表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
メガネに願いを  作者: 虹色
第二章 前進
8/103

◆◆ 楽しいような、苦しいような・・・。 ◆◆


月曜日の放課後、中学の後輩を生徒会に誘いに行くと、「前向きに検討します。」という有望な返事をもらった。

ついでに知り合いにも声をかけてくれると言われて、ものすごく気が楽になった。


「時間があったら見学に来るといいよ。」


と、生徒会室の場所を教えて気分良く別れる。


なんか、今日はツイてるんじゃないか?

もしかしたら、いいことがあるのかも!


なにしろ今日は・・・。





うちの学校は7階建てという、学校にしてはめずらしい背の高い建物だ。たぶん、土地がせまいんだろう。

漢字の『凹』の形をした校舎で、正門に面したまん中が南棟、右側が東棟、左側が西棟だ。校舎の北側をふさぐように体育館、西側に校庭がある。


各学年8クラスが、中央と左側の校舎の3階から上に入っている。

南棟の1、2階と東棟は職員室や進路指導室、各教科の特別教室が入り、西棟の2階に図書室、1階は昇降口だ。

階段は校舎の角と左右の端に全部で4か所、エレベーターが一つある。基本的に、エレベーターを使えるのは6、7階の生徒ということになっている。・・・が、あまり守られていない。


公立校なのにエレベーターと冷暖房完備というのが、うちの学校の人気のひとつ。

冷暖房完備というのは、学校のとなりに大きな道路があって、うるさくて窓を開けられないからだ。


生徒会室は東棟の2階。

普通の教室サイズの部屋を、背中あわせに並べたキャビネットで前後2つに分けて、広く取った黒板側を活動部屋、後ろ側を書庫兼荷物置き場として使っている。

どちらも出入口から廊下に出ることができるし、まん中に並んだキャビネットは窓側は壁から離してあって、前後の行き来もできる。

キャビネットの上は耐震用の突っ張り棒で支えてあるけど、それが目に入るたびに、逆に不安になる。


活動部屋には3人用の長机を3つ合わせてテーブルにしたものが2つ。

窓側の1つは打ち合わせ用、廊下側のは作業用に使っている。





生徒会室の戸を開ける前に、全身をチェック。


髪は?

ズボンの裾は?

シャツが出てたりしないよな?

猫背じゃかっこ悪いぞ。


・・・べつに、今日だけ気にしてるわけじゃない。

こういうのって、身だしなみとして当然のことだ。


・・・よし!


「こんにちは。遅くなりました。」


「はーい、こんにちはー。」


先輩たちの声・・・だけ?

そうっと部屋を見回すと・・・いたよ! 彼女が!


窓のそばで星野先輩と話してる。

ファイリングした書類を見ながら、何か説明を受けているらしい。

緊張してる?

ときどきうなずきながら、先輩を見上げて。



あんな感じだった・・・かな?

やっぱり、すごく新鮮な感じがする。



一年のときはこんなにじっくり見たことがなかった。

・・・ん? じっくりって・・・うわ!


俺、何秒ここに立ち止まってた?!


「コピーして来まし・・・っと、日向?! なんで、こんなところに突っ立ってんだよ!」


富樫の声に、大野さんと星野先輩がこっちを向いた。


「ご、ごめん。ちょっと考えごとをしてて・・・。」


あれれれ、れ。

顔が熱い。


もしかして、赤くなってるのか?! 俺が?! うそだろ?!


「あ、お、俺、ちょっと忘れ物したみたい。取りに行ってくる。」


顔を見られないようにうつむいて、急いで廊下に出る。

とりあえず教室の方向に歩きながら、困ったことになった、と思った。



浮かれてる場合じゃないぞ。



・・・浮かれてる?


そりゃあ、新しく来たひとだから、つい見ちゃうのは仕方ない・・・よな?


うん。

そうだ。

どんなひとか気になるからな。


これから一緒に仕事をしていくんだから、どんなひとか分からないと不安だもんな。

その相手が、たまたま女の子だっただけで。


うん。

つまり、何も困ることなんかないんだ。

見ちゃっても当然のことで。


ああ、びっくりした。


でも、やっぱり女の子をあんまりジロジロ見るのはよくないな。

気をつけよう。


よし。

もう大丈夫だ。




生徒会室に戻ると、大野さんは木下と並んで座って話していた。

さっきよりも落ち着いた表情で、ノートを見ながらうなずいている。


彼女たちの対角線にあたる場所で、来週の委員長会議用の資料を作るためにノートとパソコンを開く。



やっぱり、前よりも髪が長くなってる。

頬からあごのラインがいい感じだよな。

下を向いてると、まつ毛が長いのがわかる・・・けど、あのメガネ、ちょっと邪魔だ。

右手の人差指の背でメガネの位置を直す癖がある?

白いスカーフのセーラー服って地味だと思ってたけど、清楚な感じで意外に悪くないな。


あ。

笑った。


・・・当たり前だ、普通の高校生なんだから。



「大野さん。」



誰だ、話しかけてるのは?

中島先輩?


「悪いんだけど、ちょっと手伝ってもらえるかな?」


「あ、はい。」


木下と二言三言ことばを交わすと、大野さんは中島先輩について作業机へ。

その位置だと・・・見えない。


中島先輩の「領収書が」という声がする。何か、決算関係の作業を頼まれているのか?

大野さんの小さな「はい。」という返事と、ガサガサという紙の音。


「あとは、わからないことがあったら富樫に訊いて。」


富樫〜〜〜〜!!


あ〜!

俺も副会長じゃなくて、会計になっておけばよかった!

去年、立候補の受付で「副会長でいい?」って訊かれたときに「いえ、会計で。」って言ってれば!



どんな状況なのか気になって、肩が凝ったふりで伸びをしながら作業机の方を見ると。



・・・和やか。



作業机の廊下側で、大野さんと富樫は角をはさんで座り、机の上に積み上げた書類と領収書を整理したり貼りつけたりしている。



あの位置で座るのっていいな。

隣同士より話しやすそうだ。相手の顔が見えるからな。

ちょっと内緒話とかできそうだし、俺も・・・って! 


ちがーう!!

そんなことを考えるんじゃなくて!


ああ、もう!

仕事仕事!



・・・・・・・。



「あの、富樫くん、これはどうしたら・・・?」


「どれ? ああ、ええと・・・。」


・・・富樫の声って、あんなに低音でかっこよかったっけ?

あんまりちゃんと聞いたことなかったからな。


そういえば、富樫って男前だよな。

部活には入ってないけど、たしか警察官の親父さんと一緒にずっと剣道をやってるって言ってたもんな。

体なんか筋肉質ですげえガッチリしてるし、スポーツ刈りも似合ってる。

顔もけっこう凛々しいっていうか・・・。


「あ、大野。これ、そっちに入れておいて。」


え?! もう呼び捨てかよ?!

俺なんか、一年間同じクラスだったのに、そんなに馴れ馴れしくしてないぞ!


「日向。」


「は、はいっ!」


どこから呼ばれた?!

あの声は塩田先輩だけど。


俺と同じ副会長の塩田先輩は女子の先輩だ。

サラサラの髪を腰までのばした、いかにも才媛といった雰囲気のひとで、将来どの分野に進んでも、一番先頭に立つ人物になるんじゃないかと俺は思っている。たとえそれが芸能界であっても。

その塩田先輩をうまく活躍させている星野先輩には感服するばかりだ。


「これ、3枚ずつコピーしてきて。」


「はい。」


コピーは職員室のとなりの印刷室にあるコピー機を使う。

同じ2階だけど、資料室、トイレ、階段を通り過ぎて、南棟のはしっこまで行かなくちゃならない。


急げ!


俺のいないあいだに富樫が何か・・・いや、ほかのメンバーがいるんだから、何もできやしないはずだけど。

でも、急げ!


「コピーして来ました!」


ガラリと戸を開けると、目の前に作業中の富樫と大野さん。

頭を寄せ合って、一枚の小さい紙をのぞきこんでいる。


「あ、ごめん。」


富樫の椅子に、思いっきりぶつかってやった。


・・・俺もけっこう痛かった。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ