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メガネに願いを  作者: 虹色
第七章 二人の気持ち
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◇◇ 会えた・・・。 ◇◇


会いたかった数馬くん。

その数馬くんが目の前にいる。


日焼けした顔。

でも、いつもの優しい微笑み、優しい声。

向けられた瞳に、期待してしまいそう。もしかしたら・・・? だめだよ、あり得ない。


でも・・・。


数馬くんがここにいることを、この手で確かめたい。

日焼けした鼻の頭にちょっと触れるくらいなら、ふざけただけって思ってくれる?


いいえ、もう話題は日焼けから別のことに・・・。

ぐずぐず考えてばかりいるわたしには、一生できそうにないかも。



数馬くん・・・。



会いたかった。

たくさんお話ししたかったの。

楽しいことが、たくさんあったの。


なのに・・・。

いざとなったら、なかなか言葉にならない。

あんなに大急ぎで来たのにね。



走り込んだ駅の入り口。

慌てて通り過ぎてしまったその明りの下に、銀色のスーツケースを横に置いた数馬くんがにこにこ笑っていた。

いつもの学生服、いつものメガネ、いつもの笑顔。


早く会いたくて走って来たのに、数馬くんを見た途端に、それを知られるのが恥ずかしくなってしまった。



――― 「数馬くんが好きです。」



そう言ったら、すべてが説明できるけれど・・・、そんな勇気はわたしにはない。

だから、近くにいられるだけで満足。

こうやって、わたしのために時間を作ってくれたことだけで。



なんて楽しいんだろう!

数馬くんがわたしに話してくれている。

当たり前のように。

それだけじゃなくて、お土産を買ってきてくれたって・・・あ、お土産。


わたしのお土産。


「これ、数馬くんにお土産です。定番のチョコレートだけど、みなさんで食べてください。」


「え? うちに? 荷物が多いんだから、気を遣わなくても・・・。」


「あ、いえ、いいの。ほんの少しだけ。」


「ありがとう。こっちは・・・開けてもいい?」


「どうぞ。」


ほんとうは、それがメインです。


「・・・あ、馬だ。」


そう。

20cmくらいの馬のぬいぐるみ。


「うん。数馬くんの名前に “馬” がついてるから・・・。」


それに、茶色の毛並みに黒いたてがみと尻尾、脚の先が白っていう姿が、優しくて凛々しい数馬くんに似てるでしょう?

内緒だけど、同じものを自分用にも買ったの。


「ありがとう。かわいいね。」


その笑顔!!

気に入ってくれた?

よかった!


「そうだ、俺も。はい、これ。」


・・・え?

その袋ごと?


袋の中から取り出すのかと思ったのに。

なんだか、わたしのお土産と釣り合わないような・・・。あ、ぬいぐるみ?


「あ・・・、亀? うわ、かわいい・・・。」


緑色のとぼけた顔がわたしを見上げてる。

だけど・・・。


大きいよ?!

小型のクッションくらいあるよ?!


「あの、数馬くん、こんなに大きな・・・、あの、いいの?」


「うん、その・・・、毎日メールを頼んじゃったから、そのお礼も兼ねて。スーツケースに詰め込んで来たから、ちょっと形が歪んでるかもしれないけど。」


そんなこと!


「ありがとう・・・。すごくかわいいね。」


わたしのために選んでくれたぬいぐるみ。


嬉しくて、なんて言ったらいいのかわからない。

なんだか泣きたい気分。

うるんだ目を見られないように、抱きしめたウミガメに頬を寄せて。


「あと、これ。定番だけど。」


「あ・・・、ちんすこう? ありがとう。」


「そうだ! 今日の昼はステーキを食べたんだよ。」


「ステーキ? 贅沢・・。」


「あはは。高校生だから安い店だけど、すごく大きな肉なんだよ。・・・ほら。」


携帯の画面で見せてくれた写真には、お皿からはみだすほど大きなステーキが。


「ほんとだ。わたしたちはね、今日のお昼は回転寿司に行ったの。」


「回転寿司?」


「そう。北海道と言えば、海の幸でしょう? 本物のお寿司屋さんには入れないけど、回転寿司ならって。」


「なるほどね。」


「でも、男の子たちはたくさん食べたくて、お財布をのぞいて必死に計算してたよ。」


「ああ、最終日だったしね。」


「そうなの。ふふふ。」


楽しい。

ずっとこうやって話していたい。

数馬くんに会えて嬉しい!


「そういえば、向こうで八重女と宿が一緒になったんだよ。」


・・・え?


「あ・・・、そうなの?」


「うん。2泊目と3泊目。びっくりしたよ、旅行先で近所の学校と一緒になるとは思わなかったから。」


「うん・・・、そうだよね。」


話してくれるの?

そんなふうに、何でもない調子で。


「山口さんにも会ったよ。元気そうだった。」


「そう。よかった。」


そうか。

数馬くんにとっては、何でもないことだったんだ。

だから、わざわざメールに書いたりしなかったんだ。


気にしてないつもりだったけれど、わたし、今、こんなにほっとしてる。



数馬くん、大好き。


「沖縄の海は、ほんとうにきれいだったよ。どこに行っても青いんだよ。」


今の時間がずっと続けばいいのに・・・。






「茉莉ちゃん、そろそろ帰らないと、家の人が心配するかも。」


「え? そんなに経った?」


何時?

え? 8時40分?

電話が来たのは8時前だったのに・・・。


「ごめん、茉莉ちゃん、引きとめちゃって。マンションの入り口まで送るから。」


「え、あの、大丈夫。一直線だし。数馬くんは荷物があるから・・・。」


ほんとうは、少しでも長く数馬くんと一緒にいたいけれど。


「荷物? ああ、キャスターが付いてるから何でもないよ。今日は玄関までは行かないけど。」


「あれ? ジャスミンか?」


お父さん?!

こんなときに!!


「あ、お、お父さん。お帰りなさい。」


「あの、こんばんは。」


「・・・ああ、日向くん、だったかな?」


覚えてるんだ?!


「はい。あの・・・、茉莉花さんをこんな時間まで引き留めてすみません!」


え?!

やだ、そんなこと言ったら、長い時間話してたってバレちゃう!

恥ずかしいよ!


「あ、あれ? 数馬くん? あ、あの、お父さん、数馬くんは沖縄のお土産を渡すために途中で・・・。」


「沖縄?」


「うん、ほら、修学旅行の。わたしは北海道だったけど、数馬くんは沖縄コースで、ほら、これ。」


「ああ、ちんすこうか。いや、ありがとう。これ、好物でねえ。わざわざ悪いね。」


あ・・・、気付いてない?

よかった・・・。


「もっと時間があるときなら、うちに寄ってもらうのになあ。そういえば、ジャスミンは何度もお邪魔してるんだったね? ご家族にもよろしく伝えてください。」


うわ・・・。

このくらい当たり前なのかも知れないけれど、なんとなく恥ずかしい・・・。


「いえ、あの、・・・はい。ありがとうございます。じゃあ、僕はこれで・・・失礼します。」


ああ、帰っちゃうよね。

お父さんがいるもんね。

送る必要ないよね。


「ありがとう、数馬くん。気を付けてね。」


「うん。・・・じゃあ。」


バイバイ、数馬くん。



ちょっとだけ、振り向いてくれないかな?

ダメ?


・・・あ。



バイバイ。

月曜日にね。


微笑んでくれた!


「日向くんは、いつも礼儀正しいねえ。」


「あ・・・、そう?」


そういえば、前に送ってもらったときも褒めてたっけ。


「さすが、啓ちゃんが目を付けただけのことはあるなあ。」


「お父さん! やだ、もう。あれは啓ちゃんが勝手に言ってるだけなんだよ。」


「そうなのか? ははは。」


送ってもらった日に啓ちゃんが電話で『ジャスミンの彼氏候補者』って言ったこと、まだ覚えてるんだから。

そのうち数馬くんの前で言われちゃったりしたら、ほんとうに困る!

そんなことになったら、啓ちゃんのこと、一生恨むからね!




・・・数馬くんからのお土産。


ねえ、カメさん。

これからたくさん話しかけてもいい?

そうしたら・・・。

浦島太郎を竜宮城に運んだように、わたしが話したことを、数馬くんに届けてくれないかな?







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