◇◇ ああ、もう! ◇◇
言えた!
数馬くん、わたし、ずっと・・・。
「よかったね、茉莉ちゃん。」
・・・は?
「そのひとと、上手くいくといいね。」
ええええぇ?!
伝わってない?!
「あの、数馬くん。そのひとって」
「ああ・・・、いいよ、もう。茉莉ちゃんの気持ちはよくわかったから。」
どういうふうに?!
全然わかってないよ!!
信じられない!
数馬くんって、ものすごく鈍い人なのかな?
あんなに頑張ったのに・・・。
「数馬くん・・・。」
もう・・・なんて言ったらいいの?
情けなくて、泣きたくなってきた・・・。
「数馬くんの馬鹿。」
あ。
言っちゃった。
「え?」
「馬鹿。もう知らない!」
こうなったら何度でも言っちゃうんだから!
「え? あの。茉莉ちゃん?」
もう・・・いっぱい困ればいいんだ!
ああ・・・なんだか腹が立ってきた。
ふん!
そりゃあね、はっきり「好き」って言えないわたしも悪いかもしれないけど、あんなに頑張ったんだよ!
映画を見ながら決心して、それからずっと、どうやって言おうか考えて。ドキドキして。
なのに!!
それなのに、「上手くいくといいね」って、何よ?!
まるっきり他人事?
今までのわたしの態度とか思い出して、察してくれてもいいじゃない。
2年生になってからたくさん話せるようになったってことで、気付いてくれてもいいじゃない。
失恋したと思ったけど違ったって話で、森川さんのことを思い出してくれてもいいじゃない。
今日、二人だけで出てきたことだって、さっき、一緒にパフェを食べたことだって、考えたらわからない?
わたしが誰とでもそういうことをすると思ってるの?!
メガネのことだって、今までに何度も似てるって話をしたじゃない。
なのに、どうして分からないの?
ああ、もう!
ホントに信じられない。
まさか、自分が数馬くんに腹を立てる日が来るとは思ってもみなかった。
あ。終点?
「茉莉ちゃん、気を付け・・・て。」
ふん!
このくらい大丈夫に決まってるでしょ!
小さい子だって乗ってるのよ!
ほら。
ふらついたりしないんだから。
わたしは何でも一人で平気。
数馬くんに助けてもらわなくても・・・。
「茉莉ちゃん!」
ふん。
数馬くんと一緒になんか歩かない。
待ってなんかあげないもん。
「あ?!」
つまずいた?! わわ・・・。
「茉莉ちゃん!」
・・・ほ。転ばなかった。
足もと・・・、こんなに小さな段差に?
ああ、もう!
「大丈夫?」
数馬くん・・・。
数馬くんの腕。
さっきの告白が上手くいっていれば、今はこの腕につかまって歩いていたかも知れないのに・・・。
もう・・・。
「知らない!」
放さなくちゃ、今は。
もう、今日は仕切りなおす元気が出ない。
今日はどころか、二度とないんじゃないかな。
“わかってくれるひと” だと思っていたのに、こういう話にはまったく疎いなんて・・・。
「あの・・・、帰ろうか?」
「うん。」
あらら、あんなにおろおろして。
ちょっといい気味。
鈍いのはどうしようもないことだけれど・・・。
数馬くん。
怒ったことは謝りません。
帰りながら、よく考えてみてください。
「今日はどうもありがとう。」
「うん・・・。あの・・・。」
「ここで大丈夫。改札から出たら余分にお金がかかるし、うちは見える場所だから。」
電車の中でも、あんまりお話しできなかった。
あんなふうに怒ってしまったから、数馬くんもわたしも、なんとなく気まずいまま。
「そう・・・。」
朝、ここで会ったときには、まさかこんな気分で帰ってくるとは思っていなかったのに。
ドキドキしていたけれど、期待で胸がいっぱいだったのに。
「あの・・・、この湯呑み、今日から使うね。」
ああ・・・、むなしい。
「じゃあ・・・、またね。」
「うん。・・・月曜日に。」
数馬くん、どうしてわたしの気持ちに気付いてくれないんだろう?
いつも優しくて、他人のことを思いやってくれるのに。
ねえ、気付いてよ。
そうやって、手を振っておしまい?
どうしてわたしが怒ったのかわかってよ。
・・・もう、見えない。
さびしいよ。
帰ったら、カメさんに今日のことを話そう。
・・・・・!!
わたし、間違ってるかも。
あんなふうに怒ったりしちゃ、いけなかったかも。
もしも、伝わったんだったら?
わたしが数馬くんのことを好きだってわかって・・・、それでも、わからないふりをしたんだったら?
わたしを・・・傷つけないために。
そう。断って傷つけないために。
わたしの気持ちに応えられないから。
わたしたちの今の関係を崩さないように。
お誕生日のプレゼントだって、わたしがあげたから、単なるお返しかも知れない。
買いに行く時間がなかったから、どうせなら一緒に選んだほうが早いしって・・・。
そんなことに期待して、勝手にあれこれ考えて・・・。
ああ、また一人で勝手に盛り上がっちゃったんだ。
わたし、ほんとうに懲りない性格なんだな。
たいへん!
それなのに、数馬くんに「馬鹿。」なんて言っちゃった!
ああ、どうしよう?!
馬鹿なのはわたしだよ!!
ああ・・・、落ち込んじゃう・・・。
「ただいま・・・。」
「お帰りなさーい♪」
しまった。
お母さんに、数馬くんと出かけるって言っちゃったんだっけ。
誰と出かけるか言わないと心配するから。
お母さんたちは数馬くんのことを彼氏候補だと思ってるし・・・。
「どうだったの? 楽しかった?」
「うん・・・。」
途中まではね・・・。
「何か買ってきたの?」
「え? ああ、これ・・・、湯呑み茶碗なの。」
数馬くんと一緒に選んだ・・・。
白ウサギが跳ねているピンク色の湯呑み茶碗。
可愛いでしょう?
「あら、可愛いわねえ。今日から使う?」
「うん・・・。洗ってくるね。」
お母さんに追及されないように・・・。
「ジャス? なんだか元気がないわねえ。」
「そう? 少し疲れちゃったかな? きのうも賑やかだったしね。」
そうです。
疲れちゃったの。
きのうの夜からずっと緊張していたから。
さっきの告白で、気力を使い果たしちゃったから。
「夕飯まで休んでてもいい? お手伝いが必要だったら呼んでくれれば来るから。」
「・・・どうぞ。」
「ありがとう。」
そうだ。
わたし、結局、失恋しちゃったんだ・・・。