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メガネに願いを  作者: 虹色
第八章 本当ですか?
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◆◆ どうして・・・? ◆◆


どうしたんだろう?

この2、3日、茉莉ちゃんの様子がおかしい。



元気がないように見える。

みんなと笑っていたのに、そのすぐあとに、こっそりとため息をついていたりする。

ぼんやりと考え事をしていることも。


書記の仕事はいつものとおり、きちんとこなしている。

生徒会室の整理整頓も。


だけど、口数が少なくなった気がするし、声がいつもより小さい気がする。

そう。

元気がない、としか言いようがない。


きのうの帰りに訊いてみたけど、「そう? 何もないよ。」と、たったひとこと返ってきただけ。

控えめな微笑みは、いつもより淋しそうな気がした。



何もないわけがない。

あんな顔をして。あんなふうにため息をついて。

だけど、俺には言えないこと・・・。


困っているなら相談してほしいのに。

茉莉ちゃんの助けになりたいのに。


俺では役に立てないのか・・・。





「以上で、第3回委員長会議を終わります。」


「お疲れさま〜。」

「またな。」

「早く部活に行かないと。」


あーあ、終わった。


今日は活動報告がたくさんあった。

前回が夏休み明けだったから、そのあと九重祭と秋のナントカ週間とかで、どの委員会も動いていたから。


「あの、数馬くん。」


「あ、はい!」


おお!

茉莉ちゃんが話しかけてくれたよ!


「ごめんなさい、あの、わたしも潤くんも聞き洩らしちゃった部分があって。覚えてたらって思ったんだけど。」


「どのあたり?」


茉莉ちゃんのためなら、何がなんでも思い出すよ!


「ええと、九重祭の反省のところで、」


「あの・・・、日向くん。お話し中、申し訳ないんだけど・・・。」


「え?」


ああ、森川さんか。


ここは・・・とりあえず、森川さん優先か?

これから部活に出るんだろうし、茉莉ちゃんとは生徒会室に戻ってからも時間があるんだから。


「ごめん、茉莉ちゃん、ちょっと待ってて。何かあった、森川さん?」


「ごめんなさい、大野さん。」


「あ、ううん、いいよ。あの、ほかの人に訊くから。」


え?

そんな。

そんなに急いでた・・・?


「茉莉ちゃ・・・。」


行っちゃった・・・。


「ええと、これなんだけど、ちょっと教えてくれる? ここの書き方がよくわからなくて。」


「ああ、これ? これは・・・」


茉莉ちゃん、虎次郎と話してる。

つまり、誰でもよかったんだ・・・。


「・・・ってなるわけ。」


誰でもよかったけど、俺に訊いてくれたのに。


「ああ、なるほど。この項目の意味を勘違いしてたみたい。そうすると、こっちは・・・?」


「え? どれ?」


「これ。ほら、ここに書いてあるのは・・・」


あ、虎次郎にお礼言ってる。

ってことは、俺にはもう用事がないのか・・・。


「そこは・・・」


ああ・・・。

片付けもどんどん進んでいく。

俺も、茉莉ちゃんと一緒に机や椅子を片付けたい・・・。


「ああ、そうなんだ! 分かった。どうもありがとう。」


「いや、そんなに感謝されるようなことじゃないけど・・・。」


終わった?

じゃあ、俺も片づけを・・・。


「ちょっと考え過ぎだったみたいね。ありがとう。じゃあ、これで。」


よし、終わりだ。


「あ、そうだ! 忘れるところだった。」


え?

まだ何か?


「これ、前に言ってたCD。さっき、川村くんがやっと返してくれたの。よかったら、聞いてみて。」


ああ、ゴスペルのCDか。

合唱祭まであと一週間だし、今さらな気もするけど・・・。


「川村が、うちのクラスの歌と違い過ぎるって言ってたよ。同じ曲だとは気付かなかったって。」


「ふふ、たしかに、そうかもね! でも、聞きながら指揮の練習をしたみたいよ。」


「ほんとに? 意外に頑張ってるなあ。」


「だけど、ここに入ってるのはけっこうアレンジされてるから、川村くんがそれに合わせた指揮をしちゃうと、みんなが混乱するかもね。」


たしかにそうだ。


「俺たちは、もう今のまま、楽譜どおりで行くんだよね?」


「うん。あたしもアレンジはよく分からないしね。あとは、日向くんが伴奏をポップな感じに弾いてくれればバッチリ。」


「ポップな感じ? 半分立って、派手なパフォーマンスで?」


「日向くんが? あはは! いいね、それ! 伴奏で賞がとれるかも。」


「数馬! 先に戻ってるからな! 鍵たのむ。」


え?

片付け終わっちゃった?


「わかった。」


茉莉ちゃ〜ん。・・・もういないや。


「あ、ごめんなさい、いつまでも。あたしも部活に行かなくちゃ。」


「コーラス部だっけ? 全員、自分のクラスの指導役だったりするの?」


「ああ・・・、まあ三分の二くらいはそうかな。選んだ曲によってだけど。じゃあね。」


「うん。お疲れさま。」


このCD、聞く必要あるのか?

うーん・・・、まあ、参考に一度くらいは聞いてみるか。





どうしたんだろう?

なんだか、生徒会室に戻ってからずっと、茉莉ちゃんに避けられてる気がする。

はっきりとじゃないけど・・・、話しかければ笑顔で答えてくれるけど・・・。


「数馬、どうした?」


あ。


「いや、なんでも・・・。」


あ、茉莉ちゃん。

あれ・・・?



・・・やっぱり変だ。



いつもなら、今みたいにちらっと目が合ったときに、何か・・・、ほんの微かにだけど、何か合図・・・みたいなものがあるのに。

「大丈夫?」とか、「ね?」とか、「くすっ」とか、そんな感じの・・・。


勘違いだったのか?

俺が勝手に、そう思い込んでいただけなのか?

夢から覚めただけ・・・?



いや、違う。

やっぱり、茉莉ちゃんが違うような気がする。


あんなに笑っているけど、なんとなく声が甲高く聞こえるのは、緊張しているからじゃないのか?

無理に楽しそうにしているだけに見える。


やっぱり、何か心配事があるんじゃないのか?

それを隠そうとして・・・俺を避けてる?



気になる。


思い切って、あとで訊いてみよう。






「茉莉ちゃん。」


校舎から中庭に出たところで、なんとか声をかけることができた。

昇降口でいったんバラバラになったあと、一番最初に外に出た茉莉ちゃんに追いついて。


やっぱり、いつもと違うよ、茉莉ちゃん。

最近、帰りはけっこう並んで話してくれていたのに、今日は一度も俺の方を見てくれない。

生徒会室からずーっと、涼子ちゃんと話してばっかりで。


「なあに?」


日没が早くなって、中庭の明りだけでは茉莉ちゃんの表情ははっきりとは分からない。

口元はにっこり笑っているけど、その言い方・・・なんだか、わざとらしい。


うしろから出て来るみんなを待たずに正門に向かって歩き出すと、茉莉ちゃんも一瞬ためらったあと、俺と一緒に歩き出した。

呼ばれて返事をしたんだから、そうするしかないよね?



隣を歩く茉莉ちゃん。


いつもは少し恥ずかしそうに話したり、笑ったりするのに、今日は・・・まっすぐ前を向いて。

恥ずかしがらないでいてくれることを喜ぶべき?


違う。

前を向いている様子は、まるで俺を拒絶しているようだ。



用意していた言葉は胸につかえてしまった。

今の状態で口に出したら、ただ、茉莉ちゃんを責める言葉になってしまいそうで。


・・・あ。


「数馬くん? 何か用事が・・・?」


茉莉ちゃん?


「ああ・・・、うん・・・。」


通り過ぎた街灯の光の中。

メガネの奥の瞳が悲しそうに見えたのは・・・錯覚?


落ち着いた微笑み。

しっかりした声。


「あの・・・、茉莉ちゃんに・・・何か、心配事があるんじゃないかと思って・・・。」


「心配事? ・・・ううん、ないよ。」


茉莉ちゃん・・・。

まっすぐ前を向いて・・・、俺から顔をそむけて?

俺は・・・茉莉ちゃんには必要ない?



なんでだろう? ドキドキする。

何か・・・もう、取り返しがつかないような。

大きな声で叫びたい。

「なんでだよ?!」って・・・。


「数馬くん。」


その瞳。


いつか見た瞳とあまりにも違う。あのときは ――― 。


「わたし、そんなに心配してもらわなくても大丈夫だよ。」


え?


「あの・・・、茉莉ちゃん?」


心配しないでって・・・俺に?


「頼りなさそうに見えるかもしれないけど、けっこう強いよ。だから、大丈夫。」


茉莉ちゃん。


茉莉ちゃん。


俺は必要ない?


「あ、そうだ。ちょっと涼子ちゃんに・・・、ごめんね、数馬くん。」


振り向いて行ってしまう。俺の隣から。

ひらりとスカートをはためかせて。


茉莉ちゃん ――― 。



言ったじゃないか、あのとき。

俺に心配してもらえると元気が出るって。

なのに・・・もう必要ない?





駅に着いたとき、茉莉ちゃんはいなかった。


「定期を忘れたって、学校に取りに戻りましたよ。」


涼子ちゃんが言った。


「学校に?」


もう暗いのに一人で?

まだ、運動部の生徒は残っている時間だけど・・・。


改札を通ってから気付いた。

芳輝もいなかった。







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