◆◆ しあわせって、こういうこと? ◆◆
あ〜、幸せだ〜。
茉莉ちゃんがあんなに喜んでくれるなんて。
思い切って、電話してよかった〜。
実際に会ってみて、自分がどれほど茉莉ちゃんに会いたかったのか、あらためてよく分かった。
ただ思い出話をしているだけなのに、こんなに楽しくて・・・、ほんとうは、もうちょっと仲良くしたかったけど。
でも、目の前でにこにこしている茉莉ちゃんを見ているだけで、疲れていることを忘れてしまう。
お父さんが帰って来たのは、予想外で驚いたな。
でも、怒られなくてよかった。
最初に思い切って謝ったのが良かったのかも。
お土産も好きだって言ってくれたし。
もしかしたら、俺、意外に気に入られてる?
だとしたら、嬉しいけど・・・。
はあ・・・。
緊張が解けていく。
茉莉ちゃんからのお土産、どこに飾ろう?
机に置きたいけど、勉強に集中できなくなりそうだな。何時間でも眺めているような気がするし。
ベッドの枕元?
毎晩、寝る前に話しかけたりして。
うん。
楽しいかも。
茉莉ちゃん。
ほんとうはね、茉莉ちゃんがマンションの入り口からまっすぐに走ってくるのを見たとき、「会いたかった!」って抱き付いてくれるんじゃないかって、ちょっとだけ期待しちゃったよ。
なのに、気付かないで通り過ぎちゃうなんて。
がっかりしたけど、茉莉ちゃんらしくて、すごく懐かしくて楽しい気分になったよ。
「ただいまー。」
「お帰りなさ〜い。ああ、やっと帰って来たわねえ。」
お。
ちょっと喜ばれてるのか?
相手が母親でも、ちょっと嬉しいかも。
「心配したわよ。ずいぶん前に翔くんを見たのに、数馬がなかなか帰ってこないから。」
「あれ? 翔と会ったの?」
「会ったっていうか、見かけたのよ。買い忘れた物があって、駅の方に行ったから。もうずいぶん前よ。」
つまり、寄り道してたのがバレてる・・・。
ってことは、ここで変に言い訳するよりは、正直に言っておいた方が?
あくまでも、さりげなく、当たり前のこととして。
「あの・・・連絡しないでごめん。ええと、途中で降りて、茉莉ちゃんにお土産を渡して来たから。」
よし!
さりげないぞ!
「あら、そうなの。茉莉花ちゃんは沖縄じゃなかったのね?」
「そうなんだ。だから、沖縄のお菓子を・・・。」
そっちはおまけみたいなものだけど。
「へえ。意外に気が利くじゃないの。」
「え、そう? ああ、そうだ。茉莉ちゃんと話してるときに、茉莉ちゃんのお父さんが帰ってきて、」
「あら。」
「母さんたちによろしくって言われたよ。」
「まあ、そうなの。ちゃんとごあいさつしたの?」
「したよ。お土産も好物だって言ってくれた。」
「そう。よかったわね、数馬。これで両方とも、家族公認ってことね。」
「え?」
家族公認って・・・、俺と・・・茉莉ちゃんが?
え? そんな。
俺と茉莉ちゃんが?
両方の家族に?
え? あれ?
「や・・・、やだな、母さん。俺たちはべつに。」
うわ、 “俺たち” って言っちゃったよ!
だけど、茉莉ちゃんは、全然・・・。
「あら、数馬。そんなに赤くならなくてもいいのに。」
「え? ち、違うよ! これは日に焼けて・・・。」
「はいはい、そうですか。ほら、早く着替えて、夕飯にしなさい。」
「うん・・・わかった。お土産、ここに置いておくから。」
茉莉ちゃんと俺が・・・家族公認?
向こうのお父さんも認めてくれた?
・・・いや、そんなことじゃなくて!
母さん、誤解してるよ!
茉莉ちゃんは、まだ俺の彼女じゃない。なのに・・・。
でも・・・。
もしかしたら、そんなふうに見えるのかな?
うちに来たとき、茉莉ちゃんと俺って、どんなだった?
初めて来たときには、茉莉ちゃんはだいぶ緊張してた。
二度目は・・・夕飯のときは、兄ちゃんたちもいたし、特に俺とは・・・あ! もしかして、あれか? あのとき。
歌の練習の途中で、母さんがいなくなったとき。
茉莉ちゃんと二人で話せることがあんまり嬉しくて、調子に乗ってピアノを弾いちゃったりして。
ちょっとハイになってたかもしれない。
何か用事でいなくなったはずだったけど、もしかしたら見られたのかも。
あれ?
でも、あれを見て母さんが誤解してるってことは、俺だけじゃなくて、茉莉ちゃんもそんなふうに見えた・・・?
あ・・・れ?
そうなのかな?
もしかして・・・今日も?
俺は茉莉ちゃんに会えて嬉しかったけど・・・、茉莉ちゃんも?
たしかに嬉しそうにしてたけど・・・。
いや、そんな。
そんなに都合良くはいかないだろう。
たしかに茉莉ちゃんは嬉しそうだったよ。
だけど、それがそのまま “茉莉ちゃんが俺を好き” ―― うわ、なんだ、この幸せな響きは! ―― なんてことにはならない・・・よな?
だけど、あんなに長い時間だぞ?
俺に興味がなければさっさと帰って・・・いや、茉莉ちゃんはそんなことしないな。
相手がとんでもなく失礼なヤツでも、茉莉ちゃんは相手の気持ちを考えて・・・。
とは言っても。
ちょっとは期待してもいいのかな?
俺のこと、友達よりももうちょっと・・・好き・・・じゃなくても、仲良しだって、思ってくれてるって。
だって・・・。
毎日ちゃんとメールをくれたし。
今日だって、走って出てきてくれたし。
俺のお土産を喜んでくれたし。
俺のためにお土産を・・・って、俺の馬!
どこだ?!
しまった!!
入れっぱなしだ!
ああ、もう!
“家族公認” なんて言われて、テンパって・・・。
「母さん! そのお土産・・・」
「お、数馬、これ、美味いな。」
航平兄ちゃん!
ああ、開けられてる・・・。
「なあ。沖縄って馬が有名なのか? これ・・・」
「に、兄ちゃん、それは俺の・・・。」
「それに、このチョコって、北海道のかと思ってたよ。沖縄なのか〜。」
「いや、それは・・・北海道の・・・。」
「え? なに? 聞こえないなあ。」
くっそ〜〜〜!!
知ってて、わざとやってるな!
「それは北海道のだよ!」
「え? 数馬って、北海道に行って来たのか?」
もう!
「違うよ! それは茉莉ちゃんにもらったんだよ!」
いくらでも言ってやる!
「そのチョコは食べてもいいけど、この馬は俺のだから触るな!」
「くくく・・・。ああ、そうなのか〜。家族に会う前に、茉莉ちゃんに会って来たわけね〜。ふーん。」
笑いたきゃ笑え!
もう航平兄ちゃんなんか、茉莉ちゃんに会わせてやらないからな!