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メガネに願いを  作者: 虹色
第八章 本当ですか?
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◇◇ ふさわしい人? ◇◇


「あ。」

「あら。」


桃ちゃん・・・。


クラスの階が違うからめったに会わなくて安心していたのに、朝の電車で一緒になっちゃうなんて。

同じ駅を使っているけれど、今まで一緒になったことなんてなかったのに。

今日は寝坊しちゃうし、なんとなくツイてない気がしてきたよ・・・。


「おはよう、桃ちゃん。」


「おはよう、茉莉花。」


桃ちゃんの笑顔、やっぱりしらじらしい感じがする。

もしかしたら、わたしもかな?


学校のある駅まで5つ。

とりあえず、当たり障りのない会話でつなぐ。

中学の時の知り合いの話。

修学旅行の天気の話。

それから合唱祭の練習のこと。


「合唱祭では、1組に負けないから。」


「ああ、優勝を狙ってるんでしょう? 熱心に練習してるって聞いてるよ。」


最近ずっと、数馬くんが生徒会に来る時間が遅いし。


「そうなの。日向くんが伴奏を頑張ってくれてるし、沙耶が教えるのが上手いから、いい線行くんじゃないかと思ってるんだ。」


「沙耶さんって・・・?」


「あ、森川沙耶さん。コーラス部の。」


「ああ、福祉委員長の。」


「知ってるの?」


「うん。委員長会議に来てるから。」


「ふうん・・・、そうなんだ。」


・・・なに?

その、意味ありげな返事は・・・。


「日向くんって、沙耶と仲がいいのよね。」


え?


「あ、・・・そうなの?」


数馬くんと・・・森川さん?


「知らなかった? 最近・・・、修学旅行のときかな、あたしが気が付いたのは。」


「へぇ・・・。」


仲がいい?

どのくらい?


「向こうでビュッフェの朝食があったんだけど、2回とも沙耶と同じテーブルで食べてたんだよね。」


「・・・そう。」


でも、偶然かもしれない。


「それにね、水族館でも何度も話しかけてたし。」


水族館?

わたしにお土産を買ってきてくれた・・・。


やだ。

なんだかドキドキしてきちゃった。


「今は合唱のことでよく二人で相談してるけど、すごーく楽しそうなの。日向くんが教室であんなに笑ってるのって、今まで見たことなかったなあ。」


楽しそうに?

笑って・・・?


「思い出してみるとね、日向くんが合唱祭の伴奏をやってもいいって言ったときも、沙耶が困ってるときだったんだよね。」


「え・・・?」


伴奏って・・・。

あのとき、数馬くんは・・・。


「最初は伴奏をやれるって言ったのは沙耶だけだったんだよね。でも、沙耶はコーラス部だから練習のリーダーになってもらわなくちゃならないのに、伴奏もやるとなったらキツイじゃない? あれが沙耶じゃなかったら、日向くんも言い出さなかったんじゃないかなあ。」


そんな・・・。

数馬くんは、そんなこと言ってなかった。

自分から「やってもいい」って思えたことが嬉しいって。

クラスのお友達と近付いた気がするって。

だけど・・・。


「ほんとうはね、茉莉花。あたし、日向くんのこと、ちょっといいなって思ってたんだ。」


「え? あの、桃ちゃん・・・?」


そんなこと、わたしに言う必要なんて・・・。


「だけどね、沙耶と日向くんを見てたら、もう “絶対に無理!” って分かったの。」


森川さんと、日向くんを・・・?


「そう・・・なの?」


「うん。だってさあ、日向くんは勉強ができるし、性格も、見た目もいいし、おまけに生徒会長をやるような人でしょう? あたしには、そんな人の相手なんて務まるわけないもんね。」


「え? そんなこと・・・ないんじゃない?」


桃ちゃんがこんなことを言うなんて。

自信のない桃ちゃんなんて、初めて見た・・・。


「ううん、そうなんだよ。やっぱりね、日向くんみたいな完璧な人の相手は、沙耶みたいな何でもできる人じゃないと無理なんだよね。」


「森川さん・・・?」


「うん。沙耶なら成績もいいし、しっかり者だし、美人だしね。日向くんが沙耶を気に入るのも、当たり前だよね。」


日向くんが・・・森川さんを気に入って・・・。


「あ、着いたね。あーあ、この時間って混んでて嫌になっちゃうよね? ・・・あ、美佐子がいる。茉莉花、あたし、先に行くね。」


「あ、うん、どうぞ。またね。」


・・・行ってくれた。



数馬くんと・・・森川さん?


何度も話しかけていた?

二人で楽しそうに笑っていた?

自信家の桃ちゃんが、あきらめてしまうほど?



聞きたくなかった。



森川さん・・・。


ほっそりして姿勢が良くて、顔が小さい綺麗なひと。

まっすぐな長い髪を耳の後ろでピンで留めて。

委員長会議では、はきはきとよく通る声で話す。

頭が良さそうで、ユーモアがあって、話し方も上手で。


そういえば、数馬くんと話しているところを見た。

先月のあいさつ週間のときだ。

森川さんは福祉委員会の募金で、真ん中と最終日の2回来ていたんだよね。

あのとき2回とも、数馬くんが森川さんに付き添って職員室に行ったんだ。お話しできる時間が取れなくて残念に思ったから、よく覚えてる。

あれは・・・単に数馬くんの仕事のうちだと思っていたけれど・・・。



たしかに、お似合いだった・・・かも。



数馬くんが誰と何を話しても、わたしには、何を言う権利もない。

誰と何を話しても・・・誰のことを好きになっても。


誰のことを好きに・・・?



あ・・・。

こんなにショックを受けるなんて、変だよね?

そもそも、わたしが期待できるようなことじゃなかったんだから。

あんなに “無理” だ、 “無駄” だって思っていたのに。


でも・・・苦しい。

わたし、まっすぐに歩けている?


「ジャスミンちゃん、おはよう。」


「あ、おはようございます。」


会う人は少し違うけれど、いつもの道、いつもの景色。

いつもの・・・わたし?


「茉莉さん、おはよう! 今日は遅いんじゃない?」


「あ、香織ちゃん、おはよう。今朝は寝坊しちゃったの。目覚ましの電池が切れててね、びっくりしちゃった。」


ちゃんと笑顔になっている?


「あー、困るよねえ、それって。」


「そうなの。わたしの目覚まし時計は電池が少なくなっても遅れないで、最後に目覚ましの音を出す力が足りなくて止まっちゃうんだよね。」


「なんか、頑張り屋の時計だね。『うう・・・、せめて今日のベルを鳴らすまでは・・・。』みたいな?」


「あはは! うん、たしかにね! でも、かえって困っちゃうよ。遅れてくれれば、電池がなくなって来たってわかるのに。」


わたし、笑ってる。


そうか。

こんな気分でも笑えるんだ・・・。







はあ・・・。


結局一日中、気分がもやもやしたままだった。

数馬くん、今日も遅くなるんだよね。


遅く・・・、合唱の練習で。



合唱の練習・・・か。


放課後は練習に出ないで部活に行っちゃうひともいる。

でも、数馬くんは毎日ちゃんと・・・。

真面目なひとだし、伴奏者なんだから、仕方ないけれど。

だけど、もしかしたら理由はそれだけじゃなくて・・・?



わたしはここで一人。


生徒会室・・・適度に狭くて、一人でいても落ち着く。

わたし自身が、ここに馴染んできたのかも。

四月からお手伝いに来てるから、もう半年以上だもんね。



いろんなことがあったなあ。

おろおろしていた最初のころに比べたら、今なんか、すごい余裕だよね。

こんなふうに、机にだらーんと・・・。


あーあ。


一人でいると、数馬くんのことばかり考えちゃう。数馬くんと・・・森川さんのこと。

一人で考えて、一人で落ち込んじゃう。

ぐるぐるぐるぐる、同じことばかり考えてる気がする。

何も解決しないよね?


誰かに話したら、少しは楽になるのかな?

いいアドバイスをしてくれる人っているかな?

前は、何でも啓ちゃんに相談したけれど・・・。


ダメだな。

こんなことを相談したら、啓ちゃんが数馬くんに何か言いいそうだもの。

数馬くんは啓ちゃんには弱そうだし、啓ちゃんなら、数馬くんを脅すくらいのことをやりかねない。

そんなの・・・みじめだ。


それに、何を相談するっていうの?

もともと期待していいような人じゃなかったのに。

近くにいて、お話しができたら幸せだって思っていたはず。

だけど・・・、だけど。



ふぅ・・・。



結論を出すのは、もう少し待とう。

桃ちゃんが言ったことが、ほんとうなのかどうか確かめたい。

自分の目で見れば、納得して、あきらめることができるかも知れないし。


あさって・・・、委員長会議がある。

そこで、数馬くんと森川さんがどんな様子なのか、よく見ていよう。







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