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メガネに願いを  作者: 虹色
第九章 ハッピー・エンドを目指せ!
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◆◆ 訊きたいことと、伝えたいこと。 ◆◆


観覧車、それに、あのメニュー。

茉莉ちゃん・・・先週、芳輝と二人でここに来た?



あの甘夏の飲み物は期間限定のメニューだった。

もちろん、ほかの場所で飲んだのかも知れないけど・・・。


それに、どうして観覧車に乗ろうなんて言ったんだろう?

芳輝と一緒で楽しかったからじゃないのか?

あの写真・・・あんなに笑ってた。


芳輝は、失恋した茉莉ちゃんをなぐさめるためだって言ってた。

だけど、茉莉ちゃんの気持ちは?

あの次の日、月曜日から、茉莉ちゃんは元気になってたじゃないか。

芳輝と一緒に出かけたから元気になって・・・。



あ。



俺、また自分勝手に考えてる。

あのときと同じだ。

勝手に考えて、茉莉ちゃんを傷つけたあのときと同じ。


訊かなくちゃ、ちゃんと。本当のことを。

それで・・・もし、悲しい答えが返ってきても、ちゃんと受け止めよう。


「茉莉ちゃん。」


「はい?」


微かに緊張した表情。

戸惑っているような微笑み。


それは・・・どういう意味?


「茉莉ちゃんは・・・、もしかして、先週、ここに来た? その・・・」


どうする?

どこまで?


「芳輝と?」


目をそらすな。

茉莉ちゃんは・・・びっくりしてる?


「知ってたの?」


「うん・・・。」


もちろん、驚いて当然だよな。

だけど・・・そんなに真っ赤になるなんて。


「芳くんから聞いたの?」


「・・・うん、そう。」


「なんてこと!」


やっぱり知られたくなかったんだ・・・。


「あの・・・、ごめん、茉莉ちゃん。誰にも言わないから・・」


「え? あ、あの・・・?」


「芳輝とのこと、秘密にしたいなら誰にも・・」


「芳くんとの・・・って・・・。」


どうして、そんなに不思議そうな顔をする?

俺にも言いたくない?

だけど、もうわかってることなのに。


「二人で出かけたこと・・・とか。」


「二人? ・・・もしかして、誤解、して・・・る?」


「え?」


誤解?


「わたしと芳くんが二人で来たって・・・思ってる?」


「え・・・? 違うの?」


「あの、先週は三人で来たんだけど・・・。」


「三人?」


そんなふうに言い訳するなんて。

どうして?


「そう。芳くんと栗原くんとわたし。」


・・・え?

栗・・原・・・って、あれ?


「翔?!」


ほんとに?!


「あの、ホントだよ。写真もあるよ。・・・ほら、これ。」


あ・・・。

観覧車の中?

三人並んで・・・。


「この写真撮るとき、片方に三人で座ったから傾いて揺れちゃって、すごく怖かったの。それで、どうしようもなくてこんなに笑ってるの。」


この写真だ!

芳輝が俺に送って来た・・・トリミングしたのか?

手の込んだことをしてくれて!

あんな意味ありげなことまで言って!


それに、翔のヤツ!

芳輝とグルになって・・・、何が “和田と大野に会ったよ” だ!

一緒に来てたんじゃないか!

まったく、もう!

完璧にウソじゃないところが憎たらしい。


あ。

でも・・・、じゃあ・・・、あれは、俺に決心をさせるため・・・?


「数馬くん・・・、どこまで聞いたの、かな?」


「え?」


「あの・・・、出かけた理由・・・とか。」


あ。


「ええと・・・、ごめん、失恋したって・・・。」


「ふぅ・・・。やっぱりね。芳くんて、けっこう口が軽いよね。」


「それほどではないと思うけど・・・。」


相手が俺だからだと思うよ・・・。


そうだ。


“俺だから” だよ。

俺が茉莉ちゃんを好きだから。



――― 言わなくちゃ。



「茉莉ちゃん。芳輝が俺に話したのは、」


「あのね、数馬くん。」


「・・・なに?」


止まってしまった。


「その・・・わたしが失恋したのって、誤解みたいだったの。」


え?


「わたしの・・・好きなひとが、ほかの人を好きだって思い込んで、失恋したって思ったの。先週。で、落ち込んでたの。」


茉莉ちゃん・・・、「思い込んで」・・・?


「でも、そうじゃなかったみたいなの。そのひと、その女の子のことは、普通のお友達としか思ってなかったみたいで・・・。」


そんなに頬を染めて・・・。


「あの・・・よかったね。」


じゃあ、俺は・・・。


「うん・・・。あのね、わたし・・・、そのひとに一目惚れしたの。」


一目惚れ?!

茉莉ちゃんが?!


「そ・・う、なんだ・・・。」


「・・・うん。あの、入試の日に。」


「入試の日?!」


そんなに前から・・・?


「そうなの。変でしょう? ただ、同じ教室で試験を受けただけなの。話すとか、目が合うとか、そういうことは何もなかったの。なのに、 “このひとなら、わかってくれる” って、いきなり思って。」


「・・・そういうことも、あるんだね。」


「うん・・・。」


誰なんだろう?

茉莉ちゃんが一目惚れした相手は・・・。


「あの、に・・、入学式の日にすぐにわかったの、 “あ、このひとだ” って。でも、ずっと話すチャンスがないままで、だけど、そのひとのことは好きなままで・・・。」


「うん。」


「でも、2年生になってからね、そのひととたくさんお話しできるようになって、嬉しくて、そうしたらますます好きになって・・・。毎日、とっても楽しかった・・・。」


茉莉ちゃん。

そんなにそのひとのことが好きなんだね。


「前に・・・、前に、このメガネに願い事をしてるって言ったの、覚えてる?」


「ああ・・、うん。」


「その願い事ってね・・・、そのひとと仲良くなれますようにっていう・・・、あの。」


茉莉ちゃん。


どうして俺に、そんなことまで?

そんなに言いにくそうに。

まるで、勇気を振り絞るみたいに?


「たくさん話せますようにって・・・。」


「うん・・・。」


「そういうお願いだったの。」


「うん・・・。」


なんとなく分かるよ、その気持ち。


「でね、今・・・、その願い事が・・・叶うかもって思って・・・。」


茉莉ちゃん・・・。

それは、つまり・・・。


「あのね、あの・・・、どうしてそんな願い事をメガネにしたのかっていうとね、メガネがそのひととのつながりになると思ったからなの。」


メガネが・・・そのひととのつながり・・・?


「あの・・・、そのひとと似てるメガネを選んだの。このメガネ。」


え?


「入試の日に、そのひとがかけていたのと似てるから選んだの。」



そんなに懸命な目で・・・。



俺の気持ちに気付いたから?

俺に言わせないため?

それが、茉莉ちゃんの俺への優しさ?

俺が口に出してしまったら、今の関係が壊れてしまうから・・・。



失恋決定 ――― 。



茉莉ちゃんが好きなのは俺じゃない。

俺はあの日、このメガネをかけていなかったんだから・・・。







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