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メガネに願いを  作者: 虹色
第八章 本当ですか?
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◆◆ 「意外な一面」で勝負! ◆◆


「じゃあ、お願いね。」


「了解。」

「わかった。」


森川さんの後ろ姿を見送り、指示をあちこちに書き込んだ楽譜を最後に一通りながめてみる。

放課後の教室は、俺と川村のほかに、2、3人の生徒が残っているだけ。



修学旅行の翌週から、各クラスでは合唱祭の練習が始まっている。

朝や昼休み、放課後、校舎内では必ずどこかの教室から歌声が聞こえてくる。

それを聞いていると、最初は面倒だと思っていた生徒もだんだんやらなくちゃいけない気分になってきて、どのクラスも練習に熱が入り出す。


うちのクラスは11月の2週目に入って、ようやく歌が合唱らしく聞こえるようになったところ。

けれど、まだリズムや歌い出しのタイミングが取りにくいらしくて、みんなに指導をする立場になった森川さんから、指揮をする川村と伴奏の俺に注文がたくさん出るのだ。


「俺、指揮って、もっと気楽なものだと思ったよ。これだったら歌の方がマシだったかも・・・。」


川村がため息をついている。


「大丈夫だよ、あと2週間くらいあるんだから。曲に体が慣れると楽になると思うぜ。」


「そうなのか? なんだか不安だよ・・・。」


繰り返しため息をつく川村に構わず、伴奏と音取りに使っていたキーボードを急いで片付ける。

今日は早く終わったから、急いで生徒会室に行きたい!



ここのところ、合唱の練習が放課後にあるから、生徒会室に行くのが遅くなってしまう。

優勝を狙っているうちのクラスは特に熱心で、この一週間は、俺がいつも一番最後だ。


でも、今日はいつもよりだいぶ早い。

飽きてきた生徒が集中できなくなったので、一度合わせるだけで終わったから。


ほかの教室からは、まだ練習している声がする。

茉莉ちゃんのクラスは、今週の放課後はダンスチームの特訓だから、歌担当の茉莉ちゃんは練習がない。

もしかしたら、生徒会室で二人きりっていう可能性だってある! だから、急ぎたい!


「あーあ。この分だと、また日向の人気が上昇するなあ。」


「え?」


俺の楽しい想像をさえぎって、残っていた佐藤がため息をつきながら近付いてくる。


「だってさあ、ただの優等生じゃなくて、ピアノまで弾けるんだぞ。」


ああ。

合唱の伴奏のことを言ってるのか。


「そうか? べつに珍しくないと思うけど。それに、けっこう必死で練習したし。」


そう。

本格的に弾くのは久しぶりだったから、ずいぶんやらなくちゃいけなかった。

はっきり言って、修学旅行の前は、勉強そっちのけだった。


「そうなのか? だとしても、女子の目には『日向くんて、すてき〜。』に映るらしいぞ。あーあ。」


「そんなこと言われても・・・。」


俺だって、ほかにできるヤツがいればやらなかったけど・・・。


「日向に文句言っても仕方ないだろ?」


川村。

かばってくれるのか?


「そうだけどさあ。」


「お前も “意外な一面” で勝負しろよ。」


「意外な一面? 俺の伴奏が?」


「なんだよ、自分で分かってないのか?」


川村があきれたように笑う。


「ほら、日向って優等生のタイプがガリ勉っぽいじゃん?」


“ガリ勉” って、嬉しくないな。

やっぱり、このメガネのせいか・・・。


「なのに、ピアノみたいな芸術系が得意ってところが、女子にとっては意外でカッコよく見えるわけだよ。」


「ふうん、意外ねえ・・・。」


「そうなんだよな。桃ちゃんも話してたよ、『ああいう意外な面を見ちゃうとね〜♪』って。楽しそうにさあ。」


浜野さんに言われても嬉しくないけど。


「そうそう。女子は “意外な一面” に弱いからなあ。佐藤は何かないのか、芸術系で?」


「芸術系・・・? ああ、小学校のころ、書道教室に通ってた。」


「お、いいじゃん、それ! 字が上手いとカッコいいぞ。」


うん、たしかに。


「だけど、それをどこで見せるんだよ?」


「書道なら年賀状はどうだ? でなきゃ、ノートをさりげなく見せるとか。」


考えるほど簡単じゃなさそうだな。


「そうだ! 黒板で問題を解くのに積極的に指名されるっていうのはどうだ? 賢いところも見せられるし、一石二鳥だろ?」


「川村〜。まず、その問題が解るかどうかっていうところが重要じゃないか。間違ってたら、字が上手いのが逆にみじめだぞ。あ、日向はそうやって余裕で笑っていられるんだからいいよな。」


「そういうわけじゃないけど・・・、じゃあ、俺、行くから。また明日な。」


茉莉ちゃん、今、行くよ!





意外な一面か・・・。


俺って、茉莉ちゃんにはどう見えてるんだろう?

何か、そういう話題ってあったっけ?


・・・ないな。


虎次郎と芳輝には、あれこれ言われたことがある。

でも、茉莉ちゃんには言われたことがないな。


まあ、恥ずかしがり屋だから仕方ないけど。

俺のことをじっくり見てくれたことだってないんじゃないか?

だけど・・・一緒にいる時間はけっこうあるんだよな。

つまり、どんな内容かはわからないけど、俺についてのイメージはあるはずだ。


・・・どんな?


一年のときから一緒だからな。

やっぱり、ただの優等生か?

いや。

今年、生徒会を一緒にやるようになって、変わったかも。

俺自身が変わったって思ってるんだから。


でも・・・意外な一面は?

意外な・・・。


ピアノは?


うちで弾いてみせたときに感心してくれたってことは、それなりに意外だったのかも。

でも、あれ以来、特別に俺への視線が変わった様子はないな。


うーん・・・。

優等生だと思われていたら、 “何かができる” っていうのは、あんまり意外じゃないのかもしれない。


・・・お、もう一つあった!

しかも、マイナスバージョンのが!


俺の苦手な虫。

あのときは、大笑いしてたな。

あのあとも、からかわれたりしてるし。


うん、あれは “意外な一面” に間違いないな。

だけど・・・情けないぞ?

男としての評価として、どうなんだろう?


・・・そういえば。


修学旅行中の茉莉ちゃんのメールに、芳輝のことで “意外な一面” っていう言葉が・・・。

ええと、何度も読み返した・・・ああ、これだ。うん、確かに書いてある。

芳輝が牛が怖いって話で。

これだと、俺があの虫が怖いのと同じだ。


つまり、意外な一面対決では、俺と芳輝は今のところ引き分けか・・・。



まあ、いいや。着いたし。


茉莉ちゃん、来てるかな〜♪

ほかには誰もいないといいな〜♪


「・・・・だよ。」


・・・残念、声がする。一人じゃない。

くすくす笑う声も。・・・茉莉ちゃんの声だな。

まあ、二人きりじゃなくても、茉莉ちゃんと少しでも長くいられれば・・・。


「茉莉花、けっこう上手いね。」


芳輝?


・・・なんで俺は、ここで手を止めてしまったんだ?


「うふふ、そう? 初めてなんだけど。はい、今度は芳くんの番ね。」


なんだ、これ?

二人で声を潜めた感じのこの会話。

やけに仲が良さそうな・・・。


「うーん、ここか?」


「あ、そこはダメ。」


え?


「そう? じゃあ・・・こっち?」


「え? あーん、そこもダメだよ。」


な・・・何が? どこが?


って。

なんで俺は、廊下で二人の会話を盗み聞きみたいに・・・。


「そうかな? やってみたらけっこう・・・ほら。」


「わ、芳くんて、意外と強引。」


い、意外?! 強引?!


「あ、ちょっと待って、芳くん。それ以上はちょっと・・・。」


それ以上は?!

何を?!


「大丈夫だよ。そうっとなら・・・。」


「あ。芳くん、ダメだってば。あ・・・。」


茉莉ちゃん?!


こんなところで聞いてる場合じゃない!

戸を開けなくちゃ!


「芳輝! お前、何を!!」


「わっ!」

「きゃっ!」

――― 座ってる? 机の角をはさんで?


木を組み上げた・・・あ、倒れる!



ガシャーン!!



机の上に木の棒がいっぱい・・・。何本かは向こうの方まで滑って・・・。

これって・・・。


「ジェンガ・・・?」


二人でこれをやってた?

俺の勘違い?


「あーあ。俺の負け?」


芳輝・・・。

全然、慌ててない・・・。


「あ、あのっ、数馬くん、ごめんなさい! 生徒会室で遊んだりして!」


「あ、いや、その・・・。」


「あの、わたしがやろうって言ったの。夏休みに見つけたのを思い出して。校則違反かなって思ったけど、どうせ、みんな遅いと思ったから。ごめんなさい!」


「あ・・・、うん、その・・・、そうだね。」


「数馬? ・・・あ。ああ、っくくく・・・。」


芳輝。

もしかして、その笑いは・・・。


恥ずかしい!!


「その・・・、でも、たまにはいいよね。ええと・・・、俺も混ぜてくれないかな?」


俺だって・・・、たまには茉莉ちゃんとのんびり遊んでみたい。







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