◆◆ 訊きたいことと、伝えたいこと。 ◆◆
観覧車、それに、あのメニュー。
茉莉ちゃん・・・先週、芳輝と二人でここに来た?
あの甘夏の飲み物は期間限定のメニューだった。
もちろん、ほかの場所で飲んだのかも知れないけど・・・。
それに、どうして観覧車に乗ろうなんて言ったんだろう?
芳輝と一緒で楽しかったからじゃないのか?
あの写真・・・あんなに笑ってた。
芳輝は、失恋した茉莉ちゃんをなぐさめるためだって言ってた。
だけど、茉莉ちゃんの気持ちは?
あの次の日、月曜日から、茉莉ちゃんは元気になってたじゃないか。
芳輝と一緒に出かけたから元気になって・・・。
あ。
俺、また自分勝手に考えてる。
あのときと同じだ。
勝手に考えて、茉莉ちゃんを傷つけたあのときと同じ。
訊かなくちゃ、ちゃんと。本当のことを。
それで・・・もし、悲しい答えが返ってきても、ちゃんと受け止めよう。
「茉莉ちゃん。」
「はい?」
微かに緊張した表情。
戸惑っているような微笑み。
それは・・・どういう意味?
「茉莉ちゃんは・・・、もしかして、先週、ここに来た? その・・・」
どうする?
どこまで?
「芳輝と?」
目をそらすな。
茉莉ちゃんは・・・びっくりしてる?
「知ってたの?」
「うん・・・。」
もちろん、驚いて当然だよな。
だけど・・・そんなに真っ赤になるなんて。
「芳くんから聞いたの?」
「・・・うん、そう。」
「なんてこと!」
やっぱり知られたくなかったんだ・・・。
「あの・・・、ごめん、茉莉ちゃん。誰にも言わないから・・」
「え? あ、あの・・・?」
「芳輝とのこと、秘密にしたいなら誰にも・・」
「芳くんとの・・・って・・・。」
どうして、そんなに不思議そうな顔をする?
俺にも言いたくない?
だけど、もうわかってることなのに。
「二人で出かけたこと・・・とか。」
「二人? ・・・もしかして、誤解、して・・・る?」
「え?」
誤解?
「わたしと芳くんが二人で来たって・・・思ってる?」
「え・・・? 違うの?」
「あの、先週は三人で来たんだけど・・・。」
「三人?」
そんなふうに言い訳するなんて。
どうして?
「そう。芳くんと栗原くんとわたし。」
・・・え?
栗・・原・・・って、あれ?
「翔?!」
ほんとに?!
「あの、ホントだよ。写真もあるよ。・・・ほら、これ。」
あ・・・。
観覧車の中?
三人並んで・・・。
「この写真撮るとき、片方に三人で座ったから傾いて揺れちゃって、すごく怖かったの。それで、どうしようもなくてこんなに笑ってるの。」
この写真だ!
芳輝が俺に送って来た・・・トリミングしたのか?
手の込んだことをしてくれて!
あんな意味ありげなことまで言って!
それに、翔のヤツ!
芳輝とグルになって・・・、何が “和田と大野に会ったよ” だ!
一緒に来てたんじゃないか!
まったく、もう!
完璧にウソじゃないところが憎たらしい。
あ。
でも・・・、じゃあ・・・、あれは、俺に決心をさせるため・・・?
「数馬くん・・・、どこまで聞いたの、かな?」
「え?」
「あの・・・、出かけた理由・・・とか。」
あ。
「ええと・・・、ごめん、失恋したって・・・。」
「ふぅ・・・。やっぱりね。芳くんて、けっこう口が軽いよね。」
「それほどではないと思うけど・・・。」
相手が俺だからだと思うよ・・・。
そうだ。
“俺だから” だよ。
俺が茉莉ちゃんを好きだから。
――― 言わなくちゃ。
「茉莉ちゃん。芳輝が俺に話したのは、」
「あのね、数馬くん。」
「・・・なに?」
止まってしまった。
「その・・・わたしが失恋したのって、誤解みたいだったの。」
え?
「わたしの・・・好きなひとが、ほかの人を好きだって思い込んで、失恋したって思ったの。先週。で、落ち込んでたの。」
茉莉ちゃん・・・、「思い込んで」・・・?
「でも、そうじゃなかったみたいなの。そのひと、その女の子のことは、普通のお友達としか思ってなかったみたいで・・・。」
そんなに頬を染めて・・・。
「あの・・・よかったね。」
じゃあ、俺は・・・。
「うん・・・。あのね、わたし・・・、そのひとに一目惚れしたの。」
一目惚れ?!
茉莉ちゃんが?!
「そ・・う、なんだ・・・。」
「・・・うん。あの、入試の日に。」
「入試の日?!」
そんなに前から・・・?
「そうなの。変でしょう? ただ、同じ教室で試験を受けただけなの。話すとか、目が合うとか、そういうことは何もなかったの。なのに、 “このひとなら、わかってくれる” って、いきなり思って。」
「・・・そういうことも、あるんだね。」
「うん・・・。」
誰なんだろう?
茉莉ちゃんが一目惚れした相手は・・・。
「あの、に・・、入学式の日にすぐにわかったの、 “あ、このひとだ” って。でも、ずっと話すチャンスがないままで、だけど、そのひとのことは好きなままで・・・。」
「うん。」
「でも、2年生になってからね、そのひととたくさんお話しできるようになって、嬉しくて、そうしたらますます好きになって・・・。毎日、とっても楽しかった・・・。」
茉莉ちゃん。
そんなにそのひとのことが好きなんだね。
「前に・・・、前に、このメガネに願い事をしてるって言ったの、覚えてる?」
「ああ・・、うん。」
「その願い事ってね・・・、そのひとと仲良くなれますようにっていう・・・、あの。」
茉莉ちゃん。
どうして俺に、そんなことまで?
そんなに言いにくそうに。
まるで、勇気を振り絞るみたいに?
「たくさん話せますようにって・・・。」
「うん・・・。」
「そういうお願いだったの。」
「うん・・・。」
なんとなく分かるよ、その気持ち。
「でね、今・・・、その願い事が・・・叶うかもって思って・・・。」
茉莉ちゃん・・・。
それは、つまり・・・。
「あのね、あの・・・、どうしてそんな願い事をメガネにしたのかっていうとね、メガネがそのひととのつながりになると思ったからなの。」
メガネが・・・そのひととのつながり・・・?
「あの・・・、そのひとと似てるメガネを選んだの。このメガネ。」
え?
「入試の日に、そのひとがかけていたのと似てるから選んだの。」
そんなに懸命な目で・・・。
俺の気持ちに気付いたから?
俺に言わせないため?
それが、茉莉ちゃんの俺への優しさ?
俺が口に出してしまったら、今の関係が壊れてしまうから・・・。
失恋決定 ――― 。
茉莉ちゃんが好きなのは俺じゃない。
俺はあの日、このメガネをかけていなかったんだから・・・。