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メガネに願いを  作者: 虹色
第九章 ハッピー・エンドを目指せ!
89/103

◆◆ 今日は絶対に! ◆◆

最終章です。


落ち着け。


何度も頭の中で練習したんだから大丈夫。

場所、言葉、態度。

断られた場合も想定済みだ。



今日の予定は、


1、茉莉ちゃんへのバースデイ・プレゼントを買う。

2、昼ごはん。

3、映画。

4、帰りに告白。


頑張らなくちゃ。


映画の候補は純愛ものなんだけど・・・、わざとらしいかな?

でも、これで言いやすくなるかも知れないし・・。


ああ・・・だけど、やっぱり映画の前に告白の方がいいかな?

お互いに気持が分かってからのラブ・ストーリーの方が気分が盛り上がるかも。

それに、断られたら思いっきり笑えるような映画にすれば、そのあとも普通に・・・いや、ダメだ。断られた時点で、映画はなしだろうな。

そんな気がある男と一緒に映画を見るなんて、茉莉ちゃんにはあり得ないだろうから。

予定通りで行こう。



それにしても、茉莉ちゃんはどの程度を考えていたんだろう?

朝、メールで『どこかに行くのでしょうか?』なんて訊いてきたけど・・・。

きのうの夜、亮輔兄ちゃんのせいでちゃんと話せなかったからな。


まったく、うちの兄ちゃんたち二人とも、俺の邪魔ばっかりして。

まあ、その代わり、ジャケットを貸してもらったけど。

・・・パーカーにジャケットって、大丈夫かな?

普段、服装を気にすることってなかったから、不安だし、なんとなく気恥ずかしい。

兄ちゃんたちは大丈夫だって言ってたけど・・・。



あ、桜沢だ。降りなくちゃ。



迎えに行くって言っちゃったけど、よく考えたらあのマンションってオートロックだったな。

エントランスで部屋番号を押して、開けてもらわなくちゃならないのか?

なんとなく気が挫けそう。


ああ、もう、弱気になるな!

今日は大事な日なんだから!


ええと、自動改札の・・・あ、れ?


「茉莉ちゃん・・・?」


向こうから改札を通ってくる黒縁メガネの小柄な姿。

薄茶色のパーカーに白いダウンベスト、デニムのロングスカート、編み上げ靴。

キャンバス地の茶色のバッグを肩から斜めにかけて、緩く編んだ髪を左の肩にかけて。


茉莉ちゃんらしい、気取らない服装。

それに・・・、それに・・・、その笑顔。

恥ずかしそうで、少し自信のなさそうな、その笑顔は・・・。


「あの・・・、おはようございます。」



やっぱり!

戻った?!



「あ・・・、おはよう。」


おとといまでとは違う。

前の茉莉ちゃんだ。


どうしたんだろう?

なんだか、俺まで恥ずかしくなってきた。

頬に血が上る・・・。


「あの・・・、」


何を言うんだっけ?

思い出せない!


「あ・・、お迎えに来てくれるって言われたけれど、それでは申し訳ないので来ちゃいました。」


ああ、茉莉ちゃん。

その笑顔も、その声も、言葉も。

そばにいるだけで、胸が苦しくなるよ。


「うん・・・、ありがとう。ええと、じゃあ、行こうか。」


「はい。」


その恥ずかしそうな様子。あの日を思い出すよ。

一葉と八重女との交流会の帰り。

メガネがおそろいに見えるっていう話題におろおろしていたよね。



よし、気合いを入れて。

今日は失敗しないようにしたい。けど・・・。



全部、忘れちゃったよ!!



プランは辛うじて覚えてるけど、セリフは全部消えた。

こうなったら腹を括るしかない。

とにかく最後に告白する。それができれば、今日の目標は達成だ!


・・・いや。

できれば「YES」の返事をもらうことを目標にしたい・・・。


「あの・・・、数馬くん。」


「あ、なに?」


うわ。

その控えめな視線が・・・。


「あのう・・・、森川さんは・・・?」


「え? 森川さん?」


なんのことだろう?

どうしていきなり森川さんが?


「森川さんがどうかした?」


「え? いえ、あの、ええと・・・、森川さんって優秀なひとだなあって思って。」


「ああ・・・、そうだね。勉強もできるし、委員長もしっかり務めてるよね。」


「・・・うん。」


「だけど、その分、けっこう口うるさいよ。」


「あ、・・・そうなの?」


「優秀だから、ほかの人も同じくらいできると思っちゃうのかなあ。合唱の練習も注文が多くてさあ。手抜きを許さないようなところもあるし。」


なんでこんなに森川さんのことを話してるんだ?


「ふうん・・・。」


「まあ、うちのクラスが優勝できたのは森川さんのお陰だけどね。」


・・・茉莉ちゃん?

なんとなく、何か言いたそうなんだけど・・・。


「あの・・・。」


「うん。」


何か言いにくいこと?

なんだろう?


「森川さんと・・・仲良し?」


「え?」


仲良しかって訊かれても・・・。


「特に仲が悪いわけじゃないけど・・・、普通に同じクラスってことで・・・。どうして?」


あれれれ。

真っ赤になっちゃってるよ。

茉莉ちゃんにとっては、何か大事なことだったんだろうけど・・・何だ?


「いいい、いえ、あの、なんでもないの、です。はい。あの。」


ああ・・・。

久々に出たよ、敬語。

なんだか緊張感が伝わってくる。


「き・・・、今日はその・・・、ふ、二人、ですか?」


あ。


それで?


「ええと、その予定なんだけど・・・。ダメ・・・かな?」


もしかして、帰りたいなんて・・・?


「いっ、いいえ! あの、その、だ、大丈夫、です。」


よかった〜!



・・・っていうか、茉莉ちゃん、今まで何人で行くと思ってたのかな?

それで、森川さんのことを訊いたのか?

どういう経過をたどってそこに行きついたのか、詳しく聞いてみたいな・・・。








「どうもありがとう、数馬くん。」


恥ずかしげに頬を染めてお礼を言う茉莉ちゃんは、あまりにも可愛い。


――― 今日は俺が独り占め。


なんてことを考えながら、何秒かぼんやり見つめてハッとした。



最初に大きなショッピングセンターの雑貨屋をまわって、茉莉ちゃんのバースデイ・プレゼントを選んだ。


店をまわるだけでも俺のテンションは上がりっぱなし。

遠慮して、入った店ですぐに決めようとする茉莉ちゃんを止めて、その界隈にある雑貨屋を次々に引っ張りまわした。

そのあいだに茉莉ちゃんの緊張も少しずつ解けて、普通に話ができるようになった。


最終的に茉莉ちゃんが選んだのは、和風雑貨の店の湯呑み茶碗。

店の人にプレゼント用に包んでほしいと頼んだとき、茉莉ちゃんに「もったいないから、いいよ。」と袖を引っ張られて、たったそれだけのことにまたドキドキしてしまった。


他人から見ても、絶対にデート中に見えているはず。

この調子で、次は昼ごはんだ!


「映画館の建て物のフードコートが充実しているらしいよ。どの映画を見るか決めながら食べようよ。」


「はい。」


ああ・・・、その笑顔も俺のため?

幸せすぎる!



こんな様子なら、今、「好きだ」って言っちゃっても大丈夫かも。

そうしたら、手をつなぐことだってできる。

この微妙な距離だって埋まるはず。


いや、それは、茉莉ちゃんの答えが「YES」の場合に限るけど・・・でも、この感じだとたぶん・・・。


こんなふうに思うのは、俺がハイになってるせいなのか?

だけど・・・。


ショッピングセンターと映画館をつなぐ大きな歩道橋。

人がたくさん歩いているけど、誰も俺たちのことなんて気にしないし、気付かない。

二人だけでいるのと同じだ。


うん。

ここは思い切って・・・。



「わ! ごめんなさい。あれ?」


「あ、いいえ・・・、カナちゃん?」


え?

江川さん?


「あ・・・、どうしよう?」


茉莉ちゃん・・・。

ああ、そんなにおろおろして。

そりゃあ、仲良しの江川さんに見られたら恥ずかしいのは・・・、と、手塚?!


「なんだ、日向か。」


江川さんと手塚?

そういう組み合わせ?


あ。

茉莉ちゃんを通して文化祭に誘った相手って、江川さんのことだったのか!


「茉莉さーん♪」


「カナちゃーん♪」


抱き合って喜んじゃってるけど・・・。


「手塚・・・いつから?」


二人には・・・あの様子じゃ聞こえないな。


「いつって・・・出かけるのは今日が初めてだけど。」


俺と同じか。

・・・その目つき。俺たちが邪魔なんだな?


そういえば!


一葉では、俺と茉莉ちゃんは夏休みごろから付き合ってることになってるんだっけ!

そんな話が茉莉ちゃんにバレないうちに、早く別れた方がいいな。


「日向たちは買い物?」


「あ、そうだよ。茉莉ちゃんの誕生日のプレゼントをね。」


大丈夫。

これは本当のことだ。


それに・・・カップルっぽいよ〜。

なんか、自慢♪


「ねえ、手塚くん。」

「あのね、数馬くん。」


「「なに?」」


あの手塚のにやけ顔!

・・・俺も同じか?


「せっかく会ったんだから、一緒にお昼を食べないかって。」


え?


「カナちゃんたちも同じ場所に行くところだったみたいなの。」



手塚ーーーー!!



・・・お前も俺と同じ気持ち?


「・・いいよ。4人の方が楽しそうだよね。」


茉莉ちゃん。

もしかして、俺と二人でいるのが嫌?



違う!

そんなことはない!

嫌なんじゃなくて、恥ずかしいんだ!


茉莉ちゃんはきっと・・・俺と二人だけなのが恥ずかしいだけだ。



・・・よね?







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