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メガネに願いを  作者: 虹色
第七章 二人の気持ち
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◇◇ 北海道に来ています。 ◇◇


来た〜〜〜〜〜!!



数馬くんから!

メールが!


すごいよ〜!!

信じられない!!



どうしよう?

同じ部屋にいるのはカナちゃんだけだけど・・・やっぱり落ち着かない。

一人で見たい。

だけど、もう消灯時間まで何もなさそうだし・・・。


「茉莉さん、明日は何を着る予定?」


「え、明日? ジーパンとスニーカーだよ。」


っていうか、それしかない。

乗馬も、酪農体験も、知床自然観察も、全部、ジーパンとスニーカー。

行き帰りと札幌の自由時間は制服だから、スニーカーを荷物の中に入れて来なくちゃいけなかった。

そこにかさばるジーパンを3本入れ、寒いとき用の上着にカーディガンにセーター、中に着るあれこれ、部屋着とパジャマ兼用のジャージ、下着類、洗面用具その他。

スーツケースが重かった・・・。


「やっぱりそうだよね。よかった。」


「どうして?」


「おしゃれな人もいるみたいだから。」


「そうなの?」


「うん。ブーツを持って来た子もいるらしいよ。」


「へえ。」


すごいなあ。

農業系の体験をするための靴もなくちゃならないはずなのに。


「写真も撮るし、やっぱり可愛く見せたいもんね。 ・・・茉莉さん、携帯、光ってるよ。」


「え? あ、・・・ほんとだ。誰だろう?」


気付かれちゃった!

見ないわけには行かないよ・・・。

でも、恥ずかしい!


そうだ。

言い訳しちゃおう。


「あ・・・、啓ちゃんだ。なんだろう?」


「星野先輩? 茉莉さんのこと、よっぽど心配なんだね。早くお返事出してあげた方がいいよ。」


「うん。そうする。」


よかった〜。

これで、怪しまれずに・・・って、なんだか変?




受信リストには・・・「数馬くん」。

名前で呼ぶことになったとき、それまでフルネームで入れていたアドレス帳の名前を変えた。すごくドキドキしながら。

それがこのリストに表示されたのは、まだたったの3回で、今でもこうやって見るだけでも緊張してしまう。


タイトルには『沖縄だよ!』。

まるで、数馬くんの声も聞こえるような気がする。


あれ?

わたし、にやにやしちゃってるかも。


カナちゃんに見えないように・・・ベッドに寝転がっちゃおう。

背中を向けたら、いかにも “何か隠してます” って感じになっちゃうよね。



『茉莉ちゃん、元気で北海道に着いた?』


うん。

元気です。


『沖縄はさすがに温かいよ。今日は戦争の跡をたどって来た。なんとなく厳かな気分になっているときにホテルの窓から夕焼けが見えて、思わず祈ってしまった。何を祈ったらいいのか、よくわからなかったけど。』


数馬くん・・・。


『俺の携帯、あんまり写真は得意じゃないみたい。きれいに撮れてないけど、沖縄の夕焼けだよ。じゃあ、おやすみ。数馬』


いや〜ん。「おやすみ。」なんて!

もう・・・幸せすぎる!!


写真は、街の空に広がる夕焼け。

ピンクとオレンジと紫が、グラデーションというよりもまだらになったような、切ない美しさ。胸に何かが迫ってくるような。

数馬くんの言葉のせい?


わたしも祈ろう。この夕焼けに。

数馬くんと一緒に。

はっきりと言葉にできない何かを。




――― さて。


わたしも送らないと。



写真はもう決めてある。

バスの中から撮った写真。

緩やかな起伏の丘が何重にも続いていて、ところどころに小さな林、そして、青空。空と地面しかない景色。

携帯の画面で見ると、なんとなく小ぢんまりしてしまったことが残念。


ほんとうは、違う景色を送りたかった。

飛行機が着陸する前に窓から見えた景色。

広い、平らな地面に、四角く区切った畑がたくさん広がっている。

“ああ、ほんとうに広いな” って感動して、数馬くんに見せたいと思った。

一緒にいたら、きっと、「ねえ、見て!」って言ったと思う。


でも、飛行機の中では “携帯の電源はOFF” 。

だから、あの景色は数馬くんへのお土産話にしようと思う。

・・・話せる機会があったら。


たった5行くらいの文章を何度も書き直した。

もう30分近く経って、消灯時間を過ぎている。


「――― よし。」


もう一度読み直して、小声で気合いを入れる。

あとは最後の言葉を。


ええと、『おやすみなさい。』・・・・なんか、恥ずかしい。


でも、数馬くんもそう書いてきたよね?

この時間だし、あいさつとして当然なんだけど・・・。


うん。

ほかに思い付かないもんね。

でも、恥ずかしいな。


頑張れ、わたし!

頑張れ、メール!

わたしの気持ちが届き・・・ええと、「好き」っていう部分は除いて、届きますように!



・・・あ。

そういえば。


メールにこんなに長い時間かかるなんて、カナちゃんに怪しまれそう。


カナちゃん、・・・静かだね。

もう寝ちゃった?



隣のベッドを見たら、わたしと同じようにベッドに寝転がって、携帯を見ながらニコニコしていた。

楽しい写真でも見ているのかな?

気付かれなくてよかった!


「カナちゃん。」


「わ!」


急に声を掛けられて驚いたカナちゃんが、携帯電話を落としてしまった。


「あ、ごめん。そんなにびっくりした?」


「あ、ううん、大丈夫。ちょっとぼんやりしてたから。」


「そう? あの、そろそろ寝た方がいいかな、と思って。」


「ああ、うん、そうだね。朝が早いもんね。」


なんとなく慌ててる?

そんなカナちゃんも可愛いな。


「明日は知床だね。けっこうバスに乗るよねー。」


「そうだね。朝が早くてバスの時間が長いって、それだけで北海道の広さを感じるよねぇ。」


「ほんとに。」


時間の長さは写真で伝えられないのが残念だな。






2日目の夜。


数馬くんから送られてきた写真は、きれいな青空を背景にした琉球王朝時代の建物や石垣、そして・・・夕焼けの海!


「きれい!」


いけない!


「どうしたの?」


慌てて口を押さえても遅い。

カナちゃんが不思議そうに見ている。


・・・と、思ったら、いたずらっぽく笑った。


「沖縄からでしょう?」


どき。


「・・・え?」


「とぼけたってわかるよ。茉莉さんはすぐに顔に出るから。」


「・・・そう?」


「何がきれいなの?」


知らないふりをしても仕方ないか。

写真くらい見せても平気だもんね。


「あのね、夕焼けの海の写真。ほら、見て。」


「見てもいいの? ありがとう。・・・わあ、ほんとだ!」


「ね? ピンクと青と水色だよ? 海の色もこんなになるなんてね。」


「日向くん、写真撮るの上手だね。」


「うん・・・、え?! わたし、数馬くんだなんて言ってない・・・のに・・・。」


「そんなの分かるよ! 茉莉さん、わざわざ隠そうとするんだもん。きのうの夜だってそうでしょ?」


ええーーー?!

ごまかせたと思ったのに!


「カナちゃん、これは、その、」



ピンポーン♪



「誰か来た?」


「はーい。あ、ソノちゃんだ。今、開けるよー。」


トランプのお誘い?


「どうし・・」


「茉莉さん、カナちゃん、聞いて! 今、みっちゃんからメールが来たんだけど!」


ソノちゃん、すごい勢い。

こんなに取り乱すなんて、めずらしいね。


「これ見てよ!!」


メール?

いったい何が?


『今日から2泊するリゾートホテルに来たよ〜! そしたらね、びっくり! 八重桜女学院と一緒だったんだよ!』


八重女と?!


『うちらがホテルに着いて、部屋とか夕食の確認をしている間に向こうも到着したの。最初は “女子校だ!” とかちょっと気にしてる程度だったんだけど、八重女だって分かったら、男子がみんなテンション上がっちゃってさあ。』


男子がみんな・・・。


『しかもね、うちの学校の女子は部屋着はTシャツとパンツっていう子が多いけど、八重女はさすがにお嬢様学校だけあって、リゾート用のワンピースとか着てるんだよー! もう華やかなの! びっくりして写真撮っちゃったから送るね!』


写真・・・、売店の前かな。

ほんとだ。

肩を出した色とりどりのワンピース姿が何人も。


・・・ん?


「あやめちゃんだ。」


「誰? 茉莉さんの知り合い?」


「どの子?」


「この、誰かに話しかけてる・・・。」


これって?!


「ち、ちょっと、ごめんね。よく見てもいい?」


「うん、どうぞ。」


小さいからはっきりしないけど、あやめちゃんの視線の先、写真の隅に写ってるのは・・・数馬くん?!

そうだ。間違いないよ。

なんか・・・・・だめ!!


「や、やっぱり、小学校のときの知り合いみたい。」


あやめちゃんが数馬くんに話しかけてるなんて、みんなに言いたくない。


「ねえ、ソノちゃんはどうしてそんなに怒ってるの?」


ああ、そうだ。

カナちゃんが不思議がるのも当然。


「べつに菊池くんが何かしたわけじゃなさそうだけど?」


「菊池くんは何も言って来なかったの。」


「つまり、八重女のことなんか気にして・・・」


「違うよ。気にしてるからだよ。」


え?


「どうして、気にしてると何も言って来ないの?」


「やましいからに決まってるじゃない! 八重女と一緒になって嬉しいことを、あたしに知られたくないんだよ。メールとか電話で話題にすると嬉しいのが隠しきれないから、言わないんだよ。」


話題にすると、嬉しいのが隠しきれないから・・・?


「何でもないなら、教えてくれればいいじゃない! なのに。」


そう・・・なのか。

うん、そうかも。

わたしだって同じ理由で、数馬くんからメールが来たことを、カナちゃんに言わなかった・・・。


「ああ、腹が立つ! 帰ったら、いっぱい苛めてやるんだから! あ、カナちゃん、茉莉さん、みんなでUNOやろうって言ってるの。来ない?」


あ、やっぱり呼びに来てくれたんだ?


「うん、行くよ。」


ソノちゃんと菊池くんって、お互いに信頼しきってるのかと思っていたけど、こんなふうに不安になることもあるのか。

なんだか勉強した気分。



・・・そういえば。



数馬くんも何も言って来なかった・・・。







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