◆◆ 会いたい気持ちが ◆◆
やっと解散だ・・・あれ?
あれって、園田さんじゃなかったっけ?
たしか、茉莉ちゃんと一緒に北海道に行ってたはずだよな?
どうして、今・・・?
あ。
あいつを待ってたのか?
同じクラスの・・・名前は覚えてないけど、園田さんの彼氏だ。
俺たちの到着は少し遅れたから・・・、茉莉ちゃんたちが着いてから、一時間半くらい?
そうか。
こういう手もあるのか。
・・・とは言っても、茉莉ちゃんに、待っていてほしいなんて言えないよな。
言いたいけど。
あーあ。
あんなに楽しそうに。
いいなあ。
・・・茉莉ちゃんに会いたいな。
あの二人を見たら、ますます会いたくなっちゃったよ。
あのお土産を渡したら、どんな顔をするんだろう?
できれば、みんなの前でじゃなくて、二人だけのときに・・・。
明日かあさって、誘ってみようかな。
だけど、休日に誘うのって・・・今の俺たちの関係だと、ちょっと警戒される?
断られちゃうかも・・・。
いや。
誘うんじゃなくて、お土産を届けるっていうのはどうだ?
うん。
それなら違和感がなさそうだ。
前に、茉莉ちゃんと翔が、劇のDVDを届けてくれたこともあるし。
うん、それがいいな。
届けよう。
「日向〜。行くぞ〜。」
「あ、うん。」
あ〜。
なんだか、会えると思ったら、待ちきれなくなってきた。
早く茉莉ちゃんの顔が見たい!
茉莉ちゃんの声が聞きたい!
――― 声?
声だったら・・・電話があるじゃないか!
そうだよ!
旅行中は周りに友達がいるからできなかったけど、今なら茉莉ちゃんは家に着いてるころだ。
どうしよう?
急過ぎる?
でも、お土産を届ける話を・・・。
あ〜〜〜〜。用件なんかどうでもいい!
やっぱりすぐに声が聞きたい!!
「あ、悪い。俺、ちょっと用事を思い出した。」
「え? 用事? ここで?」
「あ、ええと、うん。あの、母親が、空港でしか買えないものがあるからって・・・。」
「修学旅行に行った帰りに、空港のお土産?」
「う、うん。変だよな、うちの母親。でも、買って帰らないとうるさいから、行ってくるよ。みんな、先に帰っていいから。」
電話でたくさん話しちゃうかも知れないもんな♪
みんな、先に帰っててくれよ〜♪
「じゃあな。」
さあ。
誰にも見られない場所へ、GO!
一回・・・、二回・・・、三回・・・。
電車の中?
それとも、もう家に着いて、携帯から離れちゃってるかな?
四回・・・、五回・・・、六回・・・。
出ないっていう可能性にはまったく思い至らなかった。
伝言を残すしかないのか?
七回・・・あ! よかった!
『あ、あ、あの、もしもしっ。』
ああ、茉莉ちゃんだ!
また緊張してるのかな。
そんなところも、茉莉ちゃんらしくて・・・。
「あの・・・、茉莉ちゃん? ええと、今、どこかな?」
『あの、ええと、うちの・・・、なんだっけ、あ、桜沢の駅、です。』
ああ・・・、和むなあ、こんなに慌てて。
茉莉ちゃん、会いたいよ。
声を聞いたら、ますます会いたい気持ちが・・・。
「そう。ええと、俺・・たち、今、空港で解散したところなんだ。」
『ああ、そうなの。・・・おかえりなさい。』
「あ、うん、ありがとう。ただいま。あれ?」
二人とも旅行だったんだよな?
「あ、茉莉ちゃんも、おかえり。」
・・・って、こういうとき、こういうあいさつをするのか?
『え? あ。あの、ただいま・・・帰りました?』
茉莉ちゃん、その答え、なんとなく変だよ・・・、いや、何を言い合ってるんだ、俺たちは?
そうだ。
とにかく用件を言わなくちゃ。
「ええと、それで・・・、茉莉ちゃん、」
う・・・。
やっぱり、あらためて言おうとすると、ちょっと照れるな・・・。
『はい・・・?』
「あの、お土産が・・・」
『え?』
「お土産を渡したいんだけど、その・・・、」
『えええぇ?!』
この部分だけで、こんなに驚かれるなんて。
きっと、目をまん丸にして・・・かわいいだろうなあ。
あーあ。
・・・だめだ。
やっぱり会いたい!
会いたい、会いたい、会いたい!
きのうまでの沖縄と北海道に比べたら、今日はすぐ近くにいるんだぞ!
しかも、彼女の家は、俺が帰る途中の・・・帰る途中?!
そうか! 帰る途中だよ!
「あの、茉莉ちゃん。帰りに・・・、ええと、帰る途中で、桜沢で降りるから、あの、・・・駅まで出て来てもらえるかな?」
そうだよ!
こうすれば、会えるじゃないか!
『え・・? あ、はいっ! はい。はい。行きます。絶対に。』
おお! すぐに返事が!
さすがにメールとは違うな。
やったよ! 茉莉ちゃんに会える! もうすぐ!
「あ、だいたい・・・一時間半くらい? 着いたら連絡するから・・・。遅い時間だと、お母さんが心配するかな?」
よしよし。
けっこう落ち着いてるじゃないか、俺。
『いいえ! 何時でも大丈夫です。』
なんか・・・、もしかして、茉莉ちゃんも嬉しそう?
会った途端にうれし泣きとかされちゃったら、どうしよう?
「そう? でも、もし、家の人がダメって言うなら連絡して。・・・じゃあ、またあとで。」
『うん。またあとでね。』
やったーーーー!!
今、何時?
6時半。
じゃあ、向こうに着くのは8時ごろ?
ああ・・・急がなくちゃ!
『すぐに行きます!』
大慌ての茉莉ちゃんの声。
どこで待とう?
うん、ここなら茉莉ちゃんのマンションの入り口がまっすぐに見える。
駅の電気で明るいし。
マンションのエントランスから駅まで、歩道橋を兼ねたデッキで50メートル・・・はないかな?
学生服にスーツケースっていう組み合わせは、けっこう目立つはず。
そうだ。お土産を出しておかなくちゃ。
ウミガメのぬいぐるみ、茉莉ちゃん、喜んでくれるかな?
何を着て来るだろう?
さすがに、もう制服じゃないよな。
あ、出てきた。
赤・・・のチェックのワンピース?
何を着てても、茉莉ちゃんらしくて可愛く見えるのはどうしてなんだろう?
あのメガネも懐かしい。
ああ、あんなに走って。そんなに急がなくても・・・、あんまり速くないな。
いや、でも・・・、なんだ?
このわくわく感っていうか、ドキドキ感っていうか。
このまま走ってきて「会いたかった!」なんて、首に抱き付いて来たり・・・うわ、って、茉莉ちゃん?
どこ見てるの?!
俺はここに・・・通り過ぎないで!!
「茉莉ちゃん!」
「はいっ?!」
俺はここだよ!
さあ、胸の中に!
・・・なんてわけ、ないか。
あーあ。
あんなに驚いた顔をして。
それから、失敗を見られた子どもみたいな顔、そして・・・おずおずとした、恥ずかしそうな顔。
いつもの懐かしい茉莉ちゃん。
会いたかった茉莉ちゃんが、今、目の前に。
駆け寄ってくれないんだね。
でも、ゆっくりと近付いてくるその瞳。
胸が苦しくなるよ。
茉莉ちゃんも、俺に会いたいと思っていてくれたんじゃないかって・・・。
「あの・・・。」
「あ・・・。びっくりしたよ。来たと思ったら、目の前を通り過ぎちゃったから。」
心臓が、今ごろドキドキしてきた。
たくさん話したいことがあったのに、言葉がすぐには出て来ない。
その代わり・・・ただ、この手で茉莉ちゃんを確かめたい。
この手で、茉莉ちゃんを・・・。
「あの・・・ごめんなさい。改札口の中にいると思っていたから。出たらお金がかかっちゃうのに。」
改札口の中?
・・・ああ、俺が待っている場所のことを話してるのか。
そうか。それで、気付かずに。
「ああ・・・そうだね。でも、いいよ。」
改札越しじゃ、遠すぎる。
「数馬くん、日に焼けてる。」
微笑みながら控えめに俺を見上げる茉莉ちゃん。
その頬に触りたい。
もし・・・キスしたらどうする?
・・・今日の俺、どうかしてる。
考えることがいつもより過激だ。
「ああ、これ? そうなんだよ。きのう、鼻の頭の皮がむけてさあ。腕も、ほら。」
茉莉ちゃんの肩がすぐそばに。
「ほんとだ。」
それとも、そのおでこに?
「おとといの夜は、肩がひりひりしてTシャツも痛かったよ。」
会えなかったから?
だから想いが強くなって・・・。
「北海道は日焼けの心配はいらなかったよね?」
言いたいのはこんな言葉じゃない。
たったひとこと。 ――― 「会いたかった。」
こんなに簡単な言葉が、どうして口にできないんだろう?
ねえ、茉莉ちゃん。
俺と会えて嬉しい?
旅行のあいだ、俺に会いたいと思ってくれた?
俺は・・・すごく会いたかったよ。
会えないことがつらかった。
会ってみたら・・・、今度はあんまり嬉しすぎて、胸が痛い。
それに、一番言いたい言葉が言えなくて。