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メガネに願いを  作者: 虹色
第七章 二人の気持ち
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◆◆ ほんとうの俺? ◆◆


茉莉ちゃんとメールのやり取りをして気付いた。

それがけっこう辛いものだってことに。



茉莉ちゃんからメールをもらうのは嬉しい。

彼女の性格がよく表れた文章や内容は、なんだか声まで聞こえるような気がするし、これを俺だけのために書いてくれたんだと思うと幸せな気分になる。


だけど。


読んだあとが辛い。会いたくなるから。

それと、書くことも。



書くのが辛いのは、書けない言葉があるからだ。

俺が一番言いたい言葉。


『一緒に』、『二人で』、『ここにいてくれたら』、『会いたい』、それから・・・『好きだよ』。


全部、ぎりぎりのほかの言葉に置き換えて。


そんなことをしていると、ますます想いがつのってしまう。

茉莉ちゃん・・・会いたいよ。



「何ぼんやりしてんだよ? またプリンセスのことでも考えてるのか?」


「え? あ。」


隣のベッドに寝転んだ村井が、こっちを見てニヤニヤ笑ってる。

そんなにぼんやりしてたかな?


「何だよ、プリンセスって?」


なんとなく察せられるけど、簡単に認められるわけがない。誰にでも言いふらすようなことじゃないんだから。

広まって、茉莉ちゃんの耳に入ったりしたら、せっかく築き上げてきた友情すら失くしかねない。


・・・っていうか。


「俺、修学旅行に来てから、村井にからかわれてばっかりいるような気がするけど?」


今まで、そんなに・・・はっきり言ってしまうと、親しくなかったのに。


「そうか? そうだな。」


村井が少し考えてから笑う。


「でも、それって、日向が変わったからだけど。」


「変わった? 俺が?」


たしかに最近、自分でも何度かそう思った。

だけど、周りの目にもはっきりと分かるほどだったのか?


「うん。」


「ええと、どのあたりが・・・?」


訊いてみたい。

クラスメイトの目に、自分がどんなふうに映っているのか。


「どのって・・・、そうだな、たとえば、前は隙がないっていうか・・・。」


隙がない。


「一歩下がってて、自分から中心には出て来ないとか。」


当たってる。

その通りだった。


「一旦、 “こういうヤツだな” って思ったら、それでおしまい、みたいな。」


つまんない男だったんだな。


「だけど、今は “どんなヤツだろう?” って思う。」


「どんなヤツ・・・?」


「日向にこんなことを言ったら、どういう反応をするんだろう、って。」


興味があるってことか?


「うーん、まあ、要するにちょっとからかってみたいんだよな。」


村井の笑顔が照れくさい。

けど、なんだか嬉しい。


「ほら、文化祭の二日目に、お前の兄さんが来て、みんなに詰め寄られたことがあっただろ?」


「ああ、うん。」


「あのときさあ、お前が居直ったのを見て、 “へえ、こんなところもあるんだ” って感心したっていうか、面白いヤツだなあって思ったよ。」


「・・・村井もあの中にいたのか?」


「まあまあ。あのときはみんな興奮状態だったよなあ。ははは。」


たしかに。

まあ、一過性のものだったみたいでよかったけど。


「最初のイメージどおりの日向なら、あんなところで居直ったりしないで、適当な理由をつけてさっさと退場してたんだよ。なのに、あんな爆弾発言までしてさあ。俺たちと真っ向勝負みたいな。それなのに、俺たちの反応を見て焦った顔をして。それが可笑しくて。」


くすくすと笑う村井。

けど、その笑いは決して不快ではなく。


「栗原も、 “日向をからかうと面白い” って言ってたし、」


栗原?


「あ、村井ってバスケ部だっけ?」


「そ。大野さんが日向のうちに歌を習いに行くことになった話も、あとで栗原が説明してくれたよ。」


どんな説明をしたのか、多少気になるけど・・・。


「そしたら今度は、自分から合唱祭の伴奏やるとか言うし、話してみると、真面目なくせに抜けてるところがあるし、 “なーんだ、普通じゃん。” みたいな。」


「普通? じゃあ、その前は普通じゃなかったってこと?」


「だから言っただろ、 “隙がない” って。」


・・・うん。

たしかに、いつも緊張してたかもしれない。


「こうやって話すのも、今だからだぞ。前の日向には言わなかっただろうし、お前だって興味がなかったと思うな。」


うん、そうだ。

たしかに前は、 “周囲には、どうせ優等生って思われてるんだから” なんてあきらめていた。

・・・あきらめるっていうよりも、意地か?


「そうだ。日向、今日の午後、途中で消えたよな?」


「ああ。ちょっと疲れたから。」


「ふうん。原因は浜野と山口さんかと思った。」


あ。


「村井って・・・けっこう鋭いな。」


「そうか? あの二人の態度があからさま過ぎると思うけどな。」


そうか。

森川さんも気付いてたし。


「俺だったら喜んじゃうけど、日向にはプリンセスがいるからなあ。ははは。」


「また『プリンセス』って・・・。」


誰のことだと訊くのはやめておこう。



あれ? 携帯が・・・もしかして、茉莉ちゃんだったりして♪


違う! 山口さんだ!

しかも、メールじゃなくて電話?



――― 無視したい。だけど・・・。



ため息が出てしまう。


「もしもし。」


俺って律儀すぎるのか?

それとも、単に気が弱いだけ?


『あ、日向くん。よかった。』


「なに?」


『あのね、・・・直接お話ししたいんだけど、出て来られない?』


「直接って・・・今? もうすぐ消灯だけど。」


『ほんの少しの時間で済むから。お願い。』


・・・どうする?

こんな時間に呼び出される理由はたぶん・・・。


「悪いけど、行かない。」


『え?』


「こんな時間に山口さんと会ってたら、誤解される可能性があるから、行かない。」


こういうとき、どう言えばいいのかよく分からない。

分からないから、ストレートに言うしかない。

冷たい男だって思われてもいい。

俺には茉莉ちゃんしかあり得ないんだから。


『誤解・・・されたら困る?』


「うん。」


『・・・そう。』


少し淋しそう?

だけど、期待を持たせるようなことはしたくない。


『わかった。じゃあ、いいです。おやすみなさい。』


「うん。おやすみ。」


これで終わり・・・だよな?


顔を上げたら、村井がニヤリと笑った。


「いいのか? もったいない。」


もったいない?


「そうか?」


「山口さんだろ? 美人だし、お嬢様だぞ?」


「そんな条件は関係ないよ。」


茉莉ちゃんじゃないんだから。


「それとも・・・断るのは変なのか?」


「え? ぷっ! 日向って、やっぱり可笑しい。そんな真面目な顔で、そんな質問するんだから。はは。」


「だけど・・・。」


そんなこと言われても、ほんとうに分からないし。


「まあ、要領がいい男なら、ああいう彼女をキープしておくっていうのも有りかもな。連れて歩いたら自慢できるだろ?」


連れて歩いたら自慢できる?

それなら茉莉ちゃんが一番だ!

でも。


「俺は自分の彼女を自慢するつもりはないな。」


どっちかって言うと、みんなの目に付かないようにしまっておきたい。


「まあ、日向ならそうだよな。でも、意外だったな。」


「何が?」


「あんなにはっきり言うなんてさ。朝も午後も逃げたってことは、相手に恨まれたくないとか、断るにしてもいいヤツだって思われたいとか、そんなふうに考えてるのかと思った。」


「そうか? ・・・まあ、山口さんは茉莉ちゃんの知り合いだからそういう話は避けたかったけど、今みたいに呼び出されたらね。」


「あ、知り合いなのか?」


「うん。小学校の同級生だって。」


地区生徒会のとき、茉莉ちゃんは久しぶりに会ったことを素直に喜んでいたけど、山口さんはそれを利用しただけだ。

その時点ですでに、山口さんに対する気持ちは決まっている。


「浜野のことはどうするんだ?」


「浜野さん? 俺、けっこう露骨に態度に出てると思うけど?」


見てれば分かるだろ?


「ははは! 全然効果がないみたいだぞ。」


「分かってるよ。だから逃げるしかないじゃないか。堀が割り込んでくれるのがありがたいよ。もっと頑張ってくれればいいのになあ。」


・・・ん?


「なんで俺の話ばっかりなんだよ? 村井は何もないのか?」


「俺? 俺は一人には絞れないの。」


「なんだよ、それ?」


「可愛い子や綺麗な子を見たり、話したりするのが楽しいんだよ♪」


「要するに、誰でもいいのか。」


「お前はそんなふうに言うけど、女子にはどの子にも、可愛いところがあるんだぜ。」


「たとえば?」


「まあ、浜野とか山口さんみたいに見た目で惹きつけるっていう子もいるけど、本多はクールに見えて抜けてるところがあるし、森川は笑い声が綺麗だな。そういうところを見つけると、 “もう一回見たい” って思わないか?」


そりゃあ、茉莉ちゃんなら・・・。


「やっぱり、誰でもいいんだ?」


「はは! まあ、そういうことかな。潔癖な日向には理解できないか。まあ、相手があのプリンセスじゃ、そのくらいじゃないとダメかもしれないけど。」


また「プリンセス」って。


絶対に、誰のことだとは訊くもんか!







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