど、会わない方が言いやすいこともあるから。







「こんなものかな?」


夜の8時55分。

携帯に打ち込んだ “言えなかったこと” のリストを見直す。


リストには3つの打ち明け話。


『手塚くんが、数馬くんとわたしのことを誤解しているのに気付いても訂正しませんでした。』

『交流会の帰り、啓ちゃんがうちの親に、数馬くんのことをわたしの彼氏候補者だと伝えてしまいました。』

『修学旅行のとき、沖縄コースが八重女と同じホテルに泊まったことは、旅行中から知っていました。数馬くんがあやめちゃんと会ったことも。』



ほんとうは、訊いてみたいと思うことは、いくつかある。

『あのときの・・・は、どんな意味?』って。


でも、それは知らなくてもいいこと。

知らなくてもしあわせは変わらないから。

知らない方が楽しいこともあるし。


だから、たくさんメモした思い付きの中から、どうしても言っておかなくちゃいけないことだけを選んだ。


わたしが桃ちゃんやあやめちゃんのことで、心配したことは内緒。

焼きもちを焼いたなんて・・・言えません。


「さ、送ろうっと。」


ドキドキする。

これを読んだら、数馬くんはどんな顔をするんだろう?

怒っちゃう?

それとも、笑ってくれる?


数馬くんはどんなことを送ってくるのかな・・・?





来た!


9時7分。

携帯の画面に数馬くんの名前。


数馬くんがわたしに言えなかったことって、どんなことなんだろう?

全然、予想がつかない。ちょっと怖いな。


メールを開くと・・・画面いっぱいの文字!

数馬くんは絵文字は使わないから、ほんとうに文字で埋まってる。

込み入ってるのかな?

それとも、たくさんあるの?



『最大のウソを最初に白状します。』


最大のウソ?!

最初から・・・。


『文化祭の前に、俺の機嫌が悪かった日の理由を、お腹の具合が悪かったからだと言ったのはウソです。』


「えっ?!」


あれが・・・?


『あの日、茉莉ちゃんが手塚と付き合っているという噂を聞いて、』


え? なにこれ?

見間違い?


・・・・違う。見間違いじゃない。


『冷静でいられなくて、ひどい態度をとってしまいました。』


数馬くん・・・。


『次の日に噂が間違いだったことが分かったんだけど、そのことを茉莉ちゃんに言えなくて、ウソをつきました。』


ああ・・・、そうだったんだ・・・。


『あんな態度で茉莉ちゃんを傷つけたことも、自分の失敗をウソで隠したことも、ほんとうに悪かったと思っています。』


数馬くん・・・。


打ち明けてくれてありがとう。


あのまま黙っていても、わたしはずっとあの言い訳を信じて疑わないでいたと思う。

けれど、こうやって伝えてくれたこと、ほんとうに嬉しいです。


・・・それにしても、上手なウソだったね。

ちょっとカッコ悪い内容だったところが余計に真実味があったのかも。

これからは、数馬くんが言い訳をするときは、よくよく追及してみる必要がありそうだね。


だけど、わたしと手塚くんのうわさって・・・、ああ、まだ続きが・・・。


『茉莉ちゃんが書いていた “手塚の誤解” は、虎次郎と芳輝が出所だよ。交流会で俺が茉莉ちゃんを送って帰ったことを、あの二人がそういうふうに説明したんだって。その話が伝言ゲーム的に伝わって、「手塚と茉莉ちゃんが」に変わって俺のところに届いたんだ。それがこの事件の真相です。』


そうなの?!

そんなに前のことが?!


・・・うわさって恐ろしい。内容が変わっちゃってるし。

それにしても、虎次郎くんも・・・あのころから気付いてた? 恥ずかしい!


・・・さて、次は?


『交流会の日、八重女の柳原さんに、俺たちのメガネが似てるって言われたとき、』


ああ、このお話は話してくれたよね?


『「本当におそろいなんだ」って自慢してしまいました。』


「ぷっ。」


やだもう。かわいい。


『そんなことを言ったことが茉莉ちゃんにバレると困るので、「まだ秘密なんだけど」なんて付け加えて。』


念が入ってるなあ。

やっぱり、賢い人は細かいところまでぬかりがないのね。


次は?


『茉莉ちゃんが失恋したと勘違いしたのは、俺と誰のこと?』


・・・・え?

続きは・・・?


『失恋したと思ったときに、芳輝を相談相手に選んだのはどうして?』


あれ? これは次の質問?

これ、きのう忘れてくれたと思ってた質問だ。

どうしても気になるのね・・・。


でも・・・失恋の話には推測もなし? ってことは、全然気付いてなかったの?


きのう会ったときに、わたしがどうして森川さんのことを話題にしたのか、まったく分かってないの?

数馬くんて頭の回転速いし、困っているときにはすぐに気付いてくれるのに・・・自分のことにはほんとうに疎いんだなあ。


次は・・・。


『俺よりも、芳樹や翔と仲がいいのはどうして? 絶対に、俺とよりもたくさん話してると思う。』


なんだか・・・、なんとなく、恨み言を言われているような気がする。

“仲がいい” の内容が違うと思うんだけどな・・・。



ん?


ああ!

なんだ!



数馬くん、焼きもちを焼いてるんだ!


あら、まあ。思ってもみなかった。

びっくりしちゃう。

新鮮な経験・・・。


「ふふふ。」


なんだ〜♪

そうなの?


ああ、なんだかしあわせ!

回答はちょっと甘く? それとも、そっけなく?


・・・やっぱり、甘くだよね!

まだ二日目なんだから。


ええと、次の質問は?


『もっと早く俺の気持ちを伝えた方がよかったかな? 例えば、夏休みごろとか? 言おうと思ったことは、何度かあったんだけど。』


夏休みごろに?


・・・無理だったんじゃないかな?

もちろん、言われたら嬉しかったと思うけれど・・・。


うん、断らないよね。

ああ、いえ、どうかな?

「はい。」って言おうとして、土壇場で「やっぱりダメ!」って言ったかも。

でなければ、いったんお付き合いを始めてから、緊張しすぎてすぐにダメになっていたか。


そうだよね。

今で正解だと思うな。


わたしには時間が必要だったから。

数馬くんの近くにいることに慣れる時間が。


・・・それに、知らなかったからこその、楽しい思い出がたくさんある。

誤解だって、勘違いだって、全部そう。


それにね、数馬くん。

わたしには怒ることも必要だったみたい。

怒ること・・・っていうか、数馬くんが完璧なひとじゃないって知ること。

数馬くんにも不足していることがあるんだって分かったら、前よりも身近な存在に思えるようになったの。


だから、今までの時間は全然無駄じゃなかったと思います。



まだある?


答えを送るのに時間がかかりそう。

でも、その時間も、わたしには幸せな時間です。









次回、最終話です。

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