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メガネに願いを  作者: 虹色
第七章 二人の気持ち
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◆◆ 修学旅行のお楽しみは ◆◆


離陸した・・・。


沖縄まで2時間半以上か。けっこう長いな。

新幹線みたいに歩きまわったりできないのが辛いかも。

朝が早かったから、少し眠れるかな・・・。



茉莉ちゃんたちは集合時間がもう少し遅い。

せめて、出発前に会えたらよかったのに。

5日間も顔を見られないなんて。

それに・・・、旅行中に誰かと仲良くなったりしていないか心配だよ。



・・・でも、どうかな?

もしかしたら、 “誰か” じゃなくて、俺と仲良くなったりして。

だって、今回は約束があるから。


毎日、メールするって!


毎日だぞ!

茉莉ちゃんも、だぞ!

すごいじゃないか!



今でもあのときのやり取りを完璧に思い出せる。

それくらい、頭が鋭く働いていたってことかも知れない。


あのとき・・・おとといの帰り、駅に向かう道で。

修学旅行の荷づくりの話題で、茉莉ちゃんが服が多くて大変だと言ったのがきっかけだった。


「俺が沖縄を選んだのは、荷物が少なくて済むっていうのが一番の理由なんだよ。」


笑いながら俺が言うと、茉莉ちゃんが微笑んだ。


「そうなの?」


「うん。茉莉ちゃんはどうして北海道にしたの?」


「え? ええと・・・、その、馬、乗馬が。」


「乗馬?」


「うん、そう、そうなの、乗馬。体験コースの中に乗馬があって、それで。」


「ふうん、乗馬か。いいね。」


「ほんとうはね、少し沖縄の景色も見てみたいなって思ったんだけど・・・。」


「そう?」


「うん。だって、旅行会社のパンフレットに、すごくきれいなビーチの写真があるでしょう?」


「俺も、北海道の広い景色とか自然には憧れるなあ。知床にも行くんだよね? でも、やっぱり荷物がね。・・・あ、そうだ。」


そのとき、俺を見上げた茉莉ちゃんと目が合って、その幸福感で、思い付きが飛んで行きそうになった。


「あ、あのさ、俺、茉莉ちゃんに写真を送るよ。沖縄のきれいな景色の写真を。メールで。毎日。」


いったん逸らされていた視線が、大きく見開かれた目と一緒に戻ってきた。


「毎日?」


「うん。夜に。」


「毎日・・・。」


驚きがおさまらないようだけど・・・、そんなにびっくりするようなことだったのかな?


「それで・・・、もしできたらでいいけど、茉莉ちゃんも北海道の写真を送ってくれたら・・・なんて・・・。」


強引な話の持って行き方だったかな、とは思う。

だけど、旅行のあいだ、茉莉ちゃんと何かでつながっていたかったし、何が起こるのか心配だ。

・・・心配って、つまり、 “俺以外の誰かが” ってことなんだけど。


生徒会では芳輝も北海道に行くけど、さすがに見張ってくれとは言えない。

最近、やたらと俺に情報を流してくれる翔は(理由は考えないことにしている。)、俺と同じ沖縄コースだ。


「わたしも?」


その途端、茉莉ちゃんは真っ赤になって下を向いてしまった。


「うん。ええと、そうしたら、お互いに・・・その、もう一つのコースに旅行してるような気分になるんじゃないかな。」


返ってこない反応に、やっぱり男とメールのやり取りをするなんて、茉莉ちゃんには無理なのかな、と諦めかけたとき、隣でうなずく気配が。

あんまり微かで見間違いかと思ったけど、すぐに小さい声で「いいよ。」と聞こえた。


あのとき、大声を出したり、飛び上がったりしなかった自分は偉いと思う。

空いている手をきつく握り締めただけで、嬉しい気持ちを隠しおおせた自分が。


現地に着くのが楽しみだ。

今日の天気予報は晴れだった。


そういえば、誰と同じグループかって訊かれたっけ。

俺が女子と仲良くなるのを心配してくれてるんだったら嬉しいけど、そんなことあり得ないよな。

きっと、話題がないのが気まずくて思い付いたに違いない。茉莉ちゃんって、そういうことがよくあるから。

でも、もしかしたら・・・?


「日向。なにニヤニヤしてるんだよ?」


隣から堀の声。

頭の中から茉莉ちゃんの姿が消える。


「え? べつに何も。」


堀は茉莉ちゃんが気にしていた同じグループの一人。

俺は、男ばっかりの5人のグループだ。

うちのクラスは女子が少ないから、沖縄行きの女子3人はひとかたまりで、男子3人とひとつのグループになっている。

それ以外のグループは男だけ。


茉莉ちゃん、安心していいよ。

・・・・そんな心配されてないって。


「そんなことないだろ? 何か隠してるだろう?」


「なんにもないよ。」


秘密だ!


「堀。自分だって、今朝、さんざんニヤニヤしながらしゃべってたじゃないか。」


反対の隣から、村井が笑いながら割り込んでくる。

村井も同じグループ。


「今朝? どんなことを?」


「海が楽しみだって。」


「海?」


ああ、茉莉ちゃんと同じか。

呆れられるほどしゃべるってことは、よっぽど楽しみなんだな。


「へえ、そんなに楽しみなのか。たしかに水が綺麗みたいだけど・・・。」


「やめろよ、日向。わざわざとぼけるのは。」


「とぼけるって・・・何が?」


「お前、それ本物か? 修学旅行で海だぞ。しかも、うちは共学だ。楽しみって言ったら、女子の水着に決まってるだろ?」


「女子の水着?!」


「馬鹿! 大声出すなよ! みっともないぞ!」


水着? 女子の?


そうか。

そうだよな。

ホテル前のビーチで遊べる日があるし、マリンスポーツの体験もある。


でも。


「だけど、修学旅行なんだから、水着って言ったって・・・。」


声をひそめて言うと、堀と村井が顔を寄せて来る。


「何言ってんだよ! もしかして日向はスクール水着を想像してるのか?」


「いや、さすがにスクール水着は・・・。」


ないだろうな。

事前の説明会でも「自由」って言ってたし。


「だけど、『派手なものは禁止』って。」


「たしかにそう言ってたよ。だけど、じゃあ、派手な水着の基準はなんだ?」


派手な水着の基準?


「え? あの・・・上下が分かれてるとか?」



バシッ!



え?!

頭を叩かれた?

しかも両側から?


「なんだよ?」


メガネが外れそうになったじゃないか。


「上下が分かれてるなんて、当たり前だ、馬鹿!」


え?


「じゃあ・・・、派手な基準って? 模様か?」


上下が分かれているうえに豹柄とかトラ縞とかだと、さすがに高校生には派手だよな。


「決まってるじゃないか、面積の問題だよ。」


面積?

面積って・・・、え? もしかして、 “隠す面積” ってことか?!


「ええええぇ?!」


「「声が大きい!」」


「そ・・・、それは一体、どれくらいだと派手ってことに? っていうか、どのくらいが普通・・・?」


そういう話だったら “派手” とは言わないだろう? 使わなくちゃいけない言葉は “過激” だ!


「どのくらいが普通かって・・・どう思う、村井?」


「日向が想像しているのがどの程度なのかよくわからないけど、まあ、テレビのコマーシャルに出てるくらいは当たり前ってことだな。」


テレビのコマーシャル・・・。

あんまり見ないけど、あれで・・・普通?

ああいうのって遠い場所の話で、自分に関係があるなんて考えてみたこともなかったけど・・・。


「うちの学校の女子が、ああいうのを着るわけ? 修学旅行で?」


全然、結びつかない!


「お前、興味ないのか?」


「興味ないっていうか、想像がつかない。」


「日向って勉強ばっかりしてて、想像力が育ってないのかな? 俺なんか、今回の一番の目的はそれなのに。」


沖縄って、歴史とか、平和学習とか、自然とか、見るポイントはたくさんあるのに・・・。

まあ、荷物が少ないっていう理由で選んだ俺が言うことじゃないか。


「堀は極端すぎるんだよ。まあ、浜野もいるしな、仕方ないか。」


「浜野? 堀は浜野が好きなのか?」


「やめろよ、日向。もっと小さい声で。」


ふうん。

佐藤もだよな?

っていうか、大勢いるな。


「浜野ってさあ、顔は可愛らしいけど、けっこうボリュームあるよなあ。」


一層声をひそめて、村井が言う。


ボリュームって、おい。


「そうなんだよ。体育祭で応援しながらとび跳ねてたりするとさあ、けっこう胸が・・・」


「おい。俺をはさんでそういう会話をするなよ。」


「なんだよ? やっぱり日向は女子に興味がないんだな。」


「そ、そういうわけじゃ・・・。」


「あれ? 堀は知らないのか? 日向は生徒会の」


生徒会の?!


「村井?! いきなり何を?!」


「え?」


その目つきはなんだ?!


「・・・生徒会の会長なんだから、女子のことなんか考えてる時間がないんだよ。なあ、日向?」


その、「黙っといてやるよ。」みたいな表情はなんだ?!


「まったく、つまんない高校生活だなあ。」


堀・・・、納得したのか?

村井は笑ってるし・・・。


「なあ、トランプでもやろうぜ。」


堀がトランプを探している間に、村井が耳元でささやいた。


「彼女と行き先が別々で残念だったなあ。」



!!



「いや、やっぱりよかったか? 水着姿に注目されなくて済むもんな。」



!!!



水着姿?!

茉莉ちゃんの?!


うわ・・・・・。





堀の気持ちがわかった。


けど。


俺にとっても、別々なのはありがたかったかも知れない。

いろんな意味で。







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