◇◇ どうしたらいいのか分からない! ◇◇
よかった〜!!
お昼だけでもカナちゃんが一緒にいてくれれば、ずいぶん気が休まる。
午前中はずっとパニック状態だったから。
手塚くんには申し訳ないけれど、カナちゃんから言い出してくれたことだし。
だって。
二人だけなんて・・・デートみたいだよね?!
ゆうべからずっと気になっている。
“いいの?” って。
電話のあと、わけがわからなくてパニックになって、結局、芳くんに電話してしまったけれど、芳くんは何も答えてくれなかった。
『わからないことは、全部、数馬に訊かなくちゃだめだよ。』
って笑うだけで。
だから、頑張って訊いた。森川さんのことを。
なかなかストレートに質問ができなくて、ものすごく遠まわしになっちゃったけれど。
そうしたら、数馬くんは質問の意図が分からないという顔をして、普通のクラスメイトだって。
要するに、あの話は桃ちゃんの誤解だったってことらしい。
数馬くんと森川さんは、なんでもなかった。
つまり、数馬くんは森川さんのことをなんとも思っていない・・・。
そんなふうに思ったら、違うパニックが押し寄せてきた。
じゃあ、今日のお出かけは何?!
どうして二人だけなの?!
数馬くんは誤解されてもいいの?!
数馬くんにとって、女の子と二人で出かけるって、どのくらいの意味があるの?!
わからない〜〜〜〜!!
芳くんは、数馬くんに全部訊けって言ったけど、こんな質問できないよ!
こんなことを訊いたら、まるで、期待している答えがあるみたいだもん!
図々しいって思われちゃうもん!
なるべく考えないようにしていても、目が合ったり、腕がぶつかったりするたびに、過剰な反応を押さえるのに精一杯。
お店をまわっているうちに少しは落ち着いてきたけれど、やっぱり恥ずかしくて・・・。
だから、あんまり近くに寄りたくない。でも、あんまり離れたら、嫌っていると勘違いされそうで、それもできない。
だけど・・・ほんとうは、近くにいたいよ〜! でも、恥ずかしい!!
ああ、もう!
心がもっと単純だったらいいのに!
あれこれ思い付かなければ、何もかも、もっと簡単なのに!
「茉莉さん、何にする?」
あ。
お昼ごはんを決めなくちゃ。
広いフードコートには、座席を囲むようにお店が並んでいる。
ハンバーガー、どんぶり物、麺類、肉まん、アイスクリーム・・・食事からデザートまでいろいろ。
まずは、4人でぐるりとメニューをチェック。
「あ、カナちゃん。あそこの甘夏のヨーグルトシェイクが美味しいんだよ。」
「そうなの? 茉莉さん、よく知ってるね。」
「あ、うん・・・。」
しまった。
黙っていればよかった。
先週来たとは言いづらい。
ぼんやりしてるから・・・。
ええい、話題をそらしてしまえ!
「あ。わたし、親子丼にしようかな? みんなは決めた?」
「うん。」
「決まったよ。」
「じゃあ、席を決めて、買いに行こうか。」
この4人のメンバーでわたしが仕切ってるなんて、信じられない・・・。
「ねえ、茉莉さん。」
歩きながらこっそりとカナちゃんが囁く。
「なあに?」
「茉莉さんと日向くんって、メガネがおそろいみたい。ふふ。」
それを狙って買ったメガネだけど、他人から言われると恥ずかしいよ〜!
「あ、え、そう?」
ほんとうは、朝から何度もガラスに映る自分たちをチェックしていた。数馬くんに気付かれないように。
チェックして・・・実を言えば、嬉しくなった。
とても仲良しに見えたから。
「うん! なんだか、すごく可愛いカップルだよ。」
すごく可愛い・・・カップル?
“カップル”って・・・。
「え? あの、やだ、どうしよう? 数馬くんとはまだ・・・。」
まだ決まったわけじゃないのに!
「茉莉さん、いつまでもそんなこと言ってないで、認めちゃった方がいいよ。」
「カナちゃん・・・。」
認めちゃった方が・・・?
はっきりと意思表示をした方がいいってこと?
もしかしたら・・・「告白したら?」ってこと?
芳くんも、「あきらめるなら伝えれば」って言ってたっけ・・・。
もし、数馬くんに「好きです。」って言ったらどうなるんだろう?
ずっと、無理だって思ってきたけれど、もしかしたら・・・?
『バ ―――― ン!!』
「ひっ!」
怖い!
やっぱりヒーローものにすればよかった!
あのとき、恥ずかしがらないで言えばよかった!
数馬くんと一緒に恋愛ものなんて無理だし、子ども用のアニメ映画は周りが幼稚園児ばかりになりそうで却下、動物ものは感動して泣きそうだからダメ。
ほんとうはヒーローものがけっこう好きなんだけど、恥ずかしくて言い出せなかった。
一人では絶対に見に来ることができないから、思い切って「これ!」って言ってしまおうかと思ったけれど・・・。
で、次々と殺人が起こるサスペンスを選んでしまった。
だけど!
こんなに怖いとは思わなかった。
急にドアが開いたり、悲鳴や音が聞こえたり。
ゆらゆらする画面もなんだか不安になるし。
もっと謎解きがメインなのかと思ったのに・・・。
『キャーーーーーッ!』
「わ!」
こんな調子じゃ、お菓子とか食べてる場合じゃないよ。
びっくりするたびに声が出ちゃって、みっともないし。
「茉莉ちゃん。大丈夫?」
ああ、数馬くん。
「ご、ごめんね。うるさい?」
わ、近い。
小さい声で話すから、このくらいじゃないと聞こえないけど・・・、暗くてよかった・・・。
「うるさくないよ。でも、だいぶ怖そうだから。」
「あの、ちょっと・・・びっくりするだけ。」
『そこだ!!』
「きゃっ!」
ガツッ。
痛い!
「イテテ・・・。」
数馬くん?!
?!!
腕につかまっちゃってるよ!!
「ごっ、ご・・、ごめんなさい。」、
離して、離して!
う・・・おでこがズキズキする。
数馬くん・・・メガネをはずしてる?
わたしのおでこが痛いってことは・・・、もしかして、数馬くんのメガネに頭突きを・・・。
「ごめんなさい・・・。」
ホントにわたしって、何をやってもダメだ・・・。
「ぷ。・・・・・くくく。」
笑ってる?
・・・よかった、気を悪くしないでくれて。
そうだよね。
数馬くんが、こんなことくらいで怒るわけがないね。
ほっとしたら、体の力が抜けてきた・・・。
「茉莉ちゃん。」
あ、近い。
なんだかしあわせ〜。
暗くて顔が見えないから安心だし。
「はい。」
「よかったら、腕につかまってていいよ。」
え?!
「あの・・・、でも・・・。」
せっかく解けた緊張がまた・・・。
「心配いらないよ。暗いし、一番後ろだから誰にも見えないよ。」
そ・・・それも心配だけど、もっと心配なのはわたしの心臓なんですけど?!
『ギャーーーーーーッ!!』
「うわ!」
あ。
「そのままでいいよ。」
笑われてる・・・。
「・・・はい。すみません。」
どうか・・・、どうか、ドキドキしているのは映画のせいだと思ってくれますように!
ああ・・・だけど、この安心感。
このまま、ずっとこうやっていたい。
・・・ずっと?
もしも。
もしも、数馬くんにわたしの気持ちを伝えたら、この腕はいつでもわたしに・・・?
今だけじゃなくて、ずっと・・・?