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メガネに願いを  作者: 虹色
第八章 本当ですか?
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◇◇ 新しいわたし。 ◇◇


こんなに笑えるなんて!


芳くんと栗原くんが企画してくれた、わたしをなぐさめる会。

金曜日に聞いたときに、たしかにこの顔ぶれなら遠慮もいらないし・・・とは思ったけれど、今朝までの間に少しずつ不安になってきていた。

楽しんでいるふりをしないといけないような気がして。




あの金曜日・・・。


一人になってから、やっぱり気持ちが落ち込んでしまった。

もう、数馬くんのことで、あれこれ考えちゃいけないんだ、と思って。


あれこれ考えちゃ・・・。


そう。

無理だとか、無駄だとか自分に言い聞かせながら、心の底では期待していたんだって気付いた。

“もしかしたら、いつかはわたしのことを好きになってくれるかも” って。

どうしても可能性を・・・どれほど小さな可能性でも、捨てきれなかった。



でも、もうそれも消えた。


数馬くんが好きなのは森川さん。

桃ちゃんがあきらめるほど、数馬くんにお似合いの。

しっかり者で、綺麗で、優秀なひと。

数馬くんが素直に楽しくはなしができる相手。



・・・あの夜の数馬くんの電話も悲しかった。


心配してもらっても、わたしは数馬くんの “特別” じゃない。

そう思うと、ただ悲しくて・・・話すこともつらかった。

だから、「宿題をやる」って言い訳して終わりにした。


そのあとに芳くんから今日の予定を知らせる電話が来て、ほんとうに自分が楽しく過ごせるのかと不安だったけれど・・・。


“楽しんでいるふり” なんて必要ない。

ほんとうに楽しいんだもの!




二人の計画は、「とにかく楽しむこと」。

いつも使っている路線から乗り換えて2つめの、海の近くにあるレジャー施設が集まっている観光地に来た。


大きな映画館とショッピングセンター、ゲームセンターにカラオケ屋さん、遊園地・・・。

とにかく何でもそろっている。

ビルの間にある広場では大道芸や屋台が並んでいる。

風がない晴れた日で、心がうきうきする!



慣れないお出かけで、待ち合わせ場所にドキドキしながら行ってみると、二人はもう来ていて、笑顔で手を振ってくれた。

その組み合わせは新鮮だったけれど、いつもの見慣れた笑顔にほっとした。


ベージュのカーゴパンツに深緑色のパーカー姿の栗原くんは手ぶらだった。

「財布はここ、ハンカチはここ、こっちには・・・。」と、手ぶらをめずらしがるわたしに笑いながら説明してくれた。


芳くんは白地に黒いタータンチェックのシャツに黒いジーンズ、こげ茶色のダウンベスト。

シャープな印象で、いつもより大人っぽい。

ポケットに手を入れて立っている姿は、ちょっとモデルさんみたい?


わたしは・・・なるべく可愛く見える服を選んできた。

金曜日に芳くんから、おしゃれをして来るようにと言われていたから。

観光地で人がたくさんいるからある程度は当然だと思ったけれど、


『気晴らしをしに行くんだから、服だってちゃんと選ばないと。』


と言われて、なるほど、と思った。

ただ、もともとお洒落な服なんて持っていなかったから、あくまでも “なるべく” 。

スモークピンクのセーターにグレーの七分袖のショートジャケット、キュロットにブーツ。

芳くんに「よしよし。」と笑顔でうなずかれて、ほっとした。



ゲームセンターから始まったツアーは、あっという間にわたしの気遅れを吹き飛ばしてくれた。

芳くんは何をやっても上手で、栗原くんは大袈裟なリアクションが可笑しい。

二人と一緒だと何をやっても恥ずかしくない気分になって、三人で大騒ぎして遊んだ。

それから・・・食べたり、見たり、話して笑ったり。



こんなに笑えるなんて!

ほんとうに、なんて楽しいんだろう!


わたしの人生にはまだまだ楽しいことがたくさん待っているって、今なら信じることができる。

失恋しても、おしまいじゃない。

わたしの幸せは、この先、どこかにきっとある。




「今日はたくさん笑っちゃった。」


フードコートでおやつを食べながら、満足の吐息とともに出た言葉。

栗原くんと芳くんが可笑しそうな表情でわたしを見る。


「二人とも、ありがとうね。こんなに楽しいとは思わなかった。」


「そう?」


「うん! たくさん笑ったら、心配事なんかなくなっちゃうよ。」


「失恋も忘れたって?」


わ!


「栗原くん! そんなに大きな声で言わないでよ。恥ずかしいじゃない。」


「ははは。だけど茉莉花。どうせあきらめるっていうなら、最後に本人に伝えればいいのに。」


「芳くん・・・。そう言うけど、まだ生徒会の任期が半年も残ってるんだよ。断られたら気まずい・・・あ。」


しまった!

栗原くんは相手が誰だか知らないんだった!


「あ、俺、知ってるよ。数馬だろ?」


「え?」


芳くん?!


「ああ・・・、ええと、ごめん! ちょっと口をすべらせて。ごめん。」


「その顔! あんまり反省してないでしょう?!」


「あ、いや、そんなこと・・ないよ。」


「うそばっかり! 半分笑ってるもん。」


「あははは! 大野って、和田には強いんだな。」


「そうなんだよ。俺なんか、生徒会では茉莉花にいつもこき使われててさあ。」


「芳くん! 栗原くん、違うよ。芳くんはいつも、わたしのことをからかうんだから。」


「栗原も気を付けろよ。今日これだけ慣れると、明日からはクラスでもビシビシ言われるぞ。」


「今までもけっこう慣れてると思ってたけど、大野の真の姿はこれなんだな。」


「栗原くん・・・。」


真の姿って・・・。


「大野。その調子で、数馬のことも簡単に許すんじゃないぞ。」


「は?」


許すとか、許さないとか、そういう問題ではないような気がするけど・・・。


「あのう・・、わたし、べつに数馬くんのことを怒っているわけでは・・・。」


「ああ、そうだな、茉莉花。数馬が何か言ってきても、しばらくは知らんぷりしてるんだぞ。」


「知らんぷりって言われても、生徒会が・・・。」


「仕事は別だよ。それ以外で。」


「うん・・・。でも、“それ以外で” なんて、あるわけないよ。」


「どうかな?」


二人で顔を見合わせちゃって・・・。

その笑い、何か企んでるの?


何をやったって無駄だよ。

数馬くんは森川さんが好きなんだから。


「とにかく、当分のあいだ、大野は数馬に優しくしちゃダメだ。」


「今までも、特別に優しくなんてしてないと思うけど・・・。逆に、数馬くんが優しいからわたしが勝手に舞い上がって、期待ちゃったんだよね・・・。ほんとに馬鹿みたい。あーあ。」


「え? 大野に期待させるようなことを数馬が? へえ、たとえば?」


「え、あ、それは・・・ちょっと。」


言いにくいよ。


「でも、そういうの教えておいてもらわないと、俺もいつか “うっかり” なんてことになるかも知れないし。」


「プ・・・。栗原?」


「そういうもの? ・・・そうかもね。うーん、まあ、いいのかな。これって、特別なことじゃなかったんだもんね。」


数馬くんの特別は森川さんなんだから。


「そうそう。」


「栗原。」


「まあ、小さいことはいろいろあるんだけど・・・、一番最近のは修学旅行かな。」


「修学旅行?」


「あのね・・・その、毎晩、メールを・・・。」


やっぱり恥ずかしいな。


「茉莉花。言いにくければ、言わなくても・・・。」


「ああ・・・大丈夫。ええと、その、言っちゃった方がすっきりするかも知れないもんね。」


うん。

言っちゃおう!


「あのね、毎日、行ったところの景色を写真に撮ってメールで送ってたの。」


「景色だけ?」


「うん、そう。そうしたら、お互いに、もう一つのコースにも行った気分になれるからって、数馬くんが・・・。」


「プ ――――― ッ! あ、ごめん。こほっ。」


芳くん?

なんで笑って・・・?

栗原くんも、なんだか変な表情・・・?


「で? ちゃんと来たのか?」


「え、あの、来たよ。それに、お土産のことも、かな。」


「お土産?」


「うん。うちって数馬くんが帰る途中の駅だからって、途中で降りて寄ってくれたんだ。」


あのときはどれほど嬉しかったことか・・・、ん?


「・・・芳くん、どうしてそんなに笑ってるの?」


「え? いや、くく・・・、なん、なんでもない。く。」


「だけど、今考えると、そんなことで期待するなんて、やっぱり変だよね。」


「どうして?」


「だって、景色の写真を送り合っただけだもの。お土産だって、学校に持って行く手間が省けるしね。 ・・・・・二人とも、そんなに笑わなくても。そりゃあ、わたしは常識を知らないかも知れないけど。」


「い、いや、・・・大野を笑ってるんじゃないよ。」


「そうなの? でも、こういうのって、普通のことなんでしょう?」


「あー、いや、人によっては・・・ふ、普通なのかな。だけど、数馬もまさか、ここで俺たちにとは・・・、くくく・・・。」


??


「大野。やっぱり数馬を簡単に許しちゃダメだ。」


「ええと、だから、わたしが勝手に勘違いを・・・。」


「いや。はっきりしない数馬が悪い。大野は全然悪くないぞ。」


「そう・・・?」


「間違いなく。」


そうか・・・。

そういう見方もあるんだね。


「茉莉花。ほんとうに吹っ切れたのか?」


「うん。」


芳くんの何でも知っているような笑顔も、栗原くんの仲間みたいな笑顔も、心地よくてありがたい。

わたしを受け入れて、支えてくれるお友達がいると教えてくれる。


失恋しても、わたしはわたし。

数馬くんのことは・・・明日からも、生徒会の仲間として付き合っていく。そうできると思う。

たぶん、好きな気持ちは、当分変わらないと思う。

でも、悲しい気持ちで一緒にいるのではなく、一緒に仕事ができることを楽しみながら過ごせそうな気がする。


「よし! じゃあ、もう一回りして、最後に観覧車に乗ろうぜ!」


「観覧車は最後なの?」


「そうだな。今の時期なら日暮れが早いから、時間が早めでも夜景になるし。」


「夜景か・・・。きっと綺麗だね。」


数馬くんと一緒に見るのは無理だったけれど、今日のことは、きっと楽しい思い出になる。


芳くん。

栗原くん。


ほんとうに、どうもありがとう。







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