◆◆ がんばれ、自分! ◆◆
予想外の展開!!
茉莉ちゃんのこのつかまり具合っていうか、抱き締め具合っていうか、腕にかかる力が・・・もう!
なんだか、自分がものすごーく頼りにされてる感じ。強い男になった気分。
さっきはメガネにぶつかるほど顔を寄せ合って。
嬉し過ぎて笑いが止められなかったよ〜。だらしない顔を見られなくてよかった。
いや〜、映画館っていいなあ。
一つだけ残念なのは、茉莉ちゃんがつかまってる服が亮輔兄ちゃんのだってことだ。
このまましらばっくれて、俺のものにしちゃおうかな?
この分だと、告白したら、いい返事がもらえるかも。
とにかく茉莉ちゃんは、俺のことを嫌いではない。それどころか・・・、うわ、どうしよう?!
・・・何を考えてるんだ!
“どうしよう?!” じゃないだろ?
そこの部分が覚悟できてなくてどうするんだ?
うーん、じゃあ、どうする?
そうだな、まずは手をつないでみようかな?
さすがに、今日いきなり「チュッ!」なんていうのは無理だよな。
ああ、そうだ。
何かおそろいの物を買うとか・・・。
違う!
“どうしよう?!” の覚悟って、そこじゃないだろ?!
『うわあああああ!』
「わ!」
あ。
茉莉ちゃーん。
もうちょっとピッタリくっついてくれてもいいんだけど・・・。
ダメだ。
この状態で、何かをちゃんと考えるなんてできない。
今はこのまま身を任せて、幸せな気分に浸ろう・・・。
「ほんとうにごめんなさい。」
上映が終わったら、早々に放されてしまった腕がさびしい。
そのままつかまって歩いてくれてもよかったのに。
・・・それを言うことができない俺。やっぱり弱気な男?
「3時半か・・・。甘いものでも食べて、落ち着こうか?」
うん、そうだ。
さっきは手塚たちと一緒で、あんまりゆっくり話せなかった。
午前中は俺がハイになってたし。
このあと、告白するんだから、俺も少し落ち着いた方がいい。
「うん・・・。」
茉莉ちゃん、少し疲れた顔をしてる?
「大丈夫? あの映画、あんなにドキドキする内容だとは思わなかったよね?」
「はい・・・。」
あれれ、深呼吸なんかしちゃって。
よっぽど怖かったんだな。かわいそうに。
手をつないであげた方が・・・、いや、やめておこう。
予告なしにそんなことをして、また後夜祭のときみたいになったら大変だもんな。
あーあ。
この、ほんの少しの距離が・・・あ、笑った。
なんか・・・、すごく親しみのこもった・・・。
なんだろう? ちょっと、なんか・・・。
「あ、あの、茉莉ちゃん、何を食べたい? 俺、さっきのところで見た抹茶パフェが気になってるんだけど。」
今日一番、いや、この2週間くらいで一番の笑顔かも!
「わたしも。でも、少し大き過ぎる気がして。だって、お昼のあと、座ってただけでしょう?」
「そういえば、茉莉ちゃんの親子丼、けっこうな量だったよね?」
「そうなの。ご飯が深くて驚いたけど、残すのは好きじゃないから頑張って食べちゃった。」
会話が弾んでる!
もしかしたら、映画館効果で親密度アップ?!
フードコートはさっきよりも混んでいるけど、二人ならどうにか座れそう。
「やっぱり、パフェは大きくて無理そう。ホットチョコレートにする。」
江川さんに勧めていた甘夏のじゃないんだ?
・・・あれ? あのメニューって・・・。
「お待たせしました〜。」
「あ、はい。」
二人席は空いてなくて、柱周りのカウンター席に並んで座って・・・気付いた。近い。
向かい合わせの二人席よりも、こっちの方がはるかに近い。
隣同士って、 “仲良し” って感じがするなあ。
これからはいつもカウンター席を選ぶことにしよう。
・・・と言っても、次があったらだけど。
いや!
“次” は自分で作るんだ!
隣で赤いカップのホットチョコレートをふーふーと冷ましている茉莉ちゃんの真剣な横顔がかわいい。
そうっと一口飲んで・・・目を上げて。
「あ・・・。」
目が合うとそうやって、まばたきをしながら下を向くところ・・・ずっと変わらないね。
「これ、美味しいけど、思ったよりも大きかったなあ。茉莉ちゃんも一緒に食べない?」
「え? ・・・いいの?」
「うん。全部一人で食べたら、お腹をこわしそうな気がする。」
「お腹をって・・・、ふふ、そういうこと、あったね。」
「・・・そうだっけ?」
そんなカッコ悪いこと・・・?
「ふふふ、忘れた? みんながお休みだった日に数馬くんがお腹をこわしてて、機嫌が悪くて。」
ああ、あれか!
あの言い訳、ほんとうに信じてくれたんだ・・・。
素直で優しい茉莉ちゃん。
「そうだったね。あのときは、ほんとうにごめん。」
俺は真実を確かめずに、そんな茉莉ちゃんを傷つけた。
「仕方ないよ、緊急時だもん。それに、ちゃんと謝ってくれたから。」
そうやって、俺を許してくれた。
あのとき、芳輝に言われたんだ。
俺と茉莉ちゃんの間には言葉が足りないって・・・。
「じゃあ、また数馬くんがお腹をこわしたら気の毒だから、わたしも一緒に食べようかな?」
「うん、どうぞ。スプーンは・・・?」
「こっちに付いてるのがあるから。」
残念。「あーん。」はナシか。
でも、いいや!
この調子なら、うまく行くかも!
帰り道のどこかで告白しようと思っていたけど、ちょっと無理な気がしてきた。
どこを見ても人がいっぱい歩いてるし、ベンチも満席。
こんなことなら、さっき、パフェを食べながら言ってしまえばよかった!
「あの・・・、数馬くん。」
「あ、なに?」
そういえば、茉莉ちゃん、お店を出てから黙りがちだ。
俺も考え事をしていたから気付かなかったけど・・・。
「あのう・・・、か・・・、観覧車に乗らない?」
観覧車?
・・・観覧車か! その手があった!
「うん、そうだね。いいよ。」
観覧車なら二人きりだ。
思う存分言えるぞ!
・・・・と、思ったのに。
なんて難しいんだろう。
狭い空間に二人きりって、こんなに気まずいもの?
乗ろうって言い出した茉莉ちゃんも、なんとなく緊張してるし。
何を言ってるんだ!
頑張れ、俺!
早く言わないと、あっという間に一周まわっちゃうぞ!
「あの・・・茉莉ちゃん。」
「はい・・・。」
「俺、その・・・、す・・・、」
次の「き」が出ない!
「す・・・、す・き・・・、すき・・焼きの季節だよねえ。」
馬鹿ーーーー!
「え? すき焼き・・・?」
「あ、あの、茉莉ちゃんはすき焼きの具は何が好き?」
こんなところに「好き」を使いたいんじゃないのに!
「え? ええと、しらたき、かな?」
「ああ、味がしみ込むと美味しいよねー。俺は焼き豆腐。」
ああ、早く終わりにしたい、この話題。
「焼き豆腐?」
「そう。小さいときから一番好きなんだよ。」
何やってんだ、俺は?
「もしかしたら、数馬くんの家では、すき焼きのときは争奪戦になる?」
「もちろんだよ! 男三人の兄弟だからね。作るのが間に合わなくて、待ち時間ばっかり。」
「楽しそう。わたしのうちは、親が『ほら、食べなさい。』ってどんどん取ってくれるの。だから大急ぎで食べなくちゃならなくて、たいへんなの。ふふ。」
あ・・・、でも、笑ってくれた。
緊張が解けた?
うん、俺もだ。
これなら・・・。
あれ?
・・・観覧車?
それに、あのメニュー。
・・・・・芳輝?
もう一話、数馬が続きます。