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メガネに願いを  作者: 虹色
第七章 二人の気持ち
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◆◆ 会いたい気持ちが ◆◆


やっと解散だ・・・あれ?

あれって、園田さんじゃなかったっけ?

たしか、茉莉ちゃんと一緒に北海道に行ってたはずだよな?

どうして、今・・・?


あ。


あいつを待ってたのか?

同じクラスの・・・名前は覚えてないけど、園田さんの彼氏だ。


俺たちの到着は少し遅れたから・・・、茉莉ちゃんたちが着いてから、一時間半くらい?

そうか。

こういう手もあるのか。


・・・とは言っても、茉莉ちゃんに、待っていてほしいなんて言えないよな。

言いたいけど。



あーあ。

あんなに楽しそうに。

いいなあ。



・・・茉莉ちゃんに会いたいな。



あの二人を見たら、ますます会いたくなっちゃったよ。


あのお土産を渡したら、どんな顔をするんだろう?

できれば、みんなの前でじゃなくて、二人だけのときに・・・。


明日かあさって、誘ってみようかな。

だけど、休日に誘うのって・・・今の俺たちの関係だと、ちょっと警戒される?

断られちゃうかも・・・。


いや。

誘うんじゃなくて、お土産を届けるっていうのはどうだ?


うん。

それなら違和感がなさそうだ。

前に、茉莉ちゃんと翔が、劇のDVDを届けてくれたこともあるし。


うん、それがいいな。

届けよう。


「日向〜。行くぞ〜。」


「あ、うん。」


あ〜。

なんだか、会えると思ったら、待ちきれなくなってきた。

早く茉莉ちゃんの顔が見たい!

茉莉ちゃんの声が聞きたい!



――― 声?



声だったら・・・電話があるじゃないか!



そうだよ!

旅行中は周りに友達がいるからできなかったけど、今なら茉莉ちゃんは家に着いてるころだ。


どうしよう?

急過ぎる?

でも、お土産を届ける話を・・・。


あ〜〜〜〜。用件なんかどうでもいい!

やっぱりすぐに声が聞きたい!!


「あ、悪い。俺、ちょっと用事を思い出した。」


「え? 用事? ここで?」


「あ、ええと、うん。あの、母親が、空港でしか買えないものがあるからって・・・。」


「修学旅行に行った帰りに、空港のお土産?」


「う、うん。変だよな、うちの母親。でも、買って帰らないとうるさいから、行ってくるよ。みんな、先に帰っていいから。」


電話でたくさん話しちゃうかも知れないもんな♪

みんな、先に帰っててくれよ〜♪


「じゃあな。」


さあ。

誰にも見られない場所へ、GO!






一回・・・、二回・・・、三回・・・。


電車の中?

それとも、もう家に着いて、携帯から離れちゃってるかな?


四回・・・、五回・・・、六回・・・。


出ないっていう可能性にはまったく思い至らなかった。

伝言を残すしかないのか?


七回・・・あ! よかった!


『あ、あ、あの、もしもしっ。』


ああ、茉莉ちゃんだ!

また緊張してるのかな。

そんなところも、茉莉ちゃんらしくて・・・。


「あの・・・、茉莉ちゃん? ええと、今、どこかな?」


『あの、ええと、うちの・・・、なんだっけ、あ、桜沢の駅、です。』


ああ・・・、和むなあ、こんなに慌てて。

茉莉ちゃん、会いたいよ。

声を聞いたら、ますます会いたい気持ちが・・・。


「そう。ええと、俺・・たち、今、空港で解散したところなんだ。」


『ああ、そうなの。・・・おかえりなさい。』


「あ、うん、ありがとう。ただいま。あれ?」


二人とも旅行だったんだよな?


「あ、茉莉ちゃんも、おかえり。」


・・・って、こういうとき、こういうあいさつをするのか?


『え? あ。あの、ただいま・・・帰りました?』


茉莉ちゃん、その答え、なんとなく変だよ・・・、いや、何を言い合ってるんだ、俺たちは?

そうだ。

とにかく用件を言わなくちゃ。


「ええと、それで・・・、茉莉ちゃん、」


う・・・。

やっぱり、あらためて言おうとすると、ちょっと照れるな・・・。


『はい・・・?』


「あの、お土産が・・・」


『え?』


「お土産を渡したいんだけど、その・・・、」


『えええぇ?!』


この部分だけで、こんなに驚かれるなんて。

きっと、目をまん丸にして・・・かわいいだろうなあ。


あーあ。


・・・だめだ。

やっぱり会いたい!

会いたい、会いたい、会いたい!


きのうまでの沖縄と北海道に比べたら、今日はすぐ近くにいるんだぞ!

しかも、彼女の家は、俺が帰る途中の・・・帰る途中?!

そうか! 帰る途中だよ!


「あの、茉莉ちゃん。帰りに・・・、ええと、帰る途中で、桜沢で降りるから、あの、・・・駅まで出て来てもらえるかな?」


そうだよ!

こうすれば、会えるじゃないか!


『え・・? あ、はいっ! はい。はい。行きます。絶対に。』


おお! すぐに返事が!

さすがにメールとは違うな。

やったよ! 茉莉ちゃんに会える! もうすぐ!


「あ、だいたい・・・一時間半くらい? 着いたら連絡するから・・・。遅い時間だと、お母さんが心配するかな?」


よしよし。

けっこう落ち着いてるじゃないか、俺。


『いいえ! 何時でも大丈夫です。』


なんか・・・、もしかして、茉莉ちゃんも嬉しそう?

会った途端にうれし泣きとかされちゃったら、どうしよう?


「そう? でも、もし、家の人がダメって言うなら連絡して。・・・じゃあ、またあとで。」


『うん。またあとでね。』



やったーーーー!!



今、何時?

6時半。

じゃあ、向こうに着くのは8時ごろ?


ああ・・・急がなくちゃ!







『すぐに行きます!』


大慌ての茉莉ちゃんの声。

どこで待とう?


うん、ここなら茉莉ちゃんのマンションの入り口がまっすぐに見える。

駅の電気で明るいし。


マンションのエントランスから駅まで、歩道橋を兼ねたデッキで50メートル・・・はないかな?

学生服にスーツケースっていう組み合わせは、けっこう目立つはず。

そうだ。お土産を出しておかなくちゃ。

ウミガメのぬいぐるみ、茉莉ちゃん、喜んでくれるかな?


何を着て来るだろう?

さすがに、もう制服じゃないよな。

あ、出てきた。

赤・・・のチェックのワンピース?

何を着てても、茉莉ちゃんらしくて可愛く見えるのはどうしてなんだろう?

あのメガネも懐かしい。


ああ、あんなに走って。そんなに急がなくても・・・、あんまり速くないな。


いや、でも・・・、なんだ?

このわくわく感っていうか、ドキドキ感っていうか。

このまま走ってきて「会いたかった!」なんて、首に抱き付いて来たり・・・うわ、って、茉莉ちゃん?


どこ見てるの?!

俺はここに・・・通り過ぎないで!!


「茉莉ちゃん!」


「はいっ?!」


俺はここだよ!

さあ、胸の中に!


・・・なんてわけ、ないか。



あーあ。

あんなに驚いた顔をして。

それから、失敗を見られた子どもみたいな顔、そして・・・おずおずとした、恥ずかしそうな顔。


いつもの懐かしい茉莉ちゃん。

会いたかった茉莉ちゃんが、今、目の前に。


駆け寄ってくれないんだね。

でも、ゆっくりと近付いてくるその瞳。

胸が苦しくなるよ。

茉莉ちゃんも、俺に会いたいと思っていてくれたんじゃないかって・・・。


「あの・・・。」


「あ・・・。びっくりしたよ。来たと思ったら、目の前を通り過ぎちゃったから。」


心臓が、今ごろドキドキしてきた。

たくさん話したいことがあったのに、言葉がすぐには出て来ない。

その代わり・・・ただ、この手で茉莉ちゃんを確かめたい。


この手で、茉莉ちゃんを・・・。


「あの・・・ごめんなさい。改札口の中にいると思っていたから。出たらお金がかかっちゃうのに。」


改札口の中?

・・・ああ、俺が待っている場所のことを話してるのか。

そうか。それで、気付かずに。


「ああ・・・そうだね。でも、いいよ。」


改札越しじゃ、遠すぎる。


「数馬くん、日に焼けてる。」


微笑みながら控えめに俺を見上げる茉莉ちゃん。

その頬に触りたい。

もし・・・キスしたらどうする?


・・・今日の俺、どうかしてる。

考えることがいつもより過激だ。


「ああ、これ? そうなんだよ。きのう、鼻の頭の皮がむけてさあ。腕も、ほら。」


茉莉ちゃんの肩がすぐそばに。


「ほんとだ。」


それとも、そのおでこに?


「おとといの夜は、肩がひりひりしてTシャツも痛かったよ。」


会えなかったから?

だから想いが強くなって・・・。


「北海道は日焼けの心配はいらなかったよね?」


言いたいのはこんな言葉じゃない。

たったひとこと。 ――― 「会いたかった。」


こんなに簡単な言葉が、どうして口にできないんだろう?





ねえ、茉莉ちゃん。


俺と会えて嬉しい?

旅行のあいだ、俺に会いたいと思ってくれた?



俺は・・・すごく会いたかったよ。

会えないことがつらかった。


会ってみたら・・・、今度はあんまり嬉しすぎて、胸が痛い。

それに、一番言いたい言葉が言えなくて。







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