表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
メガネに願いを  作者: 虹色
第七章 二人の気持ち
72/103

◇◇ 見たくないメール ◇◇


「ソノちゃん、どう?」


ソノちゃんの部屋にクラスの女子が集まっている。

昼間に立ち寄ったお土産店でそれぞれが買ったお菓子を持ち寄って。


ソノちゃんが見つめているのは携帯電話。

たった今届いた菊池くんのメールを食い入るように読んでいるところ。


「書いてない。ひと言も。シュノーケリングで感動した話ばっかり。」


はあ・・・っと、周りで見ていたわたしたちからため息が。


「きっと、それが菊池くんの気持ちそのままなんじゃないかなあ。」


「何言ってんの? シュノーケリングは午前中で、そのあと午後いっぱい海で遊んでるんだよ? 午後の話が何もないのは変だよ。絶対に言いにくいことがあるんだ。」


うーん、そうなのか・・・。


「ねえ。心配をかけないように、言って来ないんじゃないの?」


香織ちゃんがとりなすように言う。

なるほど。

そういう考え方もあるよね。


「心配をかけないように? あたしが焼きもちを焼くとでも? まさか! 菊池くんの一人や二人、八重女のお嬢様たちに熨しつけて進呈するよ。」


ソノちゃん、手厳しい・・・。


「でもさあ、みっちゃんが少し大袈裟に言ってるのかもしれないよ。」


大袈裟に、か。


うん。

みっちゃんには、そういうところもあるかもしれない。

ソノちゃんとは特に仲良しだから、ちょっとからかう意味も込めて。



そう。

夕食後に届いたみっちゃんからのメールが、今の状態の原因。


『今日のマリンスポーツは天気も良くて、最高だったよ!』


で始まった報告メールは、後半に爆弾を抱えていた。

午後のホテル前のビーチでの自由時間に、八重女の生徒たちが仲間入りしたことが書いてあったのだ。


『うちの学校って、地元では優秀な学校で通ってるじゃない? だからお嬢様たちにしてみれば、「将来のエリートをGET!」ってことみたいで、あっという間に仲良くなっちゃってね、うちらの出る幕なしって感じになっちゃったの。』


『普段は女子と話さない男子にも、もれなく女の子がついてるっていう状態で、ちょっと信じられない光景だったよ!』


そして、一緒に送られてきた複数の写真は。


その1

バレーボールに興じている12、3人の男女。(菊池くんは写っていなかったけど、栗原くんがいた。)


その2

海に向かって座っている5組ほどのペアの後ろ姿。(誰でしょう?)


その3

見覚えのない女の子たちに、男の子3人が砂に埋められているところ。(これも菊池くんじゃない。)


「菊池くんはいないみたいだよ。」


とカナちゃんが言ったら、ソノちゃんは


「写ってないからって、一緒にいないとは限らないでしょ? みっちゃんが故意に外したのかもしれないし。」


と言った。


なるほど。

数馬くんもあやめちゃんも確認できなかった。

でも、写っていないからと言って、一緒にいないとは限らない。

それに、警戒しなくちゃいけないのはあやめちゃんだけじゃない。桃ちゃんも・・・。




今日は少し早い時間に数馬くんにメールした。

昼間の楽しかったことを早く伝えたくて。

楽しかったから、八重女のことは忘れていた。


そうしておいてよかったと、今は思っている。

送ってしまえば、今日はもう、わたしの役割は終わり。もう携帯を手にとらなくてもいい。


ソノちゃんの様子を見て、忘れていた不安がぶり返している。

今日はまだ数馬くんからのメールは来ていない。


メールが来ても、今日は見なくてもいい。

わたしは、もう今日の役割をこなしたから。



だって・・・怖い。



数馬くんのメールにあやめちゃんと会ったことが書いていなかったら、どうして教えてくれないんだろうと思ってしまう。

だって、わたしとあやめちゃんは知り合いなんだもの。

「旅行先で会うなんて、偶然だよね。」って言ってくれれば、ほっとするのに。

なのに、言わないのは・・・。



だけど。



もし、書いてあったら?

あやめちゃんとどんな話をしたとか、楽しそうに書いてあったら?

あやめちゃんじゃなくても、あのときに会った誰かのことでも。ほかの誰かのことでも。


・・・悲しい。

わたしからメールすることもむなしい気がしてしまう。



だから、今日は数馬くんからメールが来ても、見たくない。


メールは必ず来ると思う。

だって、数馬くんだもの。

もしもあの約束が重荷になったとしても、真面目な数馬くんが、自分から言い出した約束を破るはずがない。


・・・それとも、忘れられちゃう?


ううん、そんなことは絶対にない。

数馬くんを信じてる。



そう。

数馬くんの真面目さを信じてる。

優しさも。



だから、今日も必ずメールは来るはず。

でも、見たくない・・・。




「あ、そろそろ解散かな?」


ああ。

もうすぐ消灯時間?


「明日はいよいよ乗馬だね! たっぷり眠って、万全の体調で楽しもうね♪」


「ソノちゃん、復活した?」


「復活も何も、せっかくの修学旅行なんだから、自分が楽しまなくちゃ! 菊池くんのことなんかで楽しめなくなっちゃうのはもったいないよ。あっちはあっちで楽しんでるんだから。」


あっちはあっちで楽しんで? ・・・ああ、変なことを考えるのはやめよう。


数馬くんはただのお友達なんだもの。

わたしの・・・彼氏(きゃ!)じゃないんだもの。

数馬くんは自由なんだから。


「今日の牛の世話も疲れたねー。宿が温泉なのがありがたいよね。」


「ほんとにね。」


カナちゃんと一緒に部屋に戻ると、携帯が光っていた。

気付かれないように、急いでポケットに入れる。

指摘されたら見ないわけにはいかないもの。


寝る支度をしながら、ポケットの中の携帯が気になってしまう。

こんなに小さなものなのに、なんていう存在感だろう。

気持ちが落ち着かない。

でも、眠ってしまえばきっと大丈夫。


寝るときに脱いだ上着のポケットに携帯を入れたままベッドに入った。

今日は疲れたからすぐに眠れそう。


「おやすみ、カナちゃん。」


「うん。おやすみ、茉莉さん。」


心地よく疲れた体。

心地よいベッド。

眠りはあっという間に・・・。




・・・・・。




眠れない。


眠いのは間違いないのに。

何度もあくびが出るほどなのに。




さっき脱いだ上着。

ポケットの口から規則的に微かな光が。


見たくない。

だけど、眠れない。




・・・見たい。ほんとうは。


数馬くんの優しいことば。

数馬くんが送ってくれる写真。

でも・・・。




やっぱり、見なくちゃ。




お布団の中に隠れて開いた画面には。


『元気そうだね。楽しい報告、ありがとう。あと、広い牧場も。そうそう、きのう送ってもらった知床の紅葉も。』


・・・数馬くん。


『俺たちは今日はカヤックで海を漕ぎまわったよ。虎次郎も一緒だった。天気が良くて、海も空もきれいだった。海に出ている間は写真を撮れないのがとても残念。きっと、茉莉ちゃんが想像していたような海と空だったと思うよ。』


・・・数馬くん。


『俺は日焼け止めを塗り忘れて、肩から腕まで真っ赤になってしまった。顔もすっかりメガネ焼け。帽子はかぶっていたんだけど。』


ふふ。

ちょっと痛そうだね。


『夕方、ホテルの前を通っている遊歩道を歩いていたらちょうど夕焼けの時間になったので、今日も夕焼けの写真を送ります。茉莉ちゃんは一時間半前に見たのかな? あと、昼間の海の景色と。』


うん。

ありがとう。


『景色はどこもきれいだよ。茉莉ちゃんもここで見られたらよかったのにね。じゃあ、おやすみ。明日の乗馬、楽しんでください。数馬。』


数馬くん・・・・・会いたい。

会いたい、会いたい、会いたい。



こんなに優しいことばを送ってくれる。

わたしにきれいな景色を見せたいと思ってくれる。

あやめちゃんのことが書いてあっても、書いてなくても、そんなことはどうでもいい。

数馬くんの気持ちが嬉しいから。



数馬くん・・・大好きです。

一緒に同じ景色を見られたらよかったのに。


でも・・・、それだとこうやってメールをもらう幸せが味わえなくなっちゃうな。

やっぱり、別々で正解?



おやすみなさい、数馬くん。

明日も晴れるといいね。

日焼けした数馬くんに会うのが楽しみです。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ