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メガネに願いを  作者: 虹色
第九章 ハッピー・エンドを目指せ!
95/103

◆◆ 言わなくちゃ。 ◆◆


覚悟を決めてきたものの・・・、頭がくらくらしてきた。

大丈夫なんだろうか?

玄関にたどり着いた途端に倒れたりしたらどうしようもないぞ。



チャイムを押すのも勇気がいる。

でも、あんまり時間が経ったらおかしいし・・・あ。


「いらっしゃい。」


迷っている気持ちを察してくれたんだろうか?

玄関に到着するのを待っていたようにドアが開いて、茉莉ちゃんのお母さんがにっこりと笑った。


「あの、こんにちは。」


笑顔が茉莉ちゃんと似ている。

茉莉ちゃんが、何か楽しいことを考えているときの笑顔と。


「夕食どきにすみません。茉莉花さんと少しお話しを・・・。」


「はいはい。そうね・・・、とりあえず、玄関に入って待っていてくれる?」


「はい。」


よかった。

部屋に通されるよりも、玄関のせまい空間の方が話しやすい気がする。

玄関と廊下がずれていて見えないから、なんとなく落ち着くし。


「いいから、早く行きなさい。」


お母さんの声。

茉莉ちゃん、俺と顔を合わせたくない?


・・・そうだよな。

さっき、あんなふうに別れたばかりで。


でも、出て来てください!

お願いします!



・・・あ。

よかった・・・。



廊下の角から現れた茉莉ちゃんは、さっきの服装のまま、髪をほどいていた。

いつものメガネ。

ピンク色のスリッパでそろそろと、少し拗ねた顔をして。


「茉莉ちゃん。」


俺の決意を感じた?

名前を呼ぶとハッとして、上目づかいに俺を見る。


「今日、言えなかったことがあったから・・・、それを言いたくて来た。」


「言えなかったこと・・・?」


訝しげな表情。

どんな想像をしてる?


「うん。俺、ずっと、茉莉ちゃんのことが好きだった。」


「・・・え?」


「今日はそれを言おうと思ってたんだけど、言えないままになっちゃって・・・、それで、今。」


ああ、やっぱり驚いた?


・・・あれ?

なんか・・・怒ってる・・・?


「どうしてさっき、言ってくれなかったの!!」


うわ!!


「なんで、今ごろ言うのよ!!」


「あ、あの、ごめん!」


だけど・・・それは。

茉莉ちゃんがそう言うってことは・・・やっぱり?


「だけど、茉莉ちゃん。」


ダメだ。

顔が・・・微笑んでしまいそうだ。


「なによ?」


まだ怒ってる?

でも。


「茉莉ちゃんが、先に断ったと思ったんだよ。」


「・・・え?」


「俺、入試の日には、このメガネをかけていなかったから・・・。」


これが俺の見当違いだったらみっともないな。

だけど・・・。


「うそ・・・。」


やっぱり・・・そうなんだね。

ああ、茉莉ちゃん。

きみの記憶力は、あんまり当てにならないんじゃないかな?


「うそじゃないよ。あの日は古いメガネで。」


「古いメガネ?」


「うん。このメガネは中3の途中で変えたんだけど、前に使ってた方で模試のときにいい点が取れていたから、縁起をかついで、入試の日には古い方をかけて行ったんだよ。」


「古い・・・メガネ・・・。」


そんなにびっくりした?


「じゃあ、じゃあ・・・、あれは・・・・誰?」


「さあ?」


俺にそっくりな誰かさん?


「数馬くんは・・・誰?」


茉莉ちゃん!

混乱しちゃってる?

まったく・・・・・かわいいよ。


「俺は」


そうだ。

胸を張って言わなくちゃ。


「茉莉ちゃんのことが好きな、日向数馬です。」


どうしてあんなに言えなかったんだろう?

茉莉ちゃんを好きなことは恥ずかしいことじゃないのに。


みんなに聞いてもらいたいくらいだ。

俺は茉莉ちゃんが好きだ!


「茉莉ちゃんにとっては人違いかもしれないけど、俺は間違いなく、茉莉ちゃんのことが好きです。」


笑いがこみ上げてくる。

どうしたんだろう? ハイになっちゃってる?


「人違い・・・。」


茉莉ちゃんは・・・呆然?


そうだよな。

入試から一年半以上。

ずっと、その誰かのことを俺だと思って。


ずっと・・・。


「茉莉ちゃん。」


「あ・・・、はい。」


「俺じゃ、ダメかな?」


「・・・え?」


「俺が・・・入試のときに会った相手じゃないから、ダメ、かな?」


茉莉ちゃん。

俺、そんなに不思議なことを言った?

そんなふうにまっすぐ俺のことを見てくれたのって、初めてじゃないかな?

ちょっとくすぐったい気がするよ。


「あ・・・。ダメ、じゃないです。」


茉莉ちゃん。


「わたし・・・、わたしが好きなのは、今、目の前にいるひと。」


ああ、茉莉ちゃん。


「記憶の中の誰かじゃなくて・・・、一緒に話したり、笑ったりできるひとです。」


やっと微笑んでくれたね。


「うん。・・・ありがとう。そして、これからも一緒に思い出を作っていく相手のつもりだけど?」


「・・・はい。」


あ。


この笑顔だ。


「わたしも、そのつもりです。」


すごく嬉しそうな、幸せそうな笑顔。

ずっと前、学校の帰りに見せてくれた笑顔。


あのとき、どうして気付かなかったんだろう?


「ふふ。」


茉莉ちゃんが笑ってる。

楽しそうに。

それだけで、こんなに幸せだ。


「来てくれてありがとう、数馬くん。」


「うん。」


手を握っちゃっても・・・いいかな?


「ジャスミン? お話しは終わったの?」


あ、お母さんの声?

なんだか、タイミングが良すぎるような・・・。


「あ、うん! 終わったよ。」


“もうちょっと” とは言ってくれないんだね。

まあ、夕食の時間だし、仕方ないか。


「あの、今日はこれで帰るよ。また・・・あ。」


お母さん。

わざわざ見送りに出てきてくれた?


「日向くん、どうもありがとう。」


「いいえ。急にお邪魔して、すみませんでした。」


「いいのよ。ジャスミンが帰ってから元気がなかったから、日向くんが来てくれてよかったわ。うふふ。」


「お母さん!」


「あら、いいじゃないの、言ったって。ねえ、日向くん。このまま、うちで夕飯を食べて行かない?」


え?


「あの・・・、でも、急にでご迷惑では・・・?」


「大丈夫よ。今日はすき焼きなの。」


すき焼き・・・。

今日、話題になったばかりの・・・。


「すき焼き? ああ、あのお肉ね!」


“あのお肉” ?


「あのね、お母さんが応募した懸賞で当たったの。最高級和牛すき焼き用1kg! 三人で必死で食べないとねって言ってたんだけど、数馬くんがいてくれれば、すごく助かるよ。ね、お母さん?」


「ええ。だから遠慮しないでどうぞ。」


そんなふうに言われたら、断れないなあ・・・。


「はい。ご馳走になります。」


「よかった!」


茉莉ちゃんが喜んでくれている姿が一番嬉しいな。


「お母さん。数馬くんは焼き豆腐が好きなんですって。」


「あら、そうなの? じゃあ、少し買い足した方がいいわねえ。」


「あ、あの、べつにそこまでは。」


焼き豆腐くらいのことで・・・。


「大丈夫。このマンションの一階にスーパーが入ってるの。お母さん、わたし、数馬くんと一緒に行ってくるよ。」


「じゃあ、そうしてくれる? 今、お金を持って来るわね。ええと、ほかには・・・。」


そうだ。

夕飯いらないって、家に連絡しないと。

携帯は・・・。


「ねえ、数馬くん。」


「あ、なに?」


「うちのすき焼きなら、取り合いにならないでゆっくり食べられるよ。」


茉莉ちゃん・・・。

そうやって楽しそうに笑ってくれるんだね。


「そうだね。俺にとっては初めての経験だなあ。ははは。」


「すき焼きの気分が出なかったらごめんね。」


「そんなことないよ! なんたって、 “最高級和牛” なんだから。兄貴たちが悔しがる姿が目に浮かぶよ。」


「そう? よかった!」


たぶん、最高級和牛よりも、茉莉ちゃんと一緒に夕飯を食べることの方を、兄ちゃんたちは羨ましがると思うよ。







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